第6話 冒険を終えて

「ほいよ。依頼品だ」


「わ!こんなに!しかも結構大きい!!」


 パメの実を無事収穫したジル一行はクエスト達成の報告をすべく『猫の手』に戻ってきた。果実が詰められた袋をカウンターに放り投げた途端、爽やかな甘い香りが辺りを覆いつくす。


「これだけあれば足りるだろう?」


「充分!さっすがレッドデビルさん!」


 ミスラは依頼品の確認も程々に、無事帰って来た二人の美女に対し満面の笑みを浮かべる。


「二人も楽しんだみたいね!随分と満足そうな顔をしてるわ!」


「はい!とっても楽しかったです!」


「……!」


 セラは向日葵のような笑みを浮かべ、カリナは力強く頷く。二人の身体はところどころ土や木の葉が付着し汚れてしまっていたがそれが寧ろ健康的なものとして受付嬢の瞳に映った。


「それじゃ、報酬の手続きするからレッドデビルさんは受取所の前で待機しておいてくださ~い」


「はいよ~」


 クエストが達成されたと担当に見なされれば、その後は正式な手続きを踏んで依頼者がギルドに預けている報酬を受け取ることになっている。ジルは敢えてセラとカリナを残し、淀みなく受付の奥へと姿を消した。


「あ、あのっ……」


 セラは馬車の中でジルが言っていたことを思い出し、ミスラが手空きな事を確認すると荷物を足元に置いて声を掛ける。


「私達をクエストに参加させていただいて、ありがとうございます」


 セラが頭を下げるのを見て獣人の少女もぺこりと頭を下げた。その様子にミスラは一瞬目を見開くと、気持ちの良い声で笑う。


「お礼を言うのはこっちの方だよ。アナタ達のお陰でレッドデビルがウチのギルドのクエストをたくさん受注してくれるようになったんだからさ!」


「私達の……?」


「そう。お二人さんの為にもしっかり稼がないとって最近よく顔出してくれるようになってね。おかげでこのギルドも潰れずに済みそうよ。最近は帝国から斡旋される無理難題なクエストばっかり来るから困ってたんのよね~」


ミスラはカウンターから身を乗り出し、口を覆うように手を当て続ける。


「帝国軍からの依頼は報酬が大したことない癖に難易度だけは一丁前に高くて、しかも達成出来なかったら罰金払わなきゃいけないのよ!?そんなめちゃくちゃなクエストをレッドデビルさんが請け負ってくれるからウチも何とかやってけてるワケ。だから感謝するのは私達の方なの。ホント、命懸けのクエストで報酬が酒樽一つ分なんてザラなんだから」


「そうだったんですね……」


「そ!だから奴隷だろうが何だろうがレッドデビルのお仲間さんなら問答無用で厚待遇!ってかそもそも、クエスト受けるのに奴隷も貴族も関係無いよ。どうせ死ねばみんな同じ肉塊なんだからさ。こんなところにまで身分を持ち込む意味が分かんないわよ」


 随分と物騒な物言いであったがしかしそれは目の前の奴隷二人に対する彼女なりの最大限の敬意であった。それを解っていたからこそセラもカリナも黙って相槌を打つ。


「まぁでもお嬢さん方、経緯は知らないけど、本当に良い人に買われたわね。あの人悪い噂ばっかりだけど本当はめちゃくちゃ優しい人なのよ」


「知ってます……」


 即答したのはカリナ。半開きの眠そうな目から力強い意志を感じる。セラもそれを見て嬉しそうに頷いた。


「おっとこれは失礼!そりゃ身近にいるお二人が一番知ってる事か!あ、じゃあ今日のクエストのおまけの報酬に一つ良い事を教えてあげるわ!ジルさん、あの人ね、あんな見てくれだけど押しには弱いの!特に色仕掛け!だから何かおねだりする時にはそのナイスバディを武器に攻めちゃえば一発よ!」


「……し、知ってます……」


 頬を赤らめ俯きがちに答えるセラに、ミスラは手で口を隠しいやらしい笑みを浮かべる。


「お~い、終わったぞ~……って、何だその目は……」


「ん~?べっつに~?」


 報酬を受け取り戻ってきたジルに邪な視線を向けるミスラ。取り繕うように手元にあった書類に軽く羽ペンを走らせるとそれをセラとカリナに渡した。それはギルド『猫の手』の会員証であり、また、それは彼女達が初めて手にする『身分証明書』でもあった。


「それじゃジルさん、またよろしくね!今度はその子達連れてお酒でも飲みに来てよ。サービスするからさ!」


 やけに胸元を強調しながらジルにウインクを飛ばす。その熱視線の先には明後日の方向に首が曲がった鎧の大男がわざとらしい咳ばらいを放っていた。


「気が向いたらな……。それじゃ、二人とも、帰ろうか」


「「はい!」」


 素直で明るい返事にジルの鎧も嬉しそうに鳴る。


 その後、初めての冒険を終え屋敷へと戻ったセラとカリナは今回のお礼にと持って帰ったパメの実でパイを作り、ジルに振舞った。彼はとても喜び、そして次はどんなクエストに行きたいか過去に自分がこなしてきたクエストの経験を交えながら従者二人に問う。


 その姿はまるで無邪気な子供の用で、もしかしたら今回のクエストを一番楽しんだのはご主人様だったのではないかと顔を合わせ微笑む従者二人なのであった。








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