第28話 仙と清(せい)
仙千代が儂を忘れるのなら儂も忘れる……
儂が忘れない限り、仙千代も忘れないのか……
酒もまったく美味くなかった。
ただ、注がれるままに、信忠は幾杯もあおり、
酒宴の後に清三郎を誘った閨房では、
「若殿、今宵は激し過ぎます」
と、音を上げられた。
信忠は構わなかった。
目に焼き付いた仙千代の首筋の赤い痕を意識から振り払おうと、
食い付くばかりに清三郎の同じ箇所を吸った。
「清三郎、
「若殿……」
もしかすれば、途中幾度か、
「清」ではなく、「仙」と呼んでいたかもしれなかった。
それすらも、信忠は気にしなかった。
仙千代、仙!仙!……
清三郎の面立ちが最も仙千代に似る角度にし、
胸中で仙千代の名だけを呼んで精を放った。
果てた後は、清三郎に、
明日の朝まで閨房に留まるよう言い付け、
「乱暴過ぎた。許せ。
今夜はこのまま休むが良い。ここで」
と、抱き寄せた。清三郎も寄り添った。
「清は武家の子ではなかったな」
「はい」
「誰ぞ、適当な家臣の
どうか」
「猶子?」
「養子と似たようなものだ。
様々な事情背景で為される縁組故に特定の決め事もない。
ただ、町衆の身分のままでは扶持も十分付けてはやれぬ」
「玉越という名に愛着がございます。
町衆の身ながら名字帯刀を許された家門にて、
祖父、父の思いが込められております」
「名はそのままで良い。身分は変えねばな。
現状ではいかにも立場が不安定だ」
「お気遣い、嬉しゅうごさいます」
「近々、親父殿が岐阜へ来るとか。
その際、儂から話しておく」
「はい!
若殿にお預けした命、ただただ嬉しゅうございます!」
仙千代に似ているからと、
商人の子でありながら召し上げた清三郎だったが、
心構えはいつの間にか
竹丸の叔父、長谷川橋介達から帰れと言われても、
それでは玉越の名折れだと居残って三方原で討ち死にした、
三十郎の実弟だけはあった。
信忠は今回の猶子話の仮親はどの者が良いか、
抱き寄せた清三郎の寝息を耳元に聞きながら思いを馳せた。
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