第九話 オッカナ吃驚、テストの結果

「がや、がや」と掲示板前の立つ生徒達が騒ぎ立てていた。

「おっ、この前より順位が上がっている」

「エェェエェーっ、どうして?順位、落ちちゃってるの」

「ハハッ、今回も順位外か」

「良かった順位、落ちてない」

「上出来、上出来ッ!」

 その掲示板の前で生徒達が自分の順位を確認し夫々、自画自賛や嘲笑していた。


~ 二階の階段 ~


「おはよぅ、貴斗ォ!」

 走ってきた彼が階段で見つけたクラスメートであり親友の貴斗に挨拶をした。

「オハヨウ」といつもの様に淡々とそっけない返事を返すその相手。

「しっかし、何時も早いよな、オマエ」

「家、近いから」

「家が近くても遅刻する奴、結構いるもんだぜ」

「そんなもんか」と首を傾げてから彼はそう答え、

「それより、慎治。いつもより来るの早いんじゃないのか?」

「早く、結果知りたいんだよ。テ・ス・ト」

 彼は試験と言う言葉を強調して貴斗のそれに答えた。

「フゥ~~~ンッ」

「気にならないのか自分の結果?」

「別に」

「俺達、受験生だぜ!成績、悪かったら幾らエスカレーター式の学校でも上には行けなんだぞ」

 友達のその素っ気無い対応に正論を言って返していた。

「分かっている」

「ホントかよっ」

 そんな受け答えに苦笑交じりで慎治は貴斗を見ていた。

 それから、三階の三年生用掲示板の近くまで来た二人。そこで、ニコヤカな表情で挨拶をしてくる女の子が現れた。

「貴斗君、八神君!オハヨウ、御座います」

 その女子の幼馴染みである隼瀬香澄が続いて爽快に挨拶をしてくる。

「ヨッ、二人ともおはよォ~~~!!」

「藤宮さん、隼瀬、オハヨウ!」

「二人ともオハヨウ」

「貴斗、なんなのよその挨拶はもっと、こぉ~、気の聞いた挨拶とか出来ないわけ?」

 彼女は呆れた顔を作って元幼馴染みに聞いていた。

「例えば?」

「そねェ~~~?」

               ???


               ◆◇◆


               >=<


                ♪

 ちょっと考えてから香澄は男口調で演じて見せる。

「グッモォニィ~~~ンッ、詩織、今日の君はあの太陽のように一段と輝いているよ」

「フッ、馬鹿らしい」と それを聞いた香澄の頭一つ以上背の高い男は鼻で笑いながら率直に返した。

「ククック、そんな言葉、今時言う奴いないぜ」

 もう片方の男も笑いながら彼女に突っ込む。

「うっさいわね、慎治が笑うことないじゃない。それにアタシが言いたいのは」

 分かっているかのように慎治は次の香澄の言葉を遮って、

「隼瀬、こう言いたいんだろ。貴斗、オマエも藤宮さんの彼氏ならもっと気の聞いた挨拶すればってな。無駄な望みだと思うけどな」

「フフッ、良いのですよ、別に今は・・・、徐々にそうなってくだされば。それよりもテストの結果を拝見いたしましょうよ、八神君。私も香澄も今しがた到着した所なのでまだそれを見ていないのです」

 そんな会話をしているうちに慎治に対しては興味の無いと言っていた貴斗は既に掲示板を見ているようだった。

「詩織、あれだ」と指をさしながら恋人を呼んだ。それを見た詩織は、

「アッ」といって口に手を当てて驚く。それにつられて慎治と香澄も彼の指をさした方を見た。

「すっご~~い、しおりン一番じゃない」

「藤宮さんトップおめでとう」

 その二人はともに驚きながらそう賛美した。

「有難うございます・・・、デモね、デモね・・・、今回一番になれましたはヤッパリ貴斗君のお陰です。貴斗君、アリガト」

「よくやった」

 言って彼は周囲にいる生徒達など気にした風もなく、なぜか自然に詩織の頭に手を乗せ撫でていた。

 彼の言葉に詩織は小さく頷くと微量な嬉し涙をまじえた彼女の顔がホノかに紅く染まっていた。

「あらぁ~~~?貴斗、何時もらしからぬ行動ねぇ」

 貴斗のそんな行動を見た彼女はそうからかう言葉をかれにむけた。

 それを聞いた彼は自分のとった行動に気づき素早く手を引っ込めて顔を反らす。

「しおりンが一番になった決め手は、ヤッパリ、数学と物理よねぇ」

「他にもあるだろう?ほらっ、俺や貴斗なら出来て当然だけど今回、藤宮さんの情報処理満点に近いだろっ。だから合計点あの点数なんじゃないのか?貴斗の出る問題予想殆ど出題されたからな」

「ハイッ、貴斗君の教え方がお上手でしたから」と微笑みながら答えていた。

「そぉ~~~ねぇ、言えてるわ。私も結構、貴斗の教えてもらったことテストに役立ったからね」

 彼女は数学と情報処理のテストを受けている時の事を思い出しながらそう口にする。

「でも、不思議よね?情報処理の授業はちゃんとやっているけど、よく数学と物理の授業、居眠りしているのに」

 首をかしげながら疑問に思った事を隠さず言葉にしていた。

「それ本当なのですか?」

 そんな会話を彼女等がしていると、その二人の親しき友達がここへ現れ挨拶をしてきた。

「おはよぉっ!香澄ちゃん、詩織ちゃん。あれあれぇ、何で生徒がこんなに廊下に出ているのぉ」

 挨拶をしながらその理由を現れた女の子は口に出して聞いていた。

「春香ちゃんオハヨウ、御座います」

「オハヨ、春香。ハぁあぁぁっ、朝から良いボケかましてくれるわね、アンタは」

「えっ、え?なに、なにっ?」

 香澄の言った事が理解できずオロオロする彼女であった。

詩織はそれを見かねて掲示板を指差しながら彼女にそれを教える。

「春香ちゃん、あれですよ。テスト結果の順位」

「アぅ~~~っ、折角この事、忘れ様と思っていたのにぃ~~~。

酷いよ、詩織ちゃん」

「何でまた?」

「決まってんじゃない!自分の順位と点数がばれて恥ずかしいからだよねぇ~、は・る・かっ!」

 その名前の子の肩を叩きながら彼女は勝手に春香のその心の裡を明かす。

「香澄ちゃぁ~~ん、余計なこと言わないでよぉ~~~」

 涙混じりに春香は親友に訴えていた。

「ゴメン、ゴメン」と口では春香に謝っている彼女だが顔は笑っていた。

「今回は俺の勝ちだね!涼崎さん」

 指を掲示板にさしながら爽快な口調で彼女にそう言うのは彼だった。その二人のテストの順位は知り合う前からほぼ同じ位の位置を抜いたり抜かれたりという感じだった。

「エぇッ~~~、一番違いなんて、なんだか悔しいぃ」

 可愛く口を膨らませながら彼女は彼にそう答えを返す。

「アンタ達は、いいよね。チャァ~~~んと掲示板に載るの結果で」

 部活動の方を頑張り学業に力を入れない詩織の幼馴染はヒガミたっぷりの言葉を吐きながら、それに名前が掲載されている連中に言い放った。

 なぜなら、上位100位までに入っていれば普通科の場合、大学の進級は確定と聖稜は決まっていたのである。

「まっ、私は進学しないからいけど」

 水泳記録保持者の香澄は進学を考えておらず、卒業後は実業団に入って記録の更新に努力しようと思っていたから、彼女はそう口にしていた。

この時点でいくつかの企業から推薦があったのも進学しない理由の一つ。

「隼瀬、あれを見ろ」

 そんな事を口にする香澄に貴斗は静かに掲示板の後ろの方を指して彼女に言っていた。

「いっ!??」

 それを見た彼女は目を丸くして言葉に詰まる。他の皆も一斉にしてそちらを向く。

「香澄ッ!」

「凄いじゃないっ、香澄ちゃん。一体全体どうしちゃったのぉ?」

 二人の女の子は喜びを含んだ言葉で香澄を呼んだ。

「ハハッ、マジかよ?」と自分の目を疑いながら苦笑する。

「ウソ、信じられないッ!」

「何を言っている、リアルだ」

 驚いている皆をよそに其れを発見した男だけは冷静だった。

「貴斗、お前、驚かないのか?」

「ナゼ、驚く必要がある?祝福するのは当然だが驚く必要ない」

 そんな風に慎治に当たり前のように平然に答えを返す彼であった。

「貴斗、アリガトぉ~~~!」

 現在記憶喪失進行形でお互が幼馴染だったと言う関係を隠している彼女は上機嫌で彼に感謝の言葉を口にしていた。

「俺は感謝される様な事をした覚えはない」と彼女のそれに無感情に答えを返す彼。

「しおりンと一緒で数学と物理が利いていると思うんだ。アぁ~~~でも掲示板に載るのがこんなに嬉しい物だとは思わなかったわ」

「処で、貴斗、オマエはどうだったんだよ」

「別に」と勝手に探せばいいと言う感じで慎治のそれに返事。

「なんだよ、それ?」

 貴斗の返事に拍子抜けした彼等のそんなやり取りの間に詩織が貴斗の順位を探していた。

「ありました!」

「なんだァ?俺より順位上かよ!何で、何時も居眠りしている奴に、負けなきゃいけないんだ?ちくしょぉーーーっ。次は絶対、負けないからなっ」

 詩織が探したそれを慎治が見て文句を言いながら貴斗の方を向いて指ざしにそう言った。

「ガンバレ!」と感情を込めないで慎治にそんな無意味なハッパを口にする。

「なんでか、まじ、ムカつく言い方」

 女の子、三人は彼等のやり取りを見て穏やかに笑う。

 しかし、香澄以上に驚くべきことがあったのに気づいていたのは貴斗だけであった。

 それは今回も赤点覚悟だった宏之の順位が100位であったと言うこと。

 そして、宏之自身も全部のテストが返って来るまで信じなかったくらいの新事実。

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