第9話 一原影郎

「ガハッ!」



気絶していたシングルが起き出す。



「おっ、やっと起きたか。ほら水だ。」



あれから一時間が経過していたらしい。



「先生。俺は悪いことをした。許されないことぐらい分かってる。でも、俺は先生に同じ種族として認めて欲しかったんだ。」



月影は軽いため息をついてこう話した。



「俺は別にお前を認めていない訳じゃない。ただやはり同じ種族ともなると忖度を働かせてしまう可能性だってある、俺はそれでお前や周りの優劣を決めるのがやだった。それは俺も悪いと思ってるごめんな。まぁ、お前が封印されたのがダブルでよかったな。」



「どゆことだよ。先生。」



「ダブルは"倍種"だ。生物以外の物等を、倍にすることができる。そして、人には魂を入れる宿(ヤド)というものがからだの中にある、普通は一人一つだが、ダブルはそれを倍にして二つにさせた。そこにお前の魂をいれたことにより、二心同体となったわけだ。」



魂の宿。

人間には家が一軒あるように、人の中にも一つ魂の住む場所がある。その住む場所をダブルは倍にすることで二人分の魂を入れることができる。



「俺もうそろそろ戻るよ。」



「そうか、まぁ久々にお前に会えて楽しかったな。」



「俺もだ。先生。またいつか、戦ってくれよな。」



・・・。



「参年弐組一原影朗(イチハラカゲロウ)。卒業証書を授与する。」



校長から卒業証書を渡され後ろを振り向く。



一原が見たかったのは親の涙姿でもなく、体育館の面影でもない。





月影先生の笑顔が見たかった。



だが、そこには月影先生の姿がなく後から聞くと大事な用があり、出席できなかったらしい。




(こっちより、任務か俺はやっぱり認められてないのか…。)




月影はこの話を他の教師から聞いて悔やんでいた。




・・・。




「おい、一原。」



「!?」


「そういえば言ってなかったよな。」


「なにが?」



無表情な顔から口角が上がり照れた言い方で、



「卒業おめでとう。」



月影の精一杯の気持ちを表して言った一言に対し、



「うん!!」



一原は笑顔で気絶していった。



数分が立ち…。



「ん~はぁ~…。」



あくびをしながらダブルが起きた。



「ん??」



ダブルは目を擦りながら言う。



「先生。なんで泣いてるの?」




「いや、これは!俺も、今起きたばっかなんだ。」




「そーなんだ。先生おはよう。」




月影はおはようと返事を返してこう心の中で言う。




(一原…。お前が影なら俺は月だ。影は月がないと成り立たない。また会おう。)

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