第39話 スタッフルーム
もう一度姫を寝かせる前に、彼女のお尻を洗い、ユミはヘアブラシで優しく髪を梳かした。
「姫ちゃん。髪の毛1本もらうね。」
ハサミで姫の長い髪を1本切ると、3つに切り分ける。
姫を仰向けに寝かすと、インナーコルセットがずれていないか確認してから直腸の結び目とヒップリフター(仮)を髪の毛で括ってゆく。
「薫ちゃん、綾ちゃん、お疲れ様。おかげで姫がもっと可愛くなったよー。明日まで会えないのが残念だけど。」
もう一度起こしてお尻の形を確認した後で姫を引き出しに収めると、ユミは
「ありがとー。またねー。」
と言って帰って行った。
昼にするためオフィスに行くと、綾のデスクの上にミュージアムの入館カードが置いてあった。
「先生、入館カードを作ってもらったので、ミュージアムのバックステージに行ってきます。お昼は向こうで食べられなかったら早めに戻ってこちらで食べます。」
「午後は午前中と同じ作業だから少々遅くなってもいいぞ。明日1回目の見学を受け入れるから邪魔にならない程度にゆっくり話して来い。」
「ありがとうございます。」
綾はお弁当を持って早足でミュージアムに向かった。
裏口から入ってすぐに『STAFF ROOM』と表示された大きめの扉があったが、いきなり入る勇気がない綾は、誰か知っている人を見付けようと展示スペースに向かったが、展示スペースは照明が落とされていて誰もいない。
仕方がないので、廊下を戻ってスタッフルームの扉をノックした。
「はーい。どうぞー。」
大きな声が返ってくる。
「失礼します。本間先生の助手の日向ですが、瞳さん居ますか?」
この言い方でわかってもらえるだろうかと思いながら、恐る恐る扉を開く。
「キャー!」
「どうぞどうぞ。」
「かわいい!」
「瞳ちゃーん!」
入り口の周りが大騒ぎになる。
固まってしまった綾だったが、ゆかりと瞳が来てくれてホッとした。
ゆかりは近くに居た様だ。
「綾さん、どうしたんですか?」
「さっき入館カードが出来たので、見学と、よかったらこちらで一緒にお弁当にさせてもらおうかと思って・・・。」
と言ってお弁当袋を差し出す。
「こちらにどうぞ。」
と、ゆかりに部屋の中央にある大きなテーブルの奥に案内される。
学校の教室2部屋分はありそうなスタッフルームはそこら中に移動式のハンガーラックがあり、たくさんの洋服が掛かっている。ファッションショーの舞台裏の様だ。
案内された先ではみなみ以外の歓迎会メンバーが揃ってお弁当を食べていて席を勧められた。ゆかりは一度戻ってお弁当を持って移動して来る。
「「綾ちゃんいらっしゃーい」」
「こんにちは。何だか大騒ぎになってるんですけど?」
後ろを見ると、ほとんどの女の子がこちらを見ている。
「綾ちゃんは土曜日から時の人なんだよ。」
有里が説明してくれる。
「みんな刺激に飢えてるからね。隣に新人の女の子が入ってその子が処置室で本間先生の助手をしてるって聞いたら仕方ないよ。そこにきて今朝、処置室の見学が始まるって聞けばねぇ。」
綾は絶妙のタイミングで来てしまった様だ。
有里が彼女の横にいる女の子に二の腕をつつかれて続ける。
「あ、この子は歓迎会の時に居なかった陽子。」
「石原陽子。2期生です。よろしくね。」
フレームレスのメガネを掛けた黒髪ストレートの冷たい感じの美人。
利奈とは違った感じのお姉さんタイプだ。
「はじめまして。日向綾です。1期生です。よろしくおねがいします。」
「で、瞳に用があるの?」
「急ぎの話でなければお弁当を食べながらにしなさい。時間がなくなるわよ。」
利奈は相変わらずのお姉さんぶりだ。
綾が、サンドイッチを取り出すと、
「綾ちゃん、それで足りるの?」
陽子が聞いてくる。
「たくさん食べるとお腹が出ちゃうじゃないですか。」
「ああ、そうよね。じゃあ見学する日は朝ごはん抜きにしなくっちゃね。」
「そう、その話でした。」
綾のためにコーヒーを淹れに行ってくれていた瞳が戻ってくる。
「ありがとう。瞳ちゃん、明日見学するなら姫ちゃんに会えるよ!」
「えー!明日見学できるんですか?どうして姫ちゃんと?」
周りも盛り上がっているが、予想通り瞳がいちばん食い付きがいい。
「今朝、ヒップアップの1号ってことで急遽姫ちゃんのメンテナンスが入ったの。だから明日午前中に状態確認がある筈だから、そのとき処置室に居れば姫ちゃんに会えるよ。」
「行きます!絶対行きます!」
即答だ。
「瞳、迷ってたんじゃなかったっけ?」
「姫ちゃんに会えるなら裸を見られるぐらい何でもないです。今日は丁度みなみさんは非番ですから、利奈さん、一緒に見学しましょう!」
「いいけど、どうして私なの?」
「私は明日非番ですから。」
「私は綾ちゃんから直接聞いていないから、先に見学した人の話を聞いてからにします。」
「私はみなみさんと見学しますから。」
瞳は1人で迷うだけではなく、見学できない有里以外のみんなに相談していた様だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます