今さら、いせにほの一話からシャリヤさんがリパライン語を解説してくれるわけがない!?

Fafs F. Sashimi

プロローグ 翠だけでは意味がない


「おい、分かったか? リパライン語やんだよゴラ」

「えっ」


 戦争も去り、平和な昼下がり。食後のほわほわとした時間を過ごしていた八ヶ崎翠こと俺は耳を疑った。

 目の前の少女――アレス・シャリヤは今、なんと言った? 理解が追いつかなかった。


「んだよ、あらすじ読まなかったのか」

「えっえっ」

「さっさと起きやがれ、ったく。何ソファに寝転がってんだ、テメエ」

「いや、あの」

「テメエがリパライン語を理解すんのは良いがな。読者が速すぎるって言ってんだよ」


 シャリヤは仁王立ちでこちらを人差し指で突き刺した。さっぱり何も理解できない。


「ど、読者ぁ……?」

「ああ、そうだ。ケッ、しかしどうしてアタシがこんなことを」


 ぶつぶつぶつぶつ。銀髪碧眼クール少女という感じの様でそんなことを言われても困ってしまう。

 いつも可憐で大人しく、賢くて綺麗な彼女の言葉遣いとは思えなかった。いや、その前にシャリヤが日本語を喋っていることからしてオカシイ。一体どうなっているのだ。


 俺はとりあえずソファから起き上がって、シャリヤに焦点を合わせてじっくりと見た。

 銀髪は陽光に撫でられて美しく煌めいている。瞳はアクアマリンのような蒼色だ。フェリーサのように赤く変色している様子はない。オカシクなっているのはどうやら中身だけらしい。

 シャリヤは居心地悪そうに体を斜めにした。


「あんだよ、ファークなんかやってねえよ」

「ファーク……?」

「ヤクだよ、ヤク。アブいおクスリって言ったほうが良いか」

「いや……」


 ため息を付いた。まさか、シャリヤの口から「ヤク」なんで言葉を聞こうことになるとは。人生何があるか分かったものではない。

 しばらくすると混乱した精神が落ち着いてきた。


「で、なんでいきなり日本語が話せるようになったんだ」

「大人の事情だ」

「大人の事情」

「まあ、みどりはガキだからな。もっと大人になれよ、くふふw」

「なんだこいつ」


 というか、俺の名前はみどりじゃなくてせんだ!

 余計な知恵が付いたせいで変な間違え方をしやがる。

 俺は咳払いをしてから、シャリヤの顔をもう一回見た。相変わらず黙ってれば、端正な顔立ちをしている。俺、冷静になれ。シャリヤがガラの悪い元ヤンみたいな喋り方をしていたとしても彼女に立てた誓いは今でも変わらない。

 それに日本語が話せるようになれば、これまで以上にリパライン語の理解も促進されるはずだ。

 ふと窓の外を見る。レトラの街を走り回りながら遊んでいるケープを着た少女はフェリーサだ。聞こえてくるのは日本語ではなく、リパライン語の喧騒だ。日本語を話せるようになったのはシャリヤだけのようだった。

 あ、フェリーサ、石ころに足を取られてぶっ転んだ。盛大に顔から行ったぞ、顔から。可哀想に。


 こほん、と一つ咳払いをしてシャリヤのほうに視線を戻した。


「じゃあ、シャリヤ。まず、何から教えてくれるんだ?」

「一話からやっていく」

「一話……?」


 良く分からないが多分出会った当時から解説してくれるらしい。言葉遣いに反して懇切丁寧で驚いた。

 期待に心を満たしながら、俺は彼女の次の言葉を待った。



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