第2話 中身はしっかり確認してから破きました。


「はぁ、僕はもう駄目だ……」


 僕は今、生まれ育ったサウスレイクの国を出て、西へと伸びる道をトボトボと歩いていた。



 ちなみにだけど、荷物はなーんにも持っていない。


 唯一あるのは、使い古した皮の鎧と空っぽのバックパックぐらい。


 つまりは着の身着のままってこと。



 こっちは魔王を倒した英雄だっていうのに、馬ひとつ使えず、徒歩で移動しなくちゃいけない。


 そんなことになってしまったのは、僕が英雄パーティ『ノーバディ』を追放された挙句、国外追放までされてしまったからなんだけど……。



「まさか、家の中身が丸々無くなっているとは思わなかったよ……とほほ」


 酒場でパーティリーダーのクリスタに説得されたあと、僕は国を出る準備をしようと家に帰ったんだ。


 そうしたらなんとビックリ。家の中身がもぬけの殻になっていた。



「誰の仕業かは分からないけどさ!! こんなの、あんまりじゃないか!!」


 大事にしていたエッチな本なんて、ビリビリに破かれていた。


 ……持って行けよ!! せめて回収して大事に使ってくれよ馬鹿!!



 これは絶対、王様のせいだな!! 


 あの王様、なんだかムッツリスケベな顔をしていたし、僕がエッチな本を持っているのが許せなかったんだろう。


 うん、間違いないな!!


 娘可愛さで英雄である僕を追い出すだけにとどまらず、僕の持ち物まで奪うなんて横暴すぎるよ!!



「戻ってきてって言われたって、絶対に戻ってやるもんか!! 僕は他の国でたくさん活躍して、大金持ちになってやる!! それで、可愛い奥さんたちに囲まれて過ごすんだ……」


 サウスレイクでは一夫一妻制度だったけれど、僕が今から向かっているキコリーフの国は自由な婚姻制度を採用している。


 家族を養う甲斐性さえあれば、一夫多妻だろうが、多夫一妻でも構わないらしい。



 だからキコリーフで、僕だけを愛してくれる大家族を作るんだ!!


 もちろん、僕だって全力で愛を捧げるさ。


 ……そんな素敵な人が、1人でもいいから見つかると良いなぁ。



「少なくとも、ノエルみたいに僕を虐める女の子じゃなきゃいいや。そのためにはまず、仕事を見つけてお金を稼がなくっちゃね!!」


 急に飛び出してきた軍隊カメムシを避けながら、僕は新たな目標を掲げた。


「っていうか、こっちは装備も無いのに容赦ないなこの糞カメムシ!?」


 一度は回避したものの、次から次へと空から虹色の軍勢が僕に向かって急転直下してくる。


 いくらこぶし大ぐらいの大きさしかないとはいえ、今の僕にはダメージがでかい。


「さては僕なら勝てると思ってるな……?」


 普通なら野生の二角ウサギといった小柄なモンスターを集団で襲うのが、この軍隊カメムシの習性だ。


 つまり今の僕は、その雑魚ウサギと同等以下に見られているってことだ。


「このやろう、僕を舐めやがって……えいっ」


 腹が立った僕はその辺の地面に転がっている、軍隊カメムシのうちの1匹を掴み取った。


「――スキル『ジャンクション連結


 スキルを使った瞬間、自分の身体が軍隊カメムシと連結されていく感覚が襲う。


 その直前まで弱かった僕のステータスなら、たしかに危なかっただろう。


「だけど、これでもう負けないぞ?」


 軍隊カメムシの最大の長所。


 それは防御力の異常な高さだ。


 攻撃力そのものはそこまで強くない代わりに、そのタフさで一般の冒険者達には蛇蝎だかつのごとく嫌われているんだよね。


「ふふふ。いくら体当たりされても効かないもんね」


 僕はスキルで彼らの防御力にジャンクション連結した。


 だからいくら空から攻撃されたところで、今の僕には効かない。


 それどころか、僕は次々と新たな軍隊カメムシたちにスキルを使って防御力をジャンクション連結していく。そしてその度に、僕の防御力は鉄壁なまでに上昇していった。


「おっと、ついに防御力が高すぎて自滅してきた奴が現れ始めたな。ラッキー!」


 あまりに堅すぎて、衝突しただけで倒れた個体が出てきた。


 僕は地面に転がる軍隊カメムシを自分の手柄のように拾いながら歩き始めた。


 この軍隊カメムシ、防具を作る時の素材として優秀だから高値で売れるんだよね。



「お? なんだか、僕ひとりでも冒険者としてやっていける気がするぞ?」


 ソロで冒険をするのはちょっと不安だったけれど、立ち回り次第ではイケそうだ。


 よし、キコリーフに着いたら、まずはギルドに行って冒険者の登録をしよう!!



 遥か先に、森に囲まれた要塞が見え始めた。


 僕はこれから出逢うであろう新しい冒険と理想の女の子を夢見て、胸を高鳴らせるのであった。







【一方その頃。サウスレイクにいるネクトの幼馴染、ノエル】



「え……? ネクトがアタシを置いて国を出たですって……!?」


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