第 二 章 夏休み前の憂鬱

第七話 夕食、おかず争奪戦線!

2001年7月15日、日曜日

 只今、勉強そっちのけでゲーム中の男二人。白熱のバトルを繰り広げていた。

「っんだよ、やられちまったぁ~」

「ヘヘッ、ざまぁ~~~ないね。今度も俺の勝ちだな!」とその男、二人は格闘ゲームで対戦をしていた。

「オイぃ、お前らゲームそこら辺にしてテスト勉強再開!」

 そう言葉にすると同時に二人のプレイ中だった、それを長身頑躯の男はPSⅡの電源ケーブルをコンセントから引っ張って切ってしまった。

「なにすんだぁ、貴斗!これから本気を出して華麗な技で慎治を完膚なきに叩きのめすところだったんだぜっ!」

「そうなるのはオマエの方だ」

「貴斗の言うとおりだ。ヌァワッハハッ、冗談は顔だけにして置け、宏之」

「クソッ、格ゲぇ~一番弱い貴斗、お前になんかに言われたくない」

「実践で強ければそれで良い」

「アンタ達、いい加減に勉強再開しなさい」

「宏之君、勉強の続きしましょ~よぉ」

 貴斗の家に集まっていた香澄や春香にそう言われ、ゲームをやっていた二人は渋々と勉強を再開したのであった。


~ 只今、数学の勉強中 ~

「貴斗君、この場所は如何すればよろしいのかしら?」

 宏之、慎治、貴斗、春香、香澄、詩織、全員、三番目の男の家で翌日から行われる期末テストの勉強をしていた。

「慎治、問7、終わったか?」

「今やっている処だぜ」

「うゥ~~~ん?」と問題をじっと見つめながら考え込んでいる。

「ねっ!しおりン、ココどうするの?」

「ここはですねェ・、・・・、・・・・・、ね~~~?貴斗君、ここの応用問題ですけど。これで正しいのでしょうか?」

「どれ・・・、そうだな、これはもっとこう言う風に解いた方が楽だ」

 その場所にいた者達はそれぞれ会話を交えながら約四時間もの時を勉強会で過ごしていた

『グぅ~~~、キュルルル』と誰かの胃の虫が鳴く。

「ヒロユキ、今、アンタの胃の虫がなったんでしょ」

 ニヤニヤした表情で彼女はそれが鳴った人物の顔を見ていた。恥ずかし気もなく彼女に答える彼。

「わるいかよ!」

「宏之君のお腹ってぇ、正直よねぇ」

 壁に掛けてある時計を見ながら彼女は彼にそう言った。現在、時刻は6時20分過ぎ。

「ウフフッ、それでは春香ちゃん、香澄。そろそろ夕食のお準備をいたしましょうか?」

 ニコヤカにその二人の友達に笑い、そう言いながら詩織は腰を上げた。一人暮らしの宏之と貴斗の為に今日は勉強会の後、女の子三人で夕食を作ってあげようと計画していたのである。

「そうしましょうか」

 呼ばれたその二人もそう返して、席を立とうとした。すると、男の一人が一人の女の子に対して、『そんなこと出来るはずがない』という表情で言葉を掛ける。

「何?隼瀬も料理するのか?」

「ヒロユキ、アンタどんな目でアタシを見てるのよっ!」

 彼にそういわれた彼女は少しばかり怒りを込めた口調で睨みながらそう言葉にしていた。そして、それに対する宏之の返答は。

「がさつ!」

 それから、それに続くように他の男二人も口を挟む。

「生まれてくる性別を間違えた」

「黙っていれば、女なのに・・・」

 男三人は言いたい放題、香澄に突っ込みをいれた。

「あ・ん・た・た・ちっ!!!!」

 彼等のその言葉を聞いて彼女の怒りが頂点に達していたようだ。

「ぶっとばすはよっ『ゲシッ!』」

「なんでおれだけぇ~~~」

「アンタが事の原因でしょ!」

 宏之と香澄の遣り取りを眺め呆れ顔で春香は溜息を吐いていた。

「ひろゆきくぅ~~~、香澄ちゃんに失礼な事、言っちゃ駄目だよぉ」

「香澄だって普段は女の子らしいのですけどね。フフッ」

「しおりン、余計なことは言わなくていいのっ!」

 そんな遣り取りの後、彼女達が料理を作り始めて約1時間が経っていた。

「うわぁ~~~、すげぇえぇえっ」

 出された料理のメニューを見た彼等、男三人は驚き声を上げていた。そこには計六品の料理とサラダの盛り合わせが出されていた。

「これ全部、隼瀬、涼崎さんと藤宮さんが作ったのか?」

「そうよッ!」と彼女は自慢気に言う。

「一人2品ずつ作ったのぉ。それとねぇ、詩織ちゃんがぁサラダを盛り合わせたのよぉ。奇麗だよねぇ~~~」

「それでは皆さま、どうぞお召し上がりください!」

「イタダキマスっ!!!」

 詩織の言葉で全員が声をそろえて言うと男どもは一斉に箸を動かした。

「貴斗、それ、しおりンが作ったの。アンタ、しおりンになんか言ってあげる言葉はないの」

「いいのですよ、香澄」

 彼女は実際、恋人がどう思っているのか知りたかったがあえて口には出さなかったようだ。

「うまい」と抑揚をつけず、一言だけ詩織の恋人である男は口にする。

「あんた、それだけ?」と呆れた表情で詩織の幼馴染は彼を見ていった。

「料理評論家じゃない、美味い、それしか言葉を知らない。それが今、俺に言える最上級の褒め言葉」と淡々にそう答えていた。

「嬉しです、アリガトウございます、貴斗君」

 貴斗の言葉には彼の感情など微塵にも感じ取れるものではなかったが、彼女はそれでも、彼の言葉で上機嫌になり、恋人に笑顔を見せていた。

「宏之、貴斗、この隼瀬が作ったの、結構いけるぜ」

「どれどれ。まっ、マジかよ、うめぇ~~ぜ、これ!」

「グぅっドっ!」

「ドぉ~~~?三人とも、少しはアタシのこと、見直した?」

 世間話を交えながら夕食も佳境に入ろうとしていた。

 皿に春香が作った一口ハンバーグが残っていた。そして、それを狙う二人の目が光る。それと同時にその獲物を狙って箸を持つ手も動いた。

「それは、俺が戴くッ!」

「そうは行くかぁ!」

「オイッ、慎治、さっき、藤宮さんが作ったチキンロールキャベ一つ多く食べただろ!」

「宏之、お前だって、隼瀬が作った、肉じゃが、皆より多く喰ってたじゃないか!」

 手に持っている箸先で互いを牽制し、睨み合いながら、その二人は獲物を狙って口論を始めた。

 そんな二人の言い争いを無視して残りの男が・・・。

「パクッ・・・、・・・、・・・、これ冷えていても美味しいな、涼崎さん」

 冷静かつ丁寧にそれを口にした男は春香にお世辞を言っていたのだ。

「オイっ、貴斗!何、冷静に感想言ってんだよ」

 怒気を放ちながら、慎治と宏之は貴斗に向かって言い放った。

「漁夫の利・・・、たしか鷸蚌の争いとも言ったか?」

 睨まれたその彼は先程の勉強で覚えたばかりの故事成語で冷静に返していた。

「貴斗君イツボウの争いは少しだけ使い方が違いますよ」

「り・ょ・ふ・の・り?るつぼの何とかだぁーーー?」

 憎らしげな目で睨みながら獲物を奪われた、その男二人は口をそろえて貴斗に、似て似つかない言葉を返していた。

「何だ、その目は?俺と一戦交えたいのか?」

 その気はないが凄みを効かせて彼は二人を睨みかえしていた。

「ハハッ、オッ、俺はパス。勝てない戦いは死んでもするなって死んだじいちゃんに言われているんだ」

 苦笑しながら、スポーツ狩りの似非関西芸人風の男はその場を引く。

「クッ、くそ~~~、覚えていろよ、貴斗!食べ物の恨みは、恐ろしいんだぜ!」

 そう言って癖っ毛の男もまた諦め、戦線離脱。

 そのやり取りを見ていた女の子三人は同時にニコヤカに笑い出していた。その後、男どもが後片付けをして、小一時間ほど、ありふれた世間話をしたのであった。

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