第6話 流れるように嫌われる
門衛の案内で城へと到着。
門衛と別れて、入口で待っていたらしい騎士らしき人物が僕に気づいた。
長身でがっちりした肉体の男性。
僕と違い気品があって立ち振る舞いも流麗だった。
彼は僕の首から下げられた聖紅の首飾りに気づくと、流れるように一礼した。
「お待ちしておりました勇者様」
「うむ、ご苦労」
居丈高に答えるけど、騎士は表情一つ動かさない。
教育が行き届いているということなのか、彼がそういう人物なのか。
「失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はぁ……そんなこともわからねぇのか。ワガ村のマグナだ」
「ワガ村? ああ……なるほど、あの」
あの、と言い含ませた。
僕がクズだって噂は届いてるねこれは。
いいよぉ、すごくいい、その調子で嫌っていこう。
騎士の表情には僅かに歪みが生まれた。
そして五回もレベルアップ。
よーーーーし! 嫌われたああああああ!
ちなみに以前も軽く説明したけど、僕の噂だけ聞いて僕を嫌った人がいてもレベル増減に影響はない。
僕に関わらなければ干渉することがないのだ。
関わる範囲内は『僕を直接認識したかどうか』だ。
僕の名前を聞いただけでは影響はない。
しかし僕の姿を見たり、声を聞いたりすると関わったとカウントされる。
当然、会話したり触れたりすることも関わったことになる。
マグナという人物だと認識し、関わることが必要になるのだ。
勇者のマグナであると理解していなくとも、僕自身を認識すればいいので、偽名でもいいし、勇者と知らなくても好感度は影響する。
このスキルは使い勝手が悪く厄介なんだ。
ただし一度関わると、以降は好感度の増減でレベルの影響はあるみたいだ。
しかしこれも少し特徴的で、その人が僕のことを完全に忘れてしまうとレベルが元に戻るのだ。
つまり『僕に関わったことがあり』『僕のことを覚えていて』『僕のことを嫌っている』というのがレベルアップの最低条件ということ。
厄介だよね、本当。
だから僕の現在のレベルは基本的にワガ村と隣村であるリュ村の人たちが、僕をどれだけ嫌っているかに依存しているわけだ。
ただ村の人たちが僕のことを完全に忘れることはないと思う。
ワガ村は勇者に依存してるし、村人は僕にされたことを許せないだろうし。
ちなみに『忘れる』というのは『名前を出されても誰かわからない』くらいの程度を言う。
なんでわかったかって?
村から出ていった人、再会した人、大して関わりのない人と色々いたからね。
最初の頃はスキルを調べるために色々と記録していたから。
それはそれとして。
「じゃあ、さっさと案内しろ」
「……こちらへ」
騎士は嫌悪感を見せつつも、僕を城へ迎え入れてくれた。
僕は風を肩で切りながら堂々と城内へと足を踏み入れた。
長い廊下、無数の部屋、豪華なシャンデリアや装飾、なんか城って感じだ。
騎士は一室まで案内してくれた。
「こちらでお待ちください」
一礼してすぐ立ち去って行った。
部屋にはソファーと家具があるだけ。
ベッドやクローゼットの類はないので小さめの居間か待合室か。
僕は鞄を置いて、お呼びがかかるのを待った。
「さて、どんな人が来るか」
迎えの人、ではなく『僕の仲間』に関してだ。
勇者は神授の議を経て勇者となり、村に存在する教育者に育てられ、大体十五~十八の時に村を出る。
その後、城へ赴き、神託を受けた仲間たちと共に魔王討伐の旅に出るのだ。
なぜそんな回りくどいことをするのか?
それは聖神グウィンドリン様の神託だからとしか。
教育者は基本的に神様に仕える人が行うことになる。
僕の場合は神父様がしてくれた。
ちなみに神託の勇者は三か月に一度選ばれる。
しかも国によっては時期がずれることもある。
そして必ず百人になるように選出される。
理由は聖神様の(以下略
ちなみに聖神様の神託に沿わず、勇者の義務を放棄したり、あるいは神託のない仲間を擁立したり、時期をずらしたりすると天罰が下るとされている。
実際、勇者を放棄した人は亡くなったり、周りに不幸が起こったりするらしい。
僕は勇者の任から逃げるつもりはなかったけど。
そういえばレベルはどれくらい上がったんだろう?
●名前 :マグナ
・レベル :1493 → 1692
・スキル :嫌者賛美(ジャッジメントレベル)
…他者に嫌われるほどレベルが上がる。逆に好かれるとレベルが下がる。
それぞれ一定の好感度の増減でレベル増減数が決まる。
うおお、すごい!
約200もレベルが上がってるじゃないか!
王都前の列の人たちや街中の人たちに嫌われたんだろう。
彼らがそれぞれの街で噂してくれることで嫌われの種が蒔かれるだろうし、かなりいい感じだ。
勇者となってから五年間、村から出られなかったからなぁ。
本当は各地に行って嫌われる行動をとりたかったけど、神父様との修行とかあったし、そもそも神託で行けな(以下略
なんてことを考えていたら扉がコンコンと叩かれた。
「お待たせいたしました、マグナ様。鞄はそのままで、こちらへどうぞ」
綺麗なメイドさんが迎えに来てくれたようだ。
「ご苦労。ところでいいケツしてんな。揉んでいいかぁ?」
「お戯れを」
綺麗に笑うメイドさん、そしてレベルが上がる僕。
我ながら流れるような嫌われ術である。
これでいい。メイドさんの間で僕の噂が流れるだろう。
そうすればもしかすると、王族や貴族の誰かに情報が伝わるかもしれない。
まあ、僕を嫌っても関わりがなければレベルの増減に影響はないんだけど、やっておくに越したことはない。
直接出会った時の嫌われ度は段違いだからね。
メイドさんについて行くと、僕は部屋を後にした。
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