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米山

T23FC90e_Qos実験レポート

1.実験の目的

 この実験を通して、Qosが実際にどのような仕組みで動作しているのか、又、それの特性の理解。


2.動作原理・理論

 指導書にも書かれている通りだが、Qosは、人間が感じるクオリアと呼ばれる感覚質の共有ができる装置で、日本国民は生後一年以内に頸部に埋め込むことが義務化されている。

 感覚質とは、感覚的な意識や経験のことで、定量的なものだけでは測りきることができない、赤色の「赤らしさ」、青色の「青らしさ」、アイスを思い切り噛んだ時に歯が冷える「あの感じ」などを指す。いわゆる、言葉で説明することの難しい、「その感じ」という実感を伴った質感そのものである。

 Qosは、その感覚質を共有することが可能である。また、文字や映像にもQosと反応するようプログラムを施すことによって、より正確に、素早く、鮮明に情報を伝えることが可能になったと言われる。


3.実験装置・機械

 Qos、Qosシリンダー、指導書、S型人工知能B309


4.実験方法

 a.Qosを用いない上での伝達ゲーム

  我々の身近にあり、いつも利用していたQosだが、それを使わないで伝達ゲームを行ったらどれほどの差異がでるのかという実験。Qosは本人の任意で切り替えが可能なので、全員がQosをオフにした。一応、手違いのないようQosシリンダーを用意する。

  まず、一つのフレームに色を写し、一人がその色を確認する。その色を記憶したら、次の人間へと説明し、説明された人間はRGB値を用いてその色を再現する。それが完了したら、また別の人間が色を確認し、記憶する。このような手順を七度繰り返す。


  人間   フレームに写された色の記憶

     ↓ 説明

  人間   フレームに写す色の選択

     ↓ 反映

  人間   フレームに写された色の記憶

     ↓

     …

  機械   フレームに写された色の判定


  C型人工知能9Uを用いても可能だが、今回は実験人数に十分な人間を確保できたので使用しなかった。

  最終的にフレームに写された色とオリジナルの色が一致するか、また、CIEΔEt22表色系を用いて数値化し、どれだけの差異がでるか確認した。

  CIEΔ22表色系の値

   0~5.0  色彩完全一致

   5.1~9.0 色彩微一致

   9.1~ 色彩不一致

  と設定した。本来であればCIEΔ22表色系の値は0.1単位の細かな差で判別可能なものなのだが、今回は人間による曖昧な伝達手段なので、色の一致範囲を拡大した。

 b.S型人工知能B309を用いた世代による色の認識の違い

  S型人工知能B309は、人間背景の時代的な表象に特化した、膨大な情報量を構築するCNCコンピュータの総称である。このS型人工知能B309は公的機関にて然るべき手順を踏み、決して低くはない使用料金を払わないと使用できないものだが、今回の実験では学生パスを利用して無料で使用させていただいた。

  S型人工知能B309で行った処理は、各世代の人間(十代ごとに刻む)がどれだけの色を認識できているのか、というものである。その際に使用したプログラムは別途記載しておく。授業で使用したプログラムとほとんど同じものだが、各世代の抽出ブロックのランダム性をより複雑なものとした。

 c.指導書にない実験

  この項目で私たちが独自に考えた実験は、bで得たデータをより分かりやすいものにするというものである。bで認識した色の数を「どれだけ区別できているか」という点に絞って検証した。使用したプログラムは前項と同じよう、別途記載する。これも第七回の授業で使用したプログラムの模倣である。


5.実験結果

 実験a

  第一回

   オリジナルフレームカラー

   〈R:255 ,G:27 ,B:26〉

   最終的なフレームのカラ―

   〈R:240 ,G:15 ,B:50〉

   二つのカラーの差[CIEΔEt22]

    4.7929

  第二回

   オリジナルフレームカラー

   〈R:165 ,G:50 ,B:255〉

   最終的なフレームのカラ―

   〈R:221 ,G:114 ,B:183〉

   二つのカラーの差[CIEΔEt22]

    18.7785

  第三回

   オリジナルフレームカラー

   〈R:131 ,G:70 ,B:30〉

   最終的なフレームのカラ―

   〈R:184 ,G:205 ,B:0〉

   二つのカラーの差[CIEΔEt22]

    40.3992

  基準色である一回目の赤色〈R:255 ,G:27 ,B:26〉は完全一致したが、二回目、三回目の説明しにくい色ではやはりうまく伝達が出来なかった。

 実験b,c

  十代

   認識している色の数:4,209,437  

   区別している色の数:4

  二十代

   認識している色の数:3,864,001  

   区別している色の数:5

  三十代

   認識している色の数:3,570,334  

   区別している色の数:8

  四十代

   認識している色の数:3,046,709

   区別している色の数:8

  五十代

   認識している色の数:1,248,543  

   区別している色の数:14

  六十代

   認識している色の数:1,019,332

   区別している色の数:20

  七十代

   認識している色の数:918,540  

   区別している色の数:22

  八十代

   認識している色の数:879,988  

   区別している色の数:36

  九十代

   認識している色の数:832,651

   区別している色の数:85

  百代~

   認識している色の数:390,590

   区別している色の数:87

 歳を重ねるごとに認識している色の数は減少していったが、区別している色の数は増えていった。表とグラフは別途記載する。


6.考察

 実験aで、やはりQosは私たちの生活になくてはならないものだし、生活の基盤になっていることを再確認した。こと情報の伝達という点において、言葉による曖昧な説明では、個人間の認識に差異が生まれてしまい正確な伝達ができない。基準色である赤色だけがうまくいったのは、「赤色」という言葉が広く共通されているからだと考える。

 実験b,cで調べたかったのは、各世代の色の認識の違いである。今回はS型人工知能B309を通したQosの特性の理解が目的とはなっているが、S型人工知能B309は今後も使用していくため操作に慣れる意味もあった。さて、世代が認識している色の数が減少していくのは、単に眼の機能の衰えだと考える。Qosを使ってのみしか調べられないことである。

 私たちが注目した点は、若い世代の区別している色の数の少なさだった。私が区別している色の数は少なくとも24色色鉛筆を見分けることができるほどはあると思っていたのだが、認識の問題ではそれで間違っていないものの、区別の問題となると、今回のプログラムに関しては別だった。私たちはメイン関数のディペンデンスをlanguageに設定していたため、そのような結果が出たと考える。

 つまり、「赤色」「黒色」「白色」「青色」くらいしか区別できていないという結果になったのだ。薄い赤色、黒みがかった青色、などはカウントされない。

 では、どうして世代が老いていくにつれて区別している色の数が増えていくかという点に注目すると、やはり八十代から九十代の間、Qosが急速に普及したことが理由だと考えられる。八十代以前はQosを使用しない、実験aのような環境の所謂「色の過渡期」であったため、それだけ色を指す言葉が存在したのだ。

 色に限った話ではなく、たとえば「悲しい」とか「嬉しい」とかいった心に作用する言葉もこの先形骸化していくのだろうか。システムは時代に従って次第に形を変えていくものだが、なんだかそれも少し虚しいものだと思った。


7.参考文献

 千々岩英影『色彩学概説』 東京大学出版会

 茂木健一郎『脳とクオリア』 講談社

 佐々木裕『後天的時代背景とその先天性』 九秋社

岡部恵美『S型人工知能B309の利用』 初矛出版会

授業指導書

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