絵描き

バブみ道日丿宮組

お題:絵描きの貯金 制限時間:15分

絵描き

 人のいない街。

 それは絵の中にだけ存在する世界。

 僕はそんな絵を作品としてオークションで売ってる。たまに美術展も開いてる。

 名前はそれなりに知られてるが、顔を知ってる人は一部しかいない。

 表立って行動するのはマネージャー役の幼馴染。

 彼女は今も僕の代わりにいろんな場所へ行って、交渉したりされたりを繰り広げてる。

 そのかいもあって、僕は透明人間のように世間を歩いていられる。

 有名人のように指をさされたり、叫ばれたりしない。

 僕の身体は普通だ。

 どこにでもいるただの学生だった人間。

 ただ絵に力があるだけの少年だ。

「……」

 駅前にある大型ディスプレイで僕の絵を他の絵描きが紹介してる。どこかの生配信に取り上げられてるようだ。

 映ってる作家さんは、いわゆるビジュアル系で世渡り上手な人。

 実際に僕とも会ったことがあるーー実にいい人だ。

 一緒に美術展を開いたこともあった。あれは楽しかった。

 お互いがお互いのタッチで描いて、一般人に見分けがつくのかつかないのかとか。

「……ぁ」

 思わず笑顔になりそうだった。

 横断歩道前でそれはいけない。通報されてしまう。

 周りを見渡すと、誰も気づいた様子はなかった。

 良かった。

「……」

 配信はところ変わって、旅行の話になった。

 旅行か……しばらく行けてないな。

 作品を作ることに集中して、ご飯を食べ忘れたりもしてるぐらいだ。他に気を回すという努力が足りてない。

 本当に、本当に幼馴染には感謝してる。

 だからこそ、一緒に旅行に行くべき。

 そうは思っても今まで一度も実行できてない。

 貯金はもう遊んで暮らせるぐらいある。幼馴染にもそれぐらいの支払いができてる。

 これ以上何を僕は望んでるのだろう。

 人のいない街。

 その空間に僕はいったい何を吹き込もうとしてるのか。

 信号が変わる。

 横断歩道を渡って、幼馴染が待ってるカフェテリアへと目指す。

 そうだ。

 旅行なのだから、彼女に相談してみよう。

 二人であるいは三人で行く旅行を一人で考えても仕方のないことなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絵描き バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る