第12話
ランチは麗子さんがパスタを作ってくれた。
『もう少し涼しければ庭で食べても良かったんだけど。まだちょっと暑いわね』
麗子さんが外の景色を眺めながら言った。
食後に僕の買ってきたケーキを3人で食べた。
僕と麗子さんの会話に娘のルカはほとんど入って来なかった。
たまに母親に話を振られても、『あぁ』とか『うん』と言った返事しかしなかった。
如月ルカは自分の生い立ちについてどの程度まで母親から聞かされているのだろう?
麗子さんはどんな風に僕の事を話したのだろう?
麗子さんの携帯が鳴った。
仕事の電話の様だった。
『ごめん、ちょっと外すわね』
そう言って麗子さんは別の部屋に行った。
リビングには僕と如月ルカだけになった。
気のせいか3人の時より彼女の表情が少し和らいだ様な気がした。
麗子さんと一緒の時はちょっと険しい感じの表情だったので僕は少し意外に思った。
『N大って聞いた』
僕に興味があるのかどうかはわからなかったが、少し探る様な話し方だった。
『あぁ、うん。お母さんから聞いた?』
『凄いね、頭良いんだ』
『勉強するのは嫌いじゃなかったんだ。独りで黙々と何かをするっていうのが性に合ってるみたいで』
『勉強するのが性に合ってるって・・・ちょっと私にはわかんない』
如月ルカは心底理解出来ないっていう表情をして、黙ってしまった。
僕はあらためて如月ルカを見た。
茶髪と言われる髪に僕はあまり良い印象を持っていなかった。
しかし彼女の髪の色はいわゆる「茶髪」ではなく、何か独特な色合いをしていた。
僕はその色をとても綺麗だと思った。
『ルカさんの髪の色、少しかわってる。綺麗な色だよね』
今まで話す時はまっすぐ僕の目を見て話していたのにこの時は少し視線をそらし、うつ向き気味になった。
『派手とかケバいとかはよく言われるけど綺麗って言われたのは初めてだよ』
『あとさ』
また視線が元に戻った。
今度はまっすぐ僕を見つめて言った。
『妹に「さん」付けって変じゃない?』
知っていたんだ。
僕はこの後の会話をどう続けていいのかわからなくなった。
如月ルカは僕を見つめたまま、僕の返事を待ってる様だった。
どこまで聞かされているのだろう?
『私は何て呼べば良いの?』
『僕の事は名前で・・・下の名前で呼べばいい』
如月ルカはずっと僕を見つめたままだった。
その目はまるで、
「迷子になった子供がようやく母親と再会した」
そんな様な目だった。
『うん、そうする』
『律・・・』
また僕の耳にあの音が聞こえてきた。
聞こえるはずのない音。
『律は私をルカって呼ぶこと。わかった?』
『うん、そうするよ』
『じゃあ呼んで』
『わかったよ・・・ルカ』
この噛み合った歯車は、もう外すことも止めることも出来ない様な気がした。
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