第2話 僕の興味と夏休み

 父様が少し回想にふけっていた頃、僕は自室で机に向かい熱心に勉強しているかと思えば手に持っていた筆を顎にほんのり当てて少し書いてはまた当てそれを繰り返す。その姿勢はとても学校で探求発表熱心の優良生と見られている者と同一とは思えない仕草と静かさ。


夏季休暇に入り数日、休暇前授業にて先生が

「休暇を利用して各々『興味あるモノ・進みたい道』について纏めて出して下さい」と言われ色々なジャンルの本を広げてはいる。

この現状はいわば「興味」という駅からの分岐が多い僕はその中身(=切り替え先)を決めかねている、という訳。僕の頭の中で


「興行で人を笑顔に出来る人って立派、だけど工芸師とか技巧職も格好いい。だけれども…」と延々思考が空回り。


そんな時、ふと「魔工の基本」と書かれた本がやや疲れ気味の目に留まった。その本は幼いころ夢中になり何度も読み返し、母様に

「そればかりでなくもっと他類の本を読みなさい」と、


少し怒られたりした思い出もある私のベストセラー。昔を振り返り頬が少し緩んだ。

 「そもそも僕の国は『魔工』という技術に支えられてここまで来た。魔工と言うのは今から百年以上前に見つかったとされている工業的な機構と魔の力を合わせた技術のこと。そんな魔工の発展に携わりそこで学び見てみたい」

この思案にたどり着きしばらく本を前にしてごちゃごちゃ気味の頭を抱えた。


そこから五分もたった頃、この思考の延長線上に

「魔工の歴史、魔工自体を知ればもっとこの国を知れる」という芽が顔を出した。

そしてそこから幹が少し伸び

「願わくは『それが将来への羅針盤』になる」ということ。

この二つのひらめきが連結した音が、僕の中で鳴った。それを感じた途端、僕はその本を抱え部屋を出て小走りで父様のいるリビングへ向かう。

 階段を降り勢いよく部屋の扉を開けるとソファに腰かけ寝起き顔の父様の姿が見え、僕はすぐに駆け寄った。父様は何か察したのか


「わかった、少し座って待ってなさい」と、言って

僕はソファに腰かけお茶を一口、すぐに父様が隣の部屋から戻ってきた。


開口一番に僕は「父様、僕はもっと魔工やこの国について知りたいです!」と、興奮気味に言った。すると「さては休暇の課題で悩んでいた所に閃き抑えられず来たか」と、父様は少し笑い笑顔ながらに返してきた。


次に父様は僕の手元へ「魔工学院案内の印」と書かれた冊子を進めた。

父様はその中身をさしながら「魔工の事ならここの書庫館に行くといい」と、言う。

しかし書庫館と聞いて僕は「父様からの話が聞きたいのです!」と、返した。

なぜなら学校「書庫」なんて規模は知れているし何より僕は父から直接話を聞きたいという思いが第一にあったからだ。


 そんな調子で話をしていると、玄関をノックする音が聞こえた。待たせてはいけないと駆け足で向かい扉を開ける。そこにいたのは学校で仲良しのロイナだった。彼女は昔からすごいしっかり者で関心あるモノの方へ走りがちの僕の舵をちゃんと戻してくれる舵兼ブレーキ役。そんな彼女は僕が扉を予兆少なく開けたので少し驚いた様子、どうやらお菓子を持ってきてくれたようだ。


ここだけの話、ロイナお手製菓子は本当に美味い。お菓子の入った小箱を受け取ろうと何気なく手を伸ばし、視線をロイナの手のひらへ送る。

ふと送った先にはガーゼのようなものが貼られていて、ちょっとはみ出し気味に何かにぶつけたのか少し薄い跡があった。


 箱を受け取り棚に仮置き一拍おいた後、

「その手の所どうしたの?」と、聞いてみるもロイナは

「これ作っているときに少しやけどして...」と、返した。

するとそこで父様が「ロイナと一緒に行くのはどうだい?」と、聞いてきた。

そして咄嗟に「わかりました」と、言って

次の瞬間「ロイナ、僕と一緒に学院に行かないかい?」と、間髪無く聞いた。

するとロイナは「リヴィ君はいつも決断が早いね」と、少し呆れそれと同時にほんのり嬉しそうな顔をしていた。


 その後一時間もしない内に僕はロイナを連れて学院へ向かった。首都の中部に位置し魔工学院を有する町「オリジオ」。町はとても栄え人通りも多く、僕とロイナが住む町「ルイルジェント」とはまた違う良さがある。

町の案内所で馬車を降り少し歩いて学院敷地内にある展廊館(図書・博物館)の前に着いた。建物の荘厳さに少し圧倒されながら中に入る。するとそこはまさに見回す

限り大量の本と棚、凛々しい制服と思われる服を来た少し年上の人達。

あまり普段は気持ちを表に出さないロイナもこの景色に驚きを隠せないでいた。


 あっけにとられながら「魔工と歴史を調べる」目的を思い出し二人で探し始めた。歴史関連がまとめられている二階に移動、横長の棚にむけ視線を動かし歩いていると「ガクッ」と音がした。足元を見ると何やら埃をかぶり少し黒ずんでいる手帳が一つ。僕はまるでその手帳に惹かれるように手に取りめくる。


そこにはこう記されていた「ハインの手記」と。

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