第15話 王国高等学園

 盗賊の襲撃があったおかげで、予定より2日ほど遅れたが、無事王都に到着した。到着後、この国の治安維持を担っている王国憲兵隊の詰所に盗賊を引き渡した後、色々と事情聴取されたため、もう日が暮れかかっている。


「うああ~。やっと着いた~」

 ララが大きく伸びをする。優季もララと同感だった。


(ホント、長かったな…)


「ねえ、ユウキはこれからどうするの?」

「うん、今日はもう宿を探して落ち着こうと思う。そして明日は学園に行ってみようと思ってる。ララ達は?」

「うん。私のおじさんが王都にいるので、私達はそこにしばらく厄介になる予定。よかったら明日一緒に学園に行ってみない? アルもいいよね」


 アルも同意したので3人は集合場所と時間を確認して別れた。


(一緒に学園に入れるといいな。さて、宿を探そう)


 実はお金はバルコムがたくさん預けてくれ、マジックポーチに保管している。だから、いい宿に泊まろうと考えていた。この3週間馬車に揺られてくたくただったし、ゆっくりとお風呂に入りたい。そして、アノ日も近い…。

(少しくらい贅沢してもいいよね)そう思う優季だった。


 近くにいた商店街の人に宿の場所を聞いてやってきたのは、「紅水亭」という宿であった。5階建ての王都では中堅クラスの宿だが、食事もおいしく、お風呂も完備しているとのことなのでここに決めた。


 早速、中に入ると広いロビーはきれいに飾られ、カウンターには美しい受付嬢が2人。

 

「あの、えと、1人ですけど、1か月ほど泊まれませんか」


「大丈夫ですよ。1泊朝食付きで銀貨1枚と大銅貨2枚で、夕食は別料金、大銅貨1枚になります」

「この宿には大浴場があります。入浴時間は夜10時までです。男女別ですので安心して入れますよ。宿によってはお風呂があっても混浴だったりしますからね」


「へえぇ~。じゃお願いします」

「では、前金で半月分。銀貨18枚です」


「はい」優季はマジックポーチから銀貨を取り出すと受付のお姉さんに支払った。

「ありがとうございます。これが部屋の鍵です。3階の305です。それではごゆっくりお休みください」


 優季が部屋に入ると、そこは8畳ほどの広さがあり、暖かそうなベットと暖房魔具、おしゃれな机とクローゼットがあった。優季は荷をほどくと早速お風呂に入ることにした。


 盗賊退治から王都まで5日間。馬の休憩以外は休みなしで向かったため、ゆっくりと体を洗ったことはない。冬だったからよかったものの、夏だったら強烈な異臭がしただろう。

 入浴道具と着替えをもって、1階の大浴場に向かう。大浴場の中は広く、浴槽は20人が入ってもゆったりできるくらいの広さがあった。夕方の早い時間なので、入っている人もまばらで、ゆっくりできそうであった。


 体と髪を時間をかけて洗い、熱いお風呂につかると今までの疲れが溶けて流れていくようだった。湯船の中に沈む自分の体を見て、すっかり女の子の体に見慣れてしまったな~と思う。

 寝間着に着替えて、宿の洗濯屋に汚れた服を出して部屋に戻り、クローゼットに服を収納した。そして、しばらくやってなかった日課の美容魔具をコロコロと体に転がしていると猛烈な眠気が襲ってきた。


「今日は夕飯はいいや…」


 優季は久しぶりに感じるふかふかの布団の感触に体を委ねるのであった…。


 翌朝、優季が目覚めると日は大分高くなっていた。


「いけない!」

 慌てて部屋着に着替えて2階の食堂に行く。サラダとソーセージ、クロワッサンの朝食を急いで摂り、さっと朝風呂に入る。歯を磨いて、学園に行く準備をし、急いでララとアルが待っている場所に向かった。


「ご、ごめん。寝坊しちゃって…」

待ち合わせ時間に遅れた優季が謝罪すると2人とも許してくれた。


「まだお昼前だし、大丈夫だよ」

「それよりも、今日もまた、かわいい服だねえ」


 今日も優季はリボンで飾ったブラウスと短いプリーツスカート。美しい生足に白のソックス、ワンポイントの付いた黒のローファーといった格好だ。頭には黄色の大きなかわいいリボンが付いた水色のベレー帽を載せている。

 腰には念のためミスリルダガーを帯剣している。


 優季はマヤの徹底した教育のおかげで、普段はかわいく着飾ることが当たり前と考えているのだ。黒の珠の中でマヤはガッツポーズをしてるに違いない。また、王都は王国の南に位置しているので、冬でもそんなに寒くない。


「ほら、またアルが恥ずかしがってそっぽ向いちゃった」



「ユウキはどこに泊まっているの?」

「えと、紅水亭ってとこ」

「へえ、結構いい宿だよ。お金持ちなんだね」

「いや、そういう訳ではないけど、よさそうなお風呂のあるところだったから…」

「ああ、それは大事なポイントだよね。女の子だもんね」


「ねえねえ、周りの男の子。みんなユウキを見てるよ」

「そ、そんなことないよ」

ララと他愛もない話をしながら歩いていたら、学園が見えてきた。


 学園は3階層の住民区とは別に区画を造り、学園区として整備された中に建てられている。3人は門の前に立っているが、あまりの敷地の広さに驚愕していた。門を中心に左右は高い塀で囲われていて、内側は大きな木が何本も並んでいる。


「は、入ってみようか」

 ララが恐る恐る2人に声をかけ、3人が中に入ると、門の内側にある小さな建物から警備兵が声をかけてきた。


「君たちも受験希望者かい」

「え、ええそうです」優季が答えると、

「それなら、この中央通路を真っ直ぐ行くと、中央棟という大きな建物が見える。入って右側の101会議室にいくといい。受験のための説明をしてくれる係員がいるよ」

「あと、その剣は中に持ち込めない。ここで預からせてもらうよ。帰りに返すから寄ってくれ」

「わかりました。教えてくれてありがとうございます」


優季がミスリルダガーを渡すと、兵士が引換券を渡してくれた。


 並木道となっている通路は10mほどの幅があり、石畳が敷かれていて歩きやすい。周りを見渡すと優季達と同じように、受験希望者らしき同年代の少年少女が歩いているのが見える。門をくぐってから15分位歩いただろうか。やっと、中央棟らしき建物が見えてきた。


「結構歩いたねえ~」「全くだ、疲れるぜ」とララとアルがぼやくが、助さん格さんに鍛えられた優季はそれほどでもない。


「中に入ろう」

優季が2人に声をかけた。


 他の人たちと同じように、入り口でスリッパに履き替え、101会議室を探す。会議室は直ぐに見つかった。会議室の扉を開けると、奥に机が置かれ、係員らしき人が何人かこちらを向いて座っている。その前には椅子が50席ほど並べられており、優季達と同じく説明を聞きに来た受験希望者で3分の2程度埋まっている。

 優季たち3人も空いた席に座ると、説明が始まった。

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