おまけ② 卒業する少女

 夢を見ていた。


『センセ、もしあたしがセンセのこと好きって言ったら、鞍替えしてくれる?』


 中学の頃、家庭教師の先生に向けて言った台詞。


 あの時のことを夢に見ていた。


 いつもよりも険しい顔の先生。

 いつもよりも仄暗いあたしの部屋。


 いつもより、心臓が高鳴るあたしの気持ち。


 無駄なことはわかっていた。

 先生の気持ちが変わることがないとわかっていた。

 あの時の先生は、誰よりも美しく、誰よりも気高く、誰よりも優しく……。


 誰よりも、愛を体現していた。


『……冗談だよ、冗談。真に受けないでよ』


 居た堪れなくなり、あたしは微笑んでそう言った。


 微笑んでいられているのか。

 あたしの顔を悲痛そうに見る先生を見ても、あの時のあたしはそんな疑問を感じることは一切なかった。

 ただ、必死だった。

 堪えきれない思いを隠すことに……必死だった。


 今でも、度々あの日のことを夢に見る。

 あの……憧れだったセンセの、一世一代の告白を、夢に見る。




『渚のことが好きなんだよぉっ!!!』




 灯りが灯る暗いリビングの景色を、廊下と隔てる扉のガラス越しから見ていた。

 センセの肩は、震えていた。


 愛した人を救う。


 その行いに執着するあのセンセの姿を見て、太刀打ち出来るはずがないことを悟った。


 センセと出会って僅か数か月。

 なのに、それ以上の時を歩んできたと思うくらいの情熱的な恋だった。


 センセに頭を撫でられるのが幸福だった。

 センセに喜んでもらえるだけでどんな苦痛にも耐えられた。


『口先だけのお礼より、いつ心変わりするかもしれない謝罪よりも、成果で示してやればいいんだ』


 いつかセンセは、あたしにそんなことを言ってくれた。

 家族に対して劣等感を抱き、誤った態度を示したあたしに、叱るでもなく、慰めるでもなく、成長を促すようにそう言った。

 

 あの日……。


 あたしが親に感じた感情は。

 父に日頃のお礼を込めて成果を出そうと志した気持ちは。

 母に非礼を謝罪したいと成果を捻出しようと奮闘した気持ちは。


 いつしか、口先だけのお礼になり。心変わりした謝罪となった。




 センセに頭を撫でてもらえるのが幸福だった。

 センセに喜んでもらえるだけでどんな苦痛にも耐えられた。




 あたしは、ただセンセに自分の成果を認めて欲しくて勉強を頑張るようになっていた。




 中学卒業まで、センセはあたしの家庭教師を専任してくれた。

 センセの大学卒業とあたしの高校進学を理由に、あたし達の関係は虚無へと変わり果てた。


 その時、あたしはようやく好いたセンセとの浅はかだった関係を知った。

 どこまで行っても、センセは渚ちゃんの物だった。


 あたしは渚ちゃんに、太刀打ち出来るはずがなかったのだ。


 そう悟り……諦めたはずなのに、未だにこうして夢を見る。


 あの日のことを、夢に見る。




 ……多分、あたしは諦めきれていないのだろう。

 ただ……あの憧れだった人のことを、諦めなければならないのだろう。


   *   *   *


 悴んだ手が寒かった。

 外は一面雪化粧。都心に降った大雪は首都の交通網をマヒさせて、たくさんの帰宅難民を生み出す一大騒動となっていた。

 ただそう言っても、今地面に積もる雪はあたしのローファーの靴底程度の高さ。その程度でここまで大騒ぎになる都心の設備の脆弱さに辟易とさせられる思いだった。そしてその思いは、そんな達観している癖に例に漏れず帰宅難民と化した自分の現状を思い出すと、一層嫌な気持ちをあたしに与えた。


 電車が止まり、早く復旧しろと余裕もなく罵詈雑音を浴びせる乗客がポツポツと現れだしていた。

 自然災害の影響にも関わらず、当たる相手を間違えていやしないだろうか。

 そういう人達を見ていると、人間の愚かさ、醜さ、そして非道さを目の当たりにさせられた気分になる。

 そして、そう思い不快になっているあたしも、その人達同様に苛立ちを持ち、人間の醜さを体現しているのだろうと悟ると、一層不愉快な気持ちになるばかりだった。


 そんな時、あたしのスマホを鳴らしたのは父だった。

 父の働く病院は、あたしがセンセの教えの末合格した高校の目と鼻の先だった。父はいち早くあたしが帰宅難民と化しただろうことを察知して、あたしに病院に来てくれたら一緒に車で帰れることを提案してくれたのだった。


 あたしが父の提案に乗るのは当然の流れだった。

 込み入った駅を逆走し、ビル風も相まって強風吹き荒れる駅外へと飛び出した。


 周囲の流行りに乗り、二回折にしたスカートがあたしの生足を冷やした。こんなことならもっと防寒対策を施してくれば良かったと後悔した。恨むべきは朝の天気予報で今日は一日快晴になると誤報をした女キャスターだろう。

 その人もただ台本を読まされただけであることは明白で、やはり今の自分が気が立っていることを察して、あたしは自罰的に俯いて父の働く病院への道を歩いた。


 父の病院に訪れる機会は多くなかった。

 病院に訪れる機会が少ないイコールそれだけ健康体の証であるとも言える。ただ父の職業を鑑みるとあまり褒められたことでもないような気がするのは、誰かが教えてくれた両親への恩義をあたしがキチンと持ち続けているからなのだろう。


 ……センセとは、中学卒業以降は疎遠になった。高校入学し、今年もう少しであたしもあの学び舎を卒業するが……実に三年近く再会していないことになるのだ。

 元より家庭教師と生徒という身であったあたし達なのだから、センセの雇用が切れた時点で疎遠になるのは至極当然だった。


 センセとの思い出はたくさんある。

 どれも楽しい思い出ばかりだった。


 でも今となれば、その楽しい思い出を更に刻むことが出来ないことが、あたしを苦しめる一端となっているのだろう。


 センセへの好意を諦めきれていない。

 センセに教えてもらえたこと。

 センセに優しく叱られたこと。


 今でもあの日のことを思い出し、あの日に戻りたいと思う気持ちがある。

 どれだけ友人と遊んでも。

 どれだけ勉強をしても。

 どれだけ部活に打ち込んでも。


 結局、センセへの想いを断ち切ることが出来ずにいた。


 たまに、思う。


『センセ、もしあたしがセンセのこと好きって言ったら、鞍替えしてくれる?』


 もしあの時、冗談めかすことをしなかったら。

 もしあの時、微笑むことをしなかったら。

 もしあの時、センセをもっと困らせていたら。


 あたしは今、どうなっていたのだろう。


 多分……いいや、これだけははっきりしている。


 センセは、渚ちゃんを選んだ。

 あたしではなく、渚ちゃんを選んだ。


 それは間違いない。

 そんなセンセだから……あたしはセンセのことが好きになったのだから。

 センセは、誰よりも美しく、誰よりも気高く、誰よりも優しく、誰よりも愛を体現していたから。


 そんなセンセが裏切り行為に走るはずがないんだ。

 多分センセは、自らの命が尽きるその時まで渚ちゃんだけを愛したことだろう。


 だから、あたしが思ったことはそんな話ではなかった。

 あたしが思ったのは……あの時、キチンとセンセに振ってもらっていれば、ここまで尾を引くことがなかったのではないのか、と言う話だった。

 あの時冗談めかさず、センセに一思いに断ち切ってもらっていれば……。


 あたしはこんなにも、辛い思いをしなかったのではないだろうか。




 答えは出なかった。

 ただ悶々とした気持ちだけが残った。


 このままではきっと父に当たる。

 そんな行い、誰も望まない。

 父も。あたしも。母も。


 そして、そんなことがあったと知ったらセンセだって悲しむだろう。


 そんなことしてはいけない。

 もうまもなく病院に着く。だけど真っすぐ父に会うのは躊躇われた。気持ちを落ち着かせたかったのだ。

 恩義を持つ父に優しく接するため、気持ちを落ち着かせたかったのだ。


 病院に入り、どこかで時間を使おうと思った。

 さっきまでいた駅はあんなにも罵詈雑音で騒がしかったのに、父の働く病院はここが異世界だとでも思わせるくらい物静かだった。

 アルコールの香りが鼻についた。ようやくここが、表向きは天国のように静かでも、裏では人が生死を争う場所であることを思い出させた。


 そしてあたしは……思い出した。


 あたしが今強い後悔を抱くその人の最愛の人は……。




「……あ」




 今も、生きるために奮闘を続けていることを。

 

 ほんの偶然の再会だった。

 中学を卒業し、それからずっと疎遠になった。高校に入学し、あたしはもうすぐそこを卒業する。だから実に三年ぶりの再会だった。


 先に、声をかけたのは、


「あれ、菜緒?」


 センセ、だった。


「……こんにちは」


「こんにちは。……どっか悪いのかい」


 何て声をかけて良いのかわからずぶっきらぼうな挨拶をしたら、センセはあたしの体を労わってくれたらしかった。


「別に。雪で電車止まったから、お父さんの車で帰ろうと思っただけ」


「そっか。それなら安心した」


「……そういうセンセは……聞くまでもないか」


 聞くまでもない。渚ちゃんのことだろう。

 それにしてもスーツ姿のセンセは、三年前最後に会った時よりもセンセを大人に見せているように思えた。追いつけないと当時思ったセンセが、一層遠くに行ったような気持ちになった。


「渚ちゃんの容体はどう?」


「最近すこぶるいいよ。この前まで目を開けることさえ億劫そうだったのに、最近ではペンを持てるくらいに回復した」


「……そう」


 邪な感情が、あたしの脳内を駆け巡った。必死に闘病生活を続ける渚ちゃんに、こんなことを思ってはいけないのだろう。

 

「それにしても本当に久しぶりだ。三年ぶりくらいだろう。随分大きくなった」


「そうかな。ただまあ、センセ、よくあたしがあたしだってわかったね」


「なんで?」


「あたし、成長もしたし……化粧もしてる」


 思えば、即センセにあたしのことを言い当てられたことが嬉しいような、腹が立つような。複雑な気持ちだった。


「わかるよ」


 ……どうして?

 聞こうと思ったが、聞きたくなくなって、あたしは俯いた。


 思えば、あたしはセンセとの再会を望んでいたのだろうか。

 あれほどまでに過去のセンセとのことで深い後悔をしているのに。

 今、実際に三年ぶりにセンセと再会を果たして、素直になれずにいる自分に気が付いた。


 あの日の後悔を払しょくすれば楽になれるのかもしれない。

 そう思った癖に、一歩を踏み出せないでいた。


 気付けばあたしは、一刻も早くセンセの前から立ち去りたい欲望に駆られていた。

 どうしてそう思ったのかはわからない。でもそう思った。そう思ってしまった。


「……じゃあ、あたしそろそろ」


「え、もう行くの?」


 名残惜しそうにセンセが言った。少し良心が痛んだ。


「うん。お父さん、待たせても悪いし」


「え? でもおじさん、今日はこれから大変なんだって、さっき渚と俺と話す時に与太話してたけど?」


「……え?」


 慌てて、あたしはスマホを見た。

 見ればスマホには、父のメッセージが一件入っていた。


『後一時間くらい時間潰しててくれ』


 いや、長いよ。

 それだけの時間待っているなら、電車も復旧したのではないだろうか。


「……ジュースくらいなら、奢るよ?」


「……うん」


 まだ高校生の身であるあたしは、一時間潰すのに十分なくらいの時間潰しの術も費用もなかった。

 だからただ。

 ただあたしは、センセのご厚意に甘えようと思っただけなのだ。


 センセが連れて行ってくれたのは、病院の最上階にあるレストランだった。ファミリーレストランよりは殺風景で、個人経営のレストランよりはチープな、そんなレストランだった。


「お腹空いている?」


「んーん。ダイエット中だから」


「無理なダイエットは駄目だよ。今でも十分細いんだから」


「うるさいなあ」


 父や母に子供扱いされるのと同様、センセに子供扱いされるのも面白くなかった。ただそれは多分、父や母に抱く感情とは少し違った。

 センセが店員を呼びつけて、オレンジジュースとコーヒーを注文した。なんだか腹いせしたくなったのは、センセがあたしの飲み物を勝手に決めたからなのだろう。


「センセ、あたしコーヒーもらうから」


「え、だって菜緒。前まではオレンジジュースが愛飲料だったじゃないか」


「大人になったの」


 昔のことを覚えていたくれたことが嬉しくなりつつ、それでも子供扱いされているという認識で不貞腐れたようにそっぽを向いた。

 ジュースはそれからしばらくしてやってきた。無理やりコーヒーを受け取ると、センセがオレンジジュースを見て苦笑していた。


 ……いつもは、ガムシロップとミルクを入れる。

 だからブラックのコーヒーは酷く苦く感じた。


「……意外に旨いな」


 そんなあたしに反して、オレンジジュースを美味しそうに飲むセンセに腹が立った。


 なんとかこの男を一杯食わせたい。そんな腹いせをあたしは画策し始めたのだった。

 その時、ふと気付いた。

 そういえばスーツ姿のセンセのジャケットの内ポケットから、白い紙が微かに見えているのだ。


「えいっ」


「あ、こら」


 センセの鼻を明かしてやりたい。

 些細な仕返しをしてやりたい。

 ただの逆切れなのに、あたしはそんな感情からセンセの秘密を抜き取り、そして心臓を掴まれたような衝撃に駆られた。


 センセがジャケットの内ポケットに秘めていた紙。


 それは、封筒だった。






『遺書』と書かれた封筒だった。






 目が白黒とした。

 センセが遺書。死ぬつもりなのか。はたまた……。


 思い付く答えが一つあった。


「子供が見るもんでもない」


 子供扱いされたのに、文句の句は出てこなかった。


「……渚ちゃん?」


 それを書いた人を尋ねたつもりだった。

 センセは一旦天を仰いで、呆れたように苦笑した。


「そうだよ」


「調子良いって言ってたじゃない」


「ああ、今はすこぶる良い。だから今書くんだって息巻いてさ。嬉々として目の前で書き始めて、楽しそうに、はいこれ、と押し付けてきた」


 さっき、センセは言っていた。

 一時渚ちゃんは、ペンを握れないくらいに衰弱したと。


 だからこそ、書ける内に書いたのだろう。




 合点がいった。


 だけど、一つ納得がいかなかった。


「なんで受け取るのよ」


「ん?」


「こんなもの、受け取れないと突っぱねなさいよ。最愛の人は死ぬはずないって突っぱねなさいよっ!」


 ファミリーレストランよりは殺風景。

 個人経営のレストランよりはチープ。

 そんなレストラン内にあたしの怒声はよく響いた。幸いにも他の客はおらず、声に驚いた店員が不安げにこちらを見ているだけだった。


 ただあたしは、納得できなかった。


『ただ、彼女と一緒にいたいだけなんだ……』


 ……センセは。

 父に向けて、そう言った。最愛の人と一緒に入れるならそれ以外はいらないとさえ言い放っていた。

 そんなセンセが……渚ちゃんの死を暗示するこんなものを受け取ったことが納得できなかった。信じられなかった。


 だって……。


 だって、センセは……。


 センセは、誰よりも美しく、誰よりも気高く、誰よりも優しく、誰よりも愛を体現していたから。

 

 渚ちゃんのことを愛していたから。

 渚ちゃんと一緒に生きたいと言っていたから。


 ……たった五年で。

 たった五年で心変わりしたとでも言うのだろうか。


 あのセンセが。

 あたしの憧れのセンセが、変わってしまったと言うのだろうか。


「菜緒、これだけは言っておくよ」


 センセは……優しい微笑みをしていた。




「渚は、死なないよ」


 


 いつか難問を解くのを手ほどきしてくれた時に見せた……変わらない笑みを見せていた。


「だったら、受け取らなければいいじゃない。こんなものっ」


「遺書を受け取らないことで渚が生き永らえるのかい?」


 言われて、あたしは何も言えなくなった。




 そんなはず、ないのだから。




「……遺書を受け取ろうが受け取らないでいようが、寿命が来たら人は死ぬ。今が元気だろうが元気じゃなかろうが、寿命が来たら人は死ぬ。

 だったら、それをしないことは彼女を生き永らえさせる術ではなく……ただの逃げなんだよ」


「……逃げ?」


「うん。受け入れて、最善を尽くして……そうして、いつか来る別れの日までたくさんの思い出を作るんだ。後悔しないように。

 逃げたら、きっと後悔する。

 ……俺はたまたま、それを良く知っていたんだよ」


 ……苦笑するセンセを見て。

 困難に立ち向かうセンセを見て。


 最愛の人と愛を育む、センセを見て。




 自分のここ数年を、あたしは振り返っていた。


『センセ、もしあたしがセンセのこと好きって言ったら、鞍替えしてくれる?』


 好いた人への好意を伝えることに勇み足になって。


 悶々とした日々を送って。


 あの日、どうしてあんなことをしたんだろうと後悔して。




 そうだ、あたしは後悔していたんだ。


『……冗談だよ、冗談。真に受けないでよ』


 居た堪れなくなり、冗談めかして……傷つくことを恐れて逃げたことを後悔していたんだ。


 あの時、センセに自分の好意を伝えればセンセを困惑させたかもしれない。

 そんな思いがなかったわけでもない。

 でも、それでもセンセに思いを伝えるべきだったんだ。


 ……だって。


 だって、あたしのセンセは。

 あたしがたくさんのことを教えてもらったセンセは。




 あたしが好いたセンセは……!




『彼女と一分一秒でも永く一緒にいれるなら構わないっ。誰に恨まれようと、誰に蔑まれようと構わないっ!

 ただ、彼女と一緒にいたいだけなんだ……』




 大切な人と一緒にいるために、覚悟を決めていたではないか。

 周囲に恨まれようと蔑まれようと……彼女と生きる覚悟を決めていたじゃないか。




 自分の願いがあるのなら。

 自分の叶えたい夢があるのなら……!


 自分の望む未来があるのなら!


 


 逃げ出さず、ぶつかるべきだったんだ……。




 センセは……宗太さんは、


「ねえ、センセ?」


 きっと、逃げ出さずにぶつかってくれただろう。


 あたしにどう思われようと構わないと、ぶつかってくれただろう。


 それこそが……、




「ずっと、好きでした」




 あたしの憧れた……櫻井宗太さんなのだ。


 宗太さんは最初驚いた顔をしていた。だけどあたしが本気であることを理解すると、逡巡して少ししてごめんね、と頭を下げた。

  

 そして、涙をこぼすあたしの頭を撫でてくれた。


 いつか、そうしてくれたように。


 優しく。

 男の人の大きく固い手で。




 あたしの頭を撫でてくれた。




 不思議な感覚だった。


 涙を流しているはずなのに。

 それなのに、清々しい気持ちだった。


 中学を卒業して、疎遠になった。

 高校もまもなく卒業するから、実に三年近くも疎遠になった。


 再会を果たして、ぶつかって……。


 ようやくあたしは、この人から卒業出来たんだろうと、そう思った。

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