No Title <not anyone>

椿レイ

第1話

2005年4月13日

「元気な女の子ですよ」

ある部屋に響いた医者の声、この日一人の女の子が誕生した。


 この物語の主人公、結城風華。


 小さな頃は明るく元気なはつらつとした女の子だった。同じ保育園の男の子と遊んだり年上の女の子に可愛がられたりそれはそれは楽しい日々を送っていた。


 なんでも頑張れば褒めてもらえると思いとにかくなんでも一生懸命頑張った。その度に先生たちから

「風華ちゃんは頑張り屋さんだねえ」

と褒められその度にとても嬉しい気持ちになった。


 小学校に入ってからも明るく元気で正義感の強い女の子だった。ある時までは。

 保育園から仲が良かった男の子は私の短い初恋だった。その男の子はいつもマイペースでのんびりしている落ち着いた子だった。彼のその暖かさや時々出る面白いところが好きだった。


 

 ある日、その男の子がある女子グループに詰め寄られているところを見かけた。男の子はいつもそのグループのある女の子から怒られていたのでまた怖がらせているのかと悲しい気持ちになった。最初は静かにその場にいたけれど、その男の子が理不尽な理由で問い詰められているのが可哀想で咄嗟に男の子と女の子たちの間に割って入って

「やめてあげなよ!」

そう一言言い放った。言葉は威勢が良くても心臓は大きく脈を打っていた。


 すると、遠くに座っていたボス的な女の子が鋭い一言を言い放った。

「あんたには関係ないでしょ」

 その時、まるで雷に打たれたかのように世界が変わった。鮮やかなフィルターが一瞬でグレーの世界に変わってしまったのだ。その時、もうすでに緊張状態だった私はその言葉に言い返すこともできず静かに自分の席に座った。


 これが私の中で女は恐怖の対象と認識した一つのトラウマである。


 そこから先の小学校生活はなるべく目立たぬように影で生きていた。それでもちょくちょくいじめられることはあった。けれど自分が悪いわけではないことはスルーできていた。


 小学校六年生の時、尊敬する先生に出会った。その先生はチャレンジ精神を大事にしていて苦手なこともできるところだけでも頑張るようにアドバイスし、応援してくれた。その先生のおかげで私の中で少しづつ明るく表向きな性格が出てきた。陰口を叩かれたこともあったけどとても楽しい一年になり私の中で黄金の記憶になった。



 中学校に入ると小学校から続けて合唱部に入部した。中学受験をして入ったため頭の良さそうな子達がたくさんいた。カリスマ性がすごい先輩もいて少し怖気付いていた。


 そんな中でも心機一転頑張ろうと思っていたのだが、勉強と友達関係と部活、まあほぼ全部でストレスが溜まり、元々の小学校からの影響や今までの家庭環境もあってか中学二年生の夏休み明け最初の日、「地獄」の始まりが幕を開けた。


 8月26日。この日から学校に行けなくなった。否、行かなくなった。私にとって短くも長い中学校生活だった。この話はまた別の機会に取っておくとして、体感としては今までで一番短かったけれど良くも悪くも重めの学校生活を過ごした。


 そして高校。本当は中高一貫の学校だったからそのまま進めば良かったのだが流石にそんな勇気はなかったためネットの高校に進学した。友達もできたがなんとなく遠い感じで。少し後悔したこともあった。


 ここまで見たらなかなかに暗い学校生活のように思える。そんな中での高校一年生のある日、人生が変わる出来事が起きた。


 

 十六歳、年も明けて少し経った三月の初めのある日、私は韓国に来ていた。母と二人で韓国旅行の計画を兼ねてからしていた。憧れの韓国、なんとか話せるようにと少しだけ韓国語も勉強して行った。正直な感想、料理も美味しく案外優しい人たちも多くてそれだけで楽しい思い出でいっぱいになっていた。


 そんな時、ある事務所が目の端に留まった。まだできたばかりなのか聞いたことも見たこともない建物だった。人がいる気配もしなかったが、玄関ドアに貼ってある貼り紙が目についた。

「女性アイドルになりたい人!ぜひこの場所でその夢を叶えませんか!」


 よくあるようなキャッチコピーで書いてあるその貼り紙。どこにでもありそうな感じなのに何故か目が離せなかった。


 するとある女の人に声をかけられた。女の人は韓国人で何を言っているかほぼわからなかった。キョトンとしていると韓国語がわからないことに気づいたのかジェスチャーを使って説明してくれた。その中の一つの言葉が私の脳裏に焼きついた。


「ア・イ・ド・ル!なりませんか?」

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