ゲロ喰い
モグラ研二
ゲロ喰い
今日は、昼休みにドラッグストアで痛み止めを購入した。後ろに並んでいた太ったセレブリティな印象のマダムも、私と同じ痛み止めを手に持っていた。
グラマラスな二の腕を露出したピンク色のワンピースに、華麗なフリル付きのロングスカートを着用したマダムは、痛み止めを購入し、私を追い越して店の外へ行き、痛み止めの箱を乱暴に開けて錠剤を飲んだ。
ウッウゲー!と叫び、マダムはその場で倒れ、海老反り状態になると、白目を剥いて嘔吐した。凄く臭く、濃い緑色のゲロが、大量にドラッグストア前の路上に撒き散らされた。
「俺は貧乏人だから、セレブリティ階級のゲロでも喰わないとやってられない。無銭飲食は犯罪だが、ゲロ喰いは犯罪ではない。」
全裸の上にぼろぼろに破れたコートだけを着用した50代くらいの、髪の毛ぼさぼさ、髭生えまくり、蝿が周囲を飛び交っている男性が述べて、マダムの緑色の臭いゲロを手掴みして喰い出した。
……確かにその通りだ。ゲロ喰いは犯罪ではない。ゲロ喰いしたいという彼の情熱を、我々に止める権利などない。
私も含め、周囲の人はスマートフォンで熱心にその様子を撮影。珍しい光景が撮れたことに満足の様子。
みんなスマートフォン好き。スマートフォンで珍しい光景撮るのも好き。全然、不自然なことではない。みんなスマートフォンを凝視の時代だから。いいことなんだ。
インターネット上に、ゲロ喰いの動画が一斉にアップされた。反応はどうなのか。
みんな、珍しい光景が好きだから、ゲロ喰い動画も、好きに違いない。それは、全然不自然なことではない。
マダムは放置された。しばらくはゲロまみれで、白目を剥いてアギャーーー!とか叫んで激しく痙攣していたが、飽きたらしく、静かになった。
「寝た?死んだ?どっちでも、どうでもいいけど、なんか、つまんないから、帰る?」
「うん、帰ってセックスしよ!」
「ローションまみれになって、朝までねっとりやろうよ!」
「いいね!いいね!生配信しよ!」
「うん!生大好き!なんでも、生がいいよね!」
私の隣で、スキンヘッドの屈強な男性二人が会話していた。
「あんまり、こいつのゲロは美味くなかったですよ、こいつは本当のセレブリティじゃないみたいですよ」
マダムの緑色の臭いゲロを貪り食べていたぼろぼろの男性は立ち上がり、述べた。
男性は、全裸の上に破れまくりのコートを羽織っているだけだ。すなわち黒ずんだ皮を被った小さな男性器は丸出しなわけであり、彼が通報され、逮捕されて、権力者から弾圧を受けないか、そのことが非常に気懸りであった。
だが、夕方に歯茎剥き出し、黄ばんだ歯をしたウンチの口臭をした人物に、やはりダメ、これは俺の好みじゃないから、使用済みだが、俺がとにかく気に入らないから、やはりダメで、だから、すぐに金を寄越せ、という文言を、捲し立てるように言われたことで、自分のなかは、圧倒的な胸糞悪さ、その辺の路上にいる無関係な幸せそうな人物、なんか前向きな言葉を吐きながら笑っているような人物、君にはまだまだ可能性があるねえ5万円くれたら君を目覚めさせてあげるよ絶対成功するし君は絶対幸せになれるんだよとか都合のいいことを言いながら目的は対象人物の幸せとか成功なんてどうでもよく単に金が欲しいだけに過ぎない薄汚いビジネス綺麗事野郎などを刃物でいきなり殺害し、その血飛沫を浴びたいとか、血飛沫を浴びて強い日差しのなかでニコニコしたい、拳を振り上げて雄叫びをあげたいとか、そういう気持ちでいっぱいになった。無料でもいらねえんだ!こちらの気持ちを無視した無神経なポジティブポエムや上から目線の綺麗事や頭のおかしい自己啓発を押しつけてくる奴は他人をズタズタに切り裂いて傷付けている自覚が全くない!死ぬべきだ!即死すべき!ついでにそいつらの妻子は生きたままドラム缶に入れてガソリン掛けて焼いちまえ!
……あの時の、ゲロ喰いの男への気遣いなど、もはや皆無で、そんな奴は気色悪いから死んでくれ、という感情しか、今は持っていない。
ゲロ喰い モグラ研二 @murokimegumii
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