第10話 次なる玩具

「首尾はどうだ?」


 第三帝国が長の寝室に、跳ねるような声が響く。


 身体中から雌の臭いを漂わせたソリアは、全裸のままベッドの縁に腰を掛け、水差しを直接口に付け喉を潤す。外以上に暑く、熱気の籠った部屋と光景に第三帝国の参謀は顔色一つ変えること無く答えた。


「現状、ギガース級の魔獣でも操る事が可能と判明しております。魔獣の大小、凶暴性にもよりますがおおよそ三十体まで同時に掛けられ、効果はこちらの魔力が尽きるまで持続するようです。各村を襲わせた結果、護衛に駆除される者も多数おりましたがその殆どがこちらの命じるままの行動を取ることが確認できました」


「殆ど、とはつまり失敗例もあったと?」


 話の流れを釘で押し止めるかのように鋭い口調に、マルドムは声の抑揚を変えず答える。


「一件だけ、サンプルが取れなかった村がございまして。片田舎の村なのですが、村を襲わせる前に魔獣が全て駆除されました」


「ほう?何があった?」


「とある小さなギルドに所属するガドワルドとかいうオークの魔族が事前に察知して処理したようです。イレギュラーがあったとすればそれぐらいです」


「成程。まぁその程度なら捨て置いても問題無いだろう。で、どうだ?マルドムよ。は、には通用しそうか?」


「……『トトリオン』、にですか……」


 マルドムは王の御前で逡巡を見せた後、答える。


「それに関しては、試してみないと分からない、というのが正直なところです。確かにこの魔法は強力ですが、相手のサイズ及び魔力量に比例して効きが弱くなる傾向にあります。まして今回のたるや……。あまり御期待には沿えぬかもしれませぬ。それに、まだ実在すると決まった訳ではありませんので」


「珍しく弱気だな」


「最良の事態ではなく、最悪の事態を常に想定するのが私の仕事です故」


「だとしても、もう少し景気の良い言葉を耳にしたいものだ。まぁ良い。こちらの準備は何時でも出来ている。万全と思えば直ぐに報告せよ」


「了解しました」


 フードを被ったままのマルドムは浅く礼をすると、音も無く部屋から出て行った。



 ――昨今、巷を騒がせていた魔獣襲来事件の首謀者は反乱軍ではなく、第三帝国の皇子ソリアとその腹心マルドムであった。



 ソリアはとある目的の為にサキュバス専門の娼館『ホリーハウス』から数体のサキュバスを購入し、そして彼女達をマルドムにいた。その結果、マルドムはサキュバスの『チャーム』の魔法を手に入れ、それを魔獣に使用し効果の実験をしていたのだ。


 敢えて帝国領の村のみを襲わせ、反乱軍の仕業に仕立てるという細工も忘れずに。


 すべては皇子の我儘を叶える為。


 次にソリアが求める『玩具』。その姿が公になるのは、そう遠くない未来の話である。



                                第2部~完~




――――――――――


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