追放刑・地球流し
projectPOTETO
第1話
アヴァロン。
人類の存続のために月に作られた巨大な人工施設。
地球に限界を感じていた人類は肉の身体を捨て、アヴァロン内部に存在する電脳空間その身を移した。そこにはあらゆる公的、私的施設が存在しており、そこを人類の新天地として各々の人生を送っていた。
電脳体となった人類には排泄は勿論、老化や病気などは存在しない。
そのアヴァロン内部の中枢。
中央管理局『ラウンドテーブル』にて、ある裁判が行われていた。
その場所は青く、至る所から光る線が幾何学模様に通っており、電脳空間をこれまでかと象徴させて来る印象を感じる。
その中央には灰色のレザースーツによく似た服を着た一人の女性と、それを囲むように見下ろす人たちがいた。数は十二。
それぞれフード付きのローブを纏い、顔まですっぽりと覆っているためか、顔は全く見えていない。
「エージェント・ソフィア。
貴女がここに呼ばれた理由はお分かりですね?」
ソフィアと呼ばれた女性の前にいるローブの人物が問い掛ける。
その問いにソフィアは少し口を開けたが、自身の言語機能にブロックがかかっていることに気がつき、口を閉じて頷いた。
「今から2週間ほど前。
地球から帰還したララ・ブラウン。
彼女はこのアヴァロン、ひいては人類の存続の危機にさらしかねない不正プログラムを使用していた」
「それを君はエージェントとして早期発見していたのにも関わらず、庇い、己のプライベートルームへと匿った」
「なぜそんな無駄なことを」
「自分が何をしていたのかわかっているのかね」
「他のエージェントが君の不審なログに気が付かなければどうなっていたことか」
「何か弁明はあるかね、エージェント・ソフィア」
その言葉と共に言語機能のブロックが解除された。
発言権を与えられたのだ。
ソフィアは声を震わせて言葉を紡ぐ。
「彼女は初めての友人でした。
ただ、それだけです」
ソフィアは親友の顔を思い浮かべる。
黒いショートヘアを揺らし、食べるという娯楽が趣味だった女性。
底なしの明るさに何度も元気をもらったことか。
同じ職業ということもあり、仕事でも何度も助けられた。
そんな彼女が初めての地球の任務から帰還した際、どこか様子がおかしかった。
直ぐに声をかけても上の空だったので念のために自身のプライベートルームで簡易スキャンを行った。
不正プログラムが混じっていたのにはすぐに気が付いた。
しかし、それを報告すれば良くてアーカイブに凍結、最悪はデータを
勿論放置していいわけがない。だが不正プログラムのせいかララ本人の意思はもう曖昧だった。
何とかそのプログラムを切り離そう。そう思い、あれこれ手を尽くしていたところに他のエージェントに捕まってしまった。
結局手立ては見つからず、長期間の拘束を受け、現在ここに立っている。
「君は情に流されるような人物には見えなかったがね」
「エージェント・ソフィア。
君の行ったことはエージェントとして、アヴァロン市民として許されざる重罪だ。
我々の協議としては君を消去することに決定した」
ラウンドテーブルの決定に反対はしない。
アヴァロンを統べる彼らにしても意味がない。
諦めていた。いや、いま諦めがついたというべきだろうか。
ソフィアは顔を伏せて自虐的に笑う。
だが。
「だが、チャンスを与えよう」
「……は?」
「確かに君の行ったことは重罪だ。
しかしながら君のアヴァロン内部におけるエージェントとしての功績は歴代エージェントと比べてもトップレベルだ」
「だから君に選択肢を用意した」
「その選択とは一体?」
ソフィアは尋ねる。
ラウンドテーブルの一人は答えた。
「汝、地球への追放刑に処す。
もちろん、このまま消去ということでも構わないがね」
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