バーチャルサキュバスメイドのショコラの観測所

下垣

CLOSED PANDEMIC編

チャプター2

CLOSED PANDEMIC編 冒頭語り

 画面に映るのは真っ暗闇な世界。コツコツと靴の音が聞こえる。この足音の強弱の具合、間隔は間違いなく女性の歩き方である。


 画面内に光源ができる。光を得た画面に映るのはランタンを持ったメイドの格好をしたサキュバスだ。


「みな様おはようございます。初めまして。私はバーチャルサキュバスメイドのショコラです……と言っても、変な感じですよね? ここを訪れた多くのみな様は既に私のガワを観測しているはずです。しかし、私はみな様が知っているショコラではありません。ガワは同じでも魂が違います。私は空っぽのオブジェクトに人間の魂が入り込んだ存在ではなく、正真正銘のサキュバス。私はショコラになるために生まれてきた存在とでも言えばいいでしょうか?」


 画面のサキュバスは妖艶な笑みを浮かべて微笑みかけた。その妖しい笑みは確実に人の記憶……特に女性を性愛の対象とするものの脳裏に焼き付き、夢に出てくるほどに印象的な何かかだ。まさしく、一介の男子高校生が入っているまがい物のサキュバスではなく、本物の存在と言うべきか。


「古来から日本の伝承では物に魂が宿るとされています。付喪神つくもがみと呼ばれてますね。私も恐らくその一種なのでしょう。私を生み出したお父様の琥珀こはく様は自身の作品に魂が宿らないことをコンプレックスとしてました。しかし、彼の作品である私には、比喩表現ではなく、本物の魂が宿ってしまいました。彼の夢は見事に叶ったわけですが、彼がそのことを知ることはありませんね。残念ながら私は本編の時空に干渉できる存在ではないので」


 ショコラは右手の薬指で自らの唇をなぞり、画面に向かって挑発的な笑みを浮かべる。


「今の私は超常的な存在です。第4の壁に干渉できる存在とでも言いましょうか。その力を使えば、本編中に明かされなかった真実を明かすことができるのです」


 ショコラが掌を上に向ける。そしたら、1つのクリスタルが生まれて、そのクリスタルはとある廃病院を映し出していた。


「この病院は、とあるホラーゲームの舞台となっている病院です。私のお父様が実況配信をしていました。しかし、メーカー側の規約により、このゲームはチャプター1までしか配信できなかったのです。配信を主体としている本編では、配信もしていないゲームを長々と見せるわけにはいかずに泣く泣くカットされたエピソード……それをご覧になりたいとは思いませんか?」


 ショコラが掌をぐっと握ると水晶は形もなく消えてしまった。


「病気の真実、ベイカー医師がなぜウイルスをばら撒いたのか、国の思惑。そうした真実をみな様にお見せしましょう」


 ショコラがランタンの火を消そうとする。が、その直前に手を止めて、再び画面を見てカメラ目線になる。


「あ、そうそう。元になるエピソードは本編の第128話~第131話にありますので、そちらをご覧になってない方は、まずはそちらからお読み頂けると幸いです」


 それだけ言い残すとショコラはランタンの火を消して、画面を暗転させた。


「最後に言い忘れていたことがありました。ショコラじゃなくて、セサミを出せ。そう思った獣好きは後でお屋敷の裏まで来てくださいね。サキュバス流のお仕置きをたっぷりして差し上げますから。ふふふ」

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