【第一ニ話 ロッキーVSジョウジ】


『で、お主がジョウジなのだな?』


 一人〇〇〇も済ませ、お風呂も上がって、身も心もスッキリしたから、ジョウジにロッキーを会わせてあげている。

 私がジョウジとの経緯を一通り話した後のロッキーの一言が……お前、殿様かよ。


『ボク、ジョウジ! 宜しく先輩!』


『何なのだ、その先輩というのは?』


「あ、私が言ったの。魂があるモノとしては先輩でしょ?」


『確かにその通りたが……われ此奴こやつとでは、格が違いすぎるぞ』


 ふんぞり返って高飛車な態度……殿様じゃ足りなかったか。お前、神様か何かか?


「まぁまぁ。独りきりで可哀想だから連れて来たの。ダメだった?」


『美優がそう言うのであれば、仕方ない。で、お主はいつから意識があるのだ?』


「十五歳って言ってたから、十五年じゃない?」


『そうだよ! かおりちゃんにジョウジって名前付けてもらったんだ。いいでしょう?』


『誰か知らんが、そのかおりちゃんとやらの所に帰ればよいではないか?』


 いや、なんか余所余所しくて冷たくないか?

 同じモノだから、同族嫌悪ってやつかな?


「それがね? あの合宿所に来てから暫くして、かおりちゃんが来てないんだって」


『なるほど。忘れていった訳か。不憫ふびんだな』


「そう、それ! 私も考えたんだけどさ、名前を付ける位に気に入って可愛がってたモノでしょう? アイドル目指して、あの合宿所まで持って来てたんでしょう? 忘れたとしても、取りに戻ると思うの。私ならそうするから……」


『もうどうでもよくなったのだろう? よくある事だ』


 ロッキーが言うと、重みが違うね。そして口調(?)が穏やかになった。同情してるのかな。


『そんな事ない! かおりちゃんはボクを忘れたりしないもん! 友達だって言ってたもん!』


『悲しいがな。それがモノの運命だ。受け入れろ』


 そういえば、ロッキーは一万五千年は生きてるんだ。色々な出会いと別れを経験してるか、見て来てるはず。

 やはり、その言葉は重みがあった。


『しかしだ。美優の気持ちを汲んで、そのかおりちゃんを見つけてやらんでもないぞ?』


『本当⁉︎ 先輩、お願いします!』


『その先輩はやめろ』


「出来るの? ロッキー?」


 また〝神の遺物〟とやらの力を使うのかな?


『美優は解らぬか? ヒントがかなりあっただろう?』


 そう言ってロッキーはテーブルにあったタブレットのスリープを解いて、ブラウザを立ち上げている。


『美優の居ない間に操作は慣れたものだ。便利な世の中じゃないか。調べものはこうやって直ぐに見つかる』


 正体を知っていなければ、何て恐ろしい鳥なんだろうか。

 何を検索するのか、ロッキー越しに画面を見つめる。

 ジョウジにも見えるように肩口から見せてあげている。ロッキーと違って、自分で動けないから大変だ。


 ロッキーがクチバシで器用につついて、ブラウザの検索欄に打ち込んだのは【かおり アイドル ゼノン】だった。


 なるほど。あの合宿所はゼノンの所有だし、ジョウジもかおりちゃんがアイドルだって言ってたし、ゼノン所属のアイドルって事だから、これで検索すれば直ぐに見つかるって訳ね?


「ロッキーすごいね!」


『初歩中の初歩だぞ? 褒めるに値しない』


 可愛くないなぁ……。


「てか、日本語出来るんだね?」


『これも美優の留守中に覚えた。しかし、漢字との組み合わせはまだ途中だ。なかなか難しい』


「流石アトランティス製。すごいね!」


『我はモノとしては超一流なのだ』


 やっぱ可愛くない……。


 検索して直ぐに出てくる画像一覧の一つにジョウジが反応する。


『あ! かおりちゃんだ!』


「どれ?」


『この、頭にリボン着けてる子が、かおりちゃんだよ! 元気に笑ってるね!』


 ロッキーが画像をタップして、その画像を画像検索にかけて更に詳しい情報を探っている。

 すると、あるニュース記事が写真と共に出てくる。


 【アイドルの卵 畠山香(はたけやまかおり」十八歳 交通事故で亡くなる】


「え? ロッキー! これって……」


『うむ。どうやら、そういう事のようだ』


 記事によると、ニ年前、トゥインクルの追加メンバー合格者の三人の内の一人で、営業先のビルの交差点で信号待ちをしている時に、飲酒運転による暴走車に跳ねられて、暴走車の運転手と共に死亡している。


 なんてこと……。


 せっかくトゥインクルのオーディションに受かって、これからだって時に十八で……。


 ジョウジを見る。ジョウジと話が出来てたかどうかは知らないけど、ジョウジとのお風呂での映像が容易に想像出来る。


 自然と涙が出てきた。夢叶わずに、こんな突然に……切なすぎる。


『かおりちゃん居たんでしょ? どこにいるの?』


「ロッキー。どう言えばいいの?」


『モノの魂というのは、魂を作った人間の心理がそのまま反映される。計算すると、かおりちゃんが五歳の時にジョウジの魂が生成されたのだろう。なので、ジョウジは人間の五歳の心理状態な訳だ。これは良くある事で、子供の時はあらゆる才能が開花する可能性がある。かおりちゃんはモノに魂を与える才能があったのだろう。その後もその能力が継続してたかどうかは判別不可能だが、五歳の時も無意識でやってしまってたんだな。そうした子供の心理状態のモノの魂が一番多い。ジョウジもその例の一つだ』


「そんな事言われたって……」


 事実を伝えた方が良いのかどうかを聞いてるんだけどな。

 ううん、分かってる。どうすればいいかちゃんと分かってる。

 ただ私がその先の未来を想像して、怖くて逃げてるんだ。ジョウジがショックを受けて悲しむのを見たくなくて逃げてるんだ。


 しっかりしろ、伊吹美優!

 お前はシャイニングのリーダーだろ!


 両手でジョウジをすくい上げる。


「ジョウジ? かおりちゃんはもうこの世に居ないの。死んでしまってるのよ」


『……やっぱりそうだったんだ』


「知ってたの?」


『かおりちゃんと会えなくなってから、他の女の子達が話してるの聞いたから』


 そっか、そうだよね。ずっとあそこに居たんなら、そういう話も聞いてしまえるよね。


「そう……」


『信じたくなくて。でもやっぱりそうなんだね』


「ジョウジ……」


 胸が痛い。ジョウジを見てられない。私も涙が止まらない。かおりちゃんの気持ちが良く分かる。

 楽しそうにお風呂でジョウジに語りかけてる姿が、記事の楽しそうに笑ってる写真から想像出来る。

 トゥインクルの一員になれて、これから先の夢をジョウジに語ってる姿が……。


『ジョウジとやら。生き甲斐が無くなって、自らを消滅してしまいたくなったら、我に言うといい』


「え?」

『え?』


 ロッキーは急に何を言い出すのだろうか?


『我の機能の一つだ。モノの魂を吸収してエネルギーと成す。簡単に言うと、成仏すると言う事だ。お主のその躯体が完全に壊れるか、燃えるかすれば魂も消える。しかし、そうなったモノの魂は輪廻の輪から外れる』


「輪廻の輪?」


『全ての生物の魂は生まれ変わる。〝神の遺物〟を通してな。だがしかし、作られたモノの魂は消滅するだけで、生まれ変わる事は無い。だが、我のエネルギー源になれば〝神の遺物〟を通るので生まれ変わる事が出来る』


「え? それってロッキーが若返る時のエネルギーってやつ?」


『それだけでは無い。美優の過去の事象の書き換えも、それがエネルギー源だ。〝神の遺物〟は全ての魂の還る場所でもあり、全ての魂が生まれる場所でもある。ジョウジも我に取り入れられれば、来世では人間として生まれ変われるやもしれんぞ?』


 これはロッキーの優しさだろうか。それとも単にエネルギー確保の為だけだろうか。ううん、どっちもかな。


「ロッキーはそうやって今まで、モノの魂を取り入れてきたの?」


『そうだ。もうこの星を何周してるか数えるのも止めた位に、モノの魂を探して旅をしてきた』


 そうなんだ。自分の身体の維持の為にも、モノの魂が必要だからなのよね。

 孤独な人生かと思ったら、今まで数多くの出会いと別れを経験してきてるんだね。


「ねえ? 私の過去の書き換えもエネルギーの蓄えがあるって言ってたけど?」


『うむ。次回の若返りのエネルギーのストックを使った。また数年以内に魂の取り入れをせねばならぬな』


「そうだったんだ。ロッキーごめんね? 私の為に……」


『気にするな。それに美優はモノガタリだ。美優の側に居れば、自分で探しに旅するよりも遥かに効率的に魂の収集が容易だ。この間、言いそびれた事があっただろう? それがこの内容だ。魂をもったモノを集めてほしいと頼もうとしてたのだ。しかし美優も凄い星の下に生まれたものだな。言わずとも現にこうして、わずか半年足らずで……』


 そこまで言ってロッキーは口を閉ざす。私も気付いた。まだジョウジは答えを出してない。どうするかはジョウジ次第なんだ。

 手元のジョウジを見つめる。私とロッキーが話してても元気なく、ずっと黙ったままでいた。


「ジョウジ……」


『ボクは……ボクは消えないぞ! 新しい友達が出来たんだ!』


「え?」


 さっきまで落ち込んでたのはどこへ消えた! めちゃくちゃ元気な声だぞ⁉︎


『ボクと美優はもう友達なんだ! 裸の付き合いだってしたんだしね!』


 待て待て待てぇーい! 急な話題の転換は良しとしないぞ!


「ちょい待ち! いつ友達に? てかそれはいいとして、裸の付き合いって何よ⁉︎」


『ええ? お風呂でさ?』


「お風呂にあんたが居ただけでしょうが! 語弊のある物言いしないでよ!」


『モノだけに物言いか……美優にしては、なかなかシャレが効いてるな』


 異議あり! そんなつもりなんて無いわ!


「ロッキー! 感心してる場合か!」


『何をいきり立ってるのだ? 美優の所有物が一つ増えただけであろう?』


「何も喋らないモノなら歓迎よ!」


『物言わぬモノってやつかな?』


『そうだジョウジ、上手いぞ』


 どこがだよ! ってか、さっきまでのシリアスな気持ちはどこ行った!


『先輩には敵わないっす!』


『無論だ。出来が違う。それに我は美優の最初の所有物だ。もっと敬え』


『でも、美優と裸の付き合いしたのはボクが最初っすよ!』


『なんの! 我は美優の〝一人淫ら〟を最初に気付いた優秀なモノなのだぞ』


 待て待て待て待て! お前ら何の競い合いしてんだ!

 あ、顔が真っ赤になってくのが分かる。


『未遂だけど〝二人淫ら〟を最初に見たのはボクじゃない?』


『その減らず口を黙らせてやろうか? 我は強制的にでも、お主を吸収出来るのだぞ?』


「わぁー! ストップストップ! もういいから!」


 これ以上この話題を発展させたら、私の貞操の危機になる。本人を前にして、よくもこれだけ煽れるもんだ。


『何だ美優。此奴こやつの肩を持つのか?』


「そんなんじゃないから! 二人ともケンカしないの!」


『うむ。美優が言うなら止めておくか』


 何なのよこれは。弟に従兄弟の子供がケンカを吹っかけてる光景まんまじゃんか。


『改めてボク、ジョウジ! 宜しくね先輩』


『うむ。良きに計らうといい』


 あぁ……静かな私の平穏よ、さよなら。

 そしてようこそ。賑やかな日常よ——!

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