最終話 この両手に繋がる、大事な絆。
「もう……どうしてネクトさんはそんな無茶をするんですか……」
もはや住み慣れたと言っていい、キコリーフにある小さな家。
その家主であるネールさんはアイスブルーの瞳を涙で
「ゴメンね、ネールさん。でも、僕は……」
「分かってます。貴方が他人を見捨てられない、馬鹿みたいに優しい人だってことは」
あはは、馬鹿って言われちゃった。
でもネールさんの言葉に愛と優しさが溢れていることは、僕だって分かってる。
「いたたた……」
笑うと魔王にやられたお腹の傷に響くなぁ。
でもこのズキズキとした痛みは、僕が生き残った証拠でもある。
ハラハラ大砂漠にできた新ダンジョンに、新たな魔王が現れた。
その
本当はサウスレイクにいるノーバディのみんなにも応援を頼みたかったんだけど、それはしなかった。
その理由は、なによりも時間が惜しかったから。
前回の魔王であそこまで被害が拡大したのは、初動の対応の遅さだったからね。
時間を掛ければかけるほど魔王の力は増すし、手下が増えて手が付けられなくなる。
だからまだ被害が出ていない今、僕が倒しに行くしかなかったんだ。
「ノエルさんもノエルさんですよ! こんな傷だらけになるまで、どうして彼を放っておいたんですか……」
「アタシに言わないでよ……ネールだって、本当は分かっているんでしょ? アタシが何かを言ったところで、ソイツは聞くような奴じゃないわ。……そういう男なのよ、ネクトって」
ノエルは呆れ過ぎて僕の顔も見たくないのか、窓の外を眺めたまま淡々と喋っている。
でもさすがは僕の幼馴染だ。長い付き合いなだけあって、良く理解してくれている。
それに……僕のことを見捨てずに叱ってくれるのは、ノエルだけだ。
「でもネールさん。この包帯の量は、さすがにやり過ぎなんじゃない?」
「……知りません。ぜーんぶ、ネクトさんが悪いんですからね!」
「痛いっ!! 脚叩かないでっ!?」
頬っぺたをぷくーと膨らませたネールさんがペシっと僕の足を叩いた。
僕は今、ベッドの上で包帯グルグル巻きにされて、ピクリとも動けなくなっている。
ボロボロの状態で帰還した僕を見て驚いたネールさんが、あっという間にこんな状態にしてしまったのだ。
「ふふふ……」
だけどこれはネールさんなりの愛情だ。
それが嬉しくって、僕の口角は自然に上がってしまう。
「私、前に言いましたよね? ネクトさんが無事に帰ってきてくれさえすれば、私はそれで良いって」
「うん。覚えてるよ」
「別に私はネクトさんが英雄じゃなくたって……こんなにも愛しているのに……」
遂にネールさんの涙腺が決壊。大きな瞳からポロポロと涙を落とし始めてしまった。
うう、そんな泣かないでよネールさん。
「ネールはまだ聞かされていないと思うけど。コイツのスキルの
ノエルの言葉に、ネールさんは「えっ?」と驚いた。
ネールさんは僕の能力のことを断片的に知っている。それに元冒険者だけあって、その強さも分かっている。
だけど、僕も能力の全てを言ったわけじゃなかった。
「ちょっと、ノエル? 余計なこと言わないでよ」
「いいえ。もうネールだって私たちの家族なんだから、ちゃんと説明するべきよ。魂にコードを直接繋ぐってことはね……
ノエルは僕の制止も聞かず、勝手に僕のスキルをネールさんに話し始めてしまった。
「友達を救いたい。家族を守りたい。そんな良い想いばかりじゃないわ。苦しみ、痛み、悲しみ。そして魔王が持つ、想像を絶するほどの“世界に対する怒り”。そんな感情ばかりを、ネクトは直接自分の魂に結び付けているの」
「そ、そんなことを……! じゃあ、ネクトさんは……!?」
「とっくの昔に、心なんて壊れているわ。ネクトは前回の魔王大戦の時に言っていたわ。一番役に立った両親の教えは、人を騙す術だって。……でもね。ネクトは私達だけじゃなく、自分の壊れた心まで騙しているのよ」
ノエルは酷いなぁ。人をそんな、詐欺師みたいな言い方しなくたっていいじゃないか。
「だから放っておけないのよ、ネクトは。コイツは困っている人がいれば、自分を
うっ、恥ずかしい。
僕は別に、自分がそうしたいからやっているだけなんだし。
勇者だなんて大層な名前は、僕には似合わないよ……。
「ついでだからネクトにも、正直に言っておくわ。……アンタを国を追放したのはね。王様とノーバディのみんなで仕組んだことだったのよ」
「えっ? それってどういうこと、ノエル!!」
僕がサウスレイクの国を追い出されたのは、王女様にえっちなことをしたからだって言ってたのに!?
「あの国にいつまでもいたら、アンタはいずれ第二の
ノエルは視線を落としながら、
まさか、そんなことが僕の知らないところであっただなんて……。
気付けばノエルの目にも涙が溜まっている。
彼女も本当はこんな事は言いたくは無かったんだろうな。
でもね、ノエル。僕は……。
「分かってるわよ。結局、アンタはどこへ行ってもアンタのままだったわ。今もこうして、ネールや国の為にまた戦って、こんなにも傷付いてる。だからもう、アタシはアンタのことはキッパリ諦めたわ」
「ノエルさん……」
はぁ、と溜め息を吐き、首を横に振るノエル。
ネールさんもノエルの苦悩が伝わったのか、言葉を失ってしまっている。
……あはは、呆れちゃったよね。こんな面倒な奴、嫌いになったっておかしくないもん。
ショックだけど、仕方がないか……。
「あぁ、勘違いしないでよ? アタシがアンタを手放すわけがないじゃない」
「「……え?」」
「……は? アタシのしつこさを舐めんじゃないわよ」
え、だって諦めたって言ったのはノエルじゃなかった?
だけどノエルは何を言っているのと逆に驚いた顔をしている。
いや、驚いているのはこっちなんだけど……。
「諦めるのは、アンタを縛り付けることの方よ。それに忘れたの? アンタの
「……へ? あい?……って愛情の愛ですか?」
予想外の展開にベッドの上でポカン、とする僕。
そんな僕はそっちのけで、ノエルは言い切ってやったとドヤ顔をしている。
「あの、それってどういう「そうですね!! その通りですノエルさん!!」……ネールさんまで?」
急にテンション高く椅子から立ち上がったネールさんは、ノエルの手をパッと取った。
そしてノエルと同じ表情で僕を見下ろしてくる。
「私たちで、ネクトさんの心を守り、癒すのです。魔王の怒り? そんなもの、乙女の愛に比べたら赤子の
「まさにその通りよ、さすがはネールだわ!!」
え、ちょっと……二人ともどうしちゃったの??
僕ついていけてないんですけど!?
「そうだ、アタシたちの愛の結束をさらに固めるためにも、この機会に結婚するのはどうかしら?」
「え、ノエル待って。結婚って僕たちがだよね!? それはまだ早いんじゃ「ノエルさんは天才ですか!?」あ、駄目だこりゃ!?」
こっちの話なんて聞いてやしないよこの二人!!
すっかり盛り上がってしまったノエルとネールさんは、傷病人である僕を放ったらかしで部屋から出て行ってしまった。
去り際に式の会場がどうのとか、誰を呼ぶだとか二人で楽しそうに会話をしながらだ。
あの調子だと、結婚式の予定を立てるつもりなんだろう。
止めに行きたくても、僕は包帯でグルグル巻きで動けない。
「……はぁ。これじゃ先が思いやられるよ……」
でも僕は不思議と、温かい気持ちになっていた。
それは
「元気になったら、王様からご祝儀貰いに行かなくっちゃだね」
――1か月後。
僕はこのキコリーフの国に来て、僕は可愛くて怖い、二人のお嫁さんをゲットした。
サウスレイクを出た時に思い描いていた未来とは、なんだかちょっと違う気もするけれど……
「ネクト!! 愛してるわ!」
「ネクトさん。これからもずっと一緒ですからね?」
――この二人が居てくれさえすれば、僕はとっても幸せだ。
―完―
――――――――――――
これにて、ネクトたちの冒険は終わりとなります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
次回作も公開する予定ですので、そちらも読んでくださると嬉しいです!
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