第五話 放課後の約束

「オぉーーーイっ、宏之。ホーム・ルーム、始まるぞっ!」と居眠りをしている宏之を揺すって起こしす。

「フゥニョ~~~~~~~~」と静かに頓狂な声を上げて体を起こした。

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「フワァ~~~、ホーム・ルームか?」

「アぁ~~~そうだよ、これで今日の学校は終わりだ」

 彼は当たり前の事を言って宏之に答えた。それから、担任の御剣が教室に入ってくると、喧騒としていた教室が静まり返る。

「それではホーム・ルームを始めましょう」と言って教師は連絡事項を話し始めた。

「ねぇ~、ヒロユキ。宏之は、今日も春香と一緒に帰るの?」とヒソヒソと宏之に聞いてきた。

 香澄は宏之の左隣の席、慎治は宏之の前に、貴斗は香澄の隣の席とそんな感じの配置。

「そのつもりだけど」とくだらない会話をしている内に、

「以上で連絡事項はおしまいです。それでは皆さん、気を付けて帰宅するよう」

 帰宅の挨拶が終わると生徒は皆それぞれ、教室から移動し始めた。

「さてっと俺もかえろっかなぁ~~~」

 この男も皆にならって教室を出ようとした時、担任の御剣はその生徒を呼び止める。

「柏木君、君が帰るのはまだ早いですよ」

「なっ、なんすか、御剣先生?」と白々しく答え、

「柏木君、忘れたとは言わせませんよ、私との約束」

 彼の担任はまるで勝ち誇ったような口調でその生徒にそう告げた。

「しっかりと明後日までに提出すること!」

 宏之に用意してあった宿題の何枚もあるプリントを手渡したのだった。

「ハハハッ・・・」とそれを渡された生徒は苦笑するしかなかった。

「来週のテスト範囲に出そうと思っている問題も含めてあるのでしっかりと、解いた方が君のためになります」

 担任は宏之に優しい口調で言葉を出していた。それだけ言うと早々にこの場を立ち去って行く。罰である宿題のプリントを手渡された宏之は数秒間ボーゼンとその場に立ち尽くした。

 その後、彼は教室の後ろを向き、貴斗が居ないか確認していた。偶然にも用事の有る筈の彼は未だ教室を発たず窓際に立って外を眺めていた。

「貴斗っ!」と親友の名前を呼びながら彼に近づいて行く。そしてその彼の前に着くと、

「却下!」と宏之が続きの言葉を発する前に窓際に立っていた長身の生徒は淡々とした口調で完全否定の言葉を出していた。

「まだ何も言っていないだろうが」と彼はカレにぼやく。

「シャウト・アップ!お前が言いたい事、既に分かっている」

 全てを知っているかの口調で宏之にそう彼は言い放っていた。

「それに御剣先生も言っていただろ?お前自身でやった方が良いと」

 この生徒は淡々とした口調で宏之にその様に言い渡していた。

「そこを何とか頼むよ、貴斗!」と、両手を合わせて懇願する仕草をする彼。

「なんで、俺に何かたのむ?」

「この学年で理数系、お前の右に出る奴いないだろ、それに俺とお前はマブな仲じゃないか。なぁたのむよぉ?」

「フッ!マブダチねっ」と、その言葉に鼻で冷たく笑って返していた。

「なぁ~~~ッ、だから頼むよ!」

「俺、用事あるし、無理」

「そこを何とかぁ!」

「俺じゃなくても隼瀬や慎治が居るだろ?」

「慎治もお前ほどじゃないが俺と慎治だけじゃ、この量はきつすぎる」

 掃除をしていた慎治が手を止め彼等の所にやって来た。

「話し聞こえてるぞ、俺にもその問題ってぇ~のを見せてみろよ!」

 そう言って宏之からプリントを奪って名前を口にされた生徒はそれを確認し、

「ウッヒャーっ、これは確かに多いな。俺と宏之だけなら相当苦労しそうだぜ」

「なっ、だから頼むよ!隼瀬は問題外だし」と、香澄の苗字を強調して貴斗に口にしていた。

「なんですって?」

 慎治と同じ掃除班で教室の隅、箒でゴミを掃いていた彼女も手を止めその会話に加わった。

「だってそうだろ、隼瀬お前、理数系苦手ジャンか?」と失礼にも平然と香澄に言っていた。

「そりゃそうだけど・・・、それより、貴斗、何やってるのよ?しおりンと約束あるはずでしょ?さっさといってやりなさいよ、あんた」

彼女は咎める様に貴斗に口を出していた。

「隼瀬、お前はだまってろ!」

 そう言い、次に香澄が何かを言う前に貴斗との話を再開した。

「なぁ~、なぁ貴斗、マジで頼むよ!」

「・・・わかった」と抑揚をつけず宏之に答えを返していた。

「おぉ~~~、そっか、そっか、俺との友情の方を選んでくれたのか。さすが心の友」

「分かっていても、友情とかそんな言葉口にするものじゃない。恥ずかしい」

 そう言いながらも冷静に彼は宏之にそう口にしていた。

「今日、ゼミないし、俺も手伝ってやるよ」と彼も宏之に付きあうと声に出し、

「二人とも恩に着るぜ!」

「貴斗、アンタ何言っているのか分かっているの?

今日、しおりンと約束あるんでしょ!そんな取り決めしてるんじゃないわよっ」と怒った口調で貴斗に問い詰めた。

「たとえ宏之に否定できないほど全面的な責任があっても・・・、ゴメン、困っているコイツを見捨てられる程、俺、腐っていない」

「・・・、・・・ハぁ~~~ッ?

あぁぁあ、もおぉアタシに謝る事じゃないでしょ、全く!」

 彼女は溜息交じりで彼にそう言ってかえしていた。

「隼瀬、お前に頼みがある」

「なによ?」

「詩織に言い訳をするときフォローして欲しいのだが?」

「フぅ~、しょうがないわね、誰か、さんと違ってアンタが頼み事をする事、なんか滅多に無・・・、・・・、無さそうだから、聞いてあげるわ」と彼女は渋々と貴斗の願いを承諾したのだった。

「何だよ、それ俺の事か?」

「アンタの他に誰が居るって言うのよ。貴斗、そ・の・か・わ・りぃ~!」

「なんだ?」

「ヒロユキのもらった宿題、テストに出そうな所をアタシにもちゃ~んと教えてね」

「Give and Take・・・、了解」と彼は即答した。

「それじゃ、即行で掃除、終わらせようぜ、隼瀬」とそう言って動き出し、掃除を再開した。

 貴斗と宏之の二人は、早く終わるように慎治と香澄の掃除を手伝うのだった。


~ 3年B組の放課後 ~

「詩織ちゃん、藤原君、遅いねぇ」

「はい、そのようですね・・・、春香ちゃんは柏木君の事を待っているのですよね」

「エヘッ」と詩織の言葉を聞いた春香は顔をホンノリ紅く染め照れていた。

「若しかしたら、宏之君と藤原君、まだ教室で話しているのかもぉ?」

「そうかもしれませんね、フフフ」と淑やかに微笑みながら同意しそう相槌を返す。

「それにしても、遅いですよねぇ~」と二人、一緒に言葉に出して言ってから彼女達は、

「クスッ、クスッ」と二人とも同時に同じ事を言ったのにたいして笑う教室には二人だけしか居なかった。暫くしてこの教室に人影がさす

「詩織、遅くなってすまないな」

 謝りながら彼はB組の教室に入り、それから、その後続く様に他の連中も入場していた。

「春香?まだ教室にいるか」

「フフッ、ヤッパリ二人ともご一緒だったのですね」

 自分の考えが当った事が嬉しかったのか入ってくる者達に対して彼女は微笑んでいた。

「しおりン、春香、アタシも一緒よ」

 二人のあとから入ってくる女子。幼少の頃からその女子は詩織を、親しみを込めて『しおりン』と幼馴染をそう呼んでいた。

「香澄ちゃんも一緒なんだねぇ」

「隼瀬だけじゃないぜ」

 言いながらもう一人の男子生徒も交ざり、

「よっ、久しぶり、涼崎さん、藤宮さん!」

「こんにちは、八神君」

「お久しぶりですね、八神君。ところで皆さん、どうしてご一緒なのかしら?」

 不思議そうな表情で彼女が誰となく尋ねていた。

 貴斗は不思議そうにしている詩織の顔を見て一瞬、困った表情をしたが、直ぐに言葉を出す。

「詩織、その・・・、ゴメン」と彼はバツが申し訳なさそうに彼女に謝っていた。

「エッ、どうして貴斗君、謝るのですか?別に、貴斗君が遅れて来ましたからって私、怒ったりしませんよ」

 柔和な表情と優しい言葉で彼女はそう彼に言っていた。

「違うんだ、詩織」

 何も知らない彼女の微笑みに躊躇いながらも、冷静に心の中では、本当に申し訳ないと思いながら、彼の恋人にお願いをする。

「今日の約束だけど・・・、キャンセルさせてくれ」

「エッ!どうして急に、その様な事を言うのですか?ねぇ、どうしてなのですか?酷いです」

 そう言い終えると彼女は凄く落胆した表情をみんなに見せていた。

「ゴメン」としか言えなかったようだ。

「藤宮さん、ゴメンな。俺が、コイツに重要な任務、押し付けちまったせいで。俺、貴斗と藤宮さんが、今日デートするの、知らなかったんだ」

 宏之は彼女にその理由を説明し始めた。その時、慎治と香澄は、心の中で言葉を出した。

〈よくっ、言うぜ、宏之の奴、貴斗と藤宮さんの今日の事を知っていたくせに!〉

〈ヒロユキって、ホント出任せうまいはね全く〉と思いながら苦笑していた。

「宏之君、それってぇどう言う事ぉ?」と春香が彼女の彼氏に追求し、其れに対して、

「・・・・・・、アハハハハッ」と乾いた笑いを静かな教室に響かせるその男。

「もしかして?」と何か分かったような顔つきでそう口にしていた。

「ひ・ろ・ゆ・き・く・ん、若しかして今日遅刻してきたのねっ?」

 少し怒った口調で彼を問い詰める。

「ハハハッ」と彼は再び空笑いしていた。

「ハハハッ、じゃないわよっ、はははっ、じゃ。宏之君、私との約束を破っておきながら、藤原君と詩織ちゃんの約束まで破らせる気なのぉっ?」と本気で怒った口調で宏之に言っていた。

「春香ちゃん、どういう事なのですか?」

 詩織の問いに対して春香は手短くその理由を説明した。

「どうしてっ、宏之君、遅刻したのぉ?ちゃんと説明して欲しいですっ!」

 命令口調で春香は宏之に訴えていた。

 春香の彼氏である宏之は適当に言い訳をして、真実をごまかした。

 本当は遅くまでゲームをして寝坊したのだが、それを言ったら何を言われるか分からないので、あえて事実を隠したのである。

「でも、ほらっ、よく言うだろ約束は破るモノだって」

「お前が言うナッ!」と宏之に対して間一髪で突っ込みを入れ、

「そうよぉ、宏之君のせいで詩織ちゃんと藤原君の約束まで駄目にしちゃったのヨッ!」

 咎めるように慎治の意見に同意して宏之に怒った表情を見せていた。

「柏木君?少しよろしいかしら?」

 物腰優しく詩織は宏之に尋ね、

「その出されましたプリントを私にも見せてもらえませんか?」と丁寧に要求してきた。

「ハイっ、これがそう」

 詩織がそのプリントの問題を確認しその隣から春香もそれを横から除きこんだ。

「ハハッ、本当に凄い量ね、それに難しそう見たい。私でも2日でこれを上げるのは、ハハハッ」

 その量に驚いたのか春香は苦笑しながらそう言葉にしていた。暫く、沈黙している詩織を見て彼女の幼馴染みの香澄が両手を合わせて懇願した。

「ねえっ?しおりン!アタシからもお願い。今回は二人を見逃してあげて。貴斗の事だから、この借りはキッチリ付けると思うから大きな利子つきで」

「フッ・・・香澄・・・・・・、今回だけだからネェ、今回だけ」

「あっ有難う、流石は藤宮さん理解がある」と感涙しながら詩織に伝え、

「すまん」と彼女の恋人である男は感謝の含みも込めて謝った。

「せっかく、お楽しみにしていましたのに」

 とても本当に残念そうに口を尖らせて、それを自分の彼氏に見せる女子生徒だった。

「しおりン、部活行こっかぁ!」とシンミリしている幼馴染みに彼女はそう言葉を掛けていた。

「ほら、はやく、それじゃ、皆また明日」

 そう言葉を言い残して香澄は詩織の手を引いて教室を出ようとした。

「隼瀬、詩織を頼む」と小さい声で通り過ぎる香澄にそうお願いを口にしていた。

 それを聞いた香澄は言葉に出さなかったけど、その顔はもちろん分かっているといった表情をしてかえしている様だった。

「それじゃ俺たちも行こうぜ!」と沈黙している三人を促して、皆そろって教室を出て行くのだった。

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