第13話 ララとの出会い

 ラナンに向かう馬車の中で、レオンハルトは色々と教えてくれた。


「王都は広いぞ。人口は80万位か。大きく王城と貴族が住むエリアと中級市民が住むエリア、一般市民が住むエリアに分かれている。商店街はほとんど一般市民エリアにあるな。貧民街(スラム)もあるが、治安が悪いからユウキみたいな女の子は近づかない方が無難だな。貧民街で捕まったら慰み者か娼婦にされちまうぞ」


「取り締まりは行われないんですか」

「一応、憲兵隊が取り締まることになっているが、貧民街のやつら貴族とつるんでいるから難しいのが現状だ」


「き、気を付けます…」


 レオンハルトは結構物知りで、何も知らない優季には大いに参考になるのであった。


「ここで一旦休憩にする。昼食を支給するぞ」


 御者がそう告げて馬車を止めた。そこは休憩所として整備された場所で、テーブルと椅子が設置された東屋が数棟あった。


 馬車には何人か乗客があるようで、めいめいに降りてきた。優季が数えてみると10人ほどいた。レオンハルトは他の馬車に乗っていた仲間の元に歩いて行ったため、優季は1号車の乗客と一緒に支給された固いパンと塩を利かせた干し肉を食べた。


「か、固い…」干し肉をかじると固く、中々かみ切れない。何とかかみ切ろうと悪戦苦闘していると、同じ馬車に乗っていた男の子が、「水につけて柔らかくして食べるんだよ」と教えてくれた。

 優季はにこっと笑って「教えてくれてありがとう」と言うと、男の子は顔を真っ赤にして母親の陰に隠れるのであった。


 休憩所から出発してからは、皆疲れたのか、居眠りを始めている。優季は初めて森から出た珍しさで、馬車の窓から景色を眺めていた。それからしばらく経ち、日が沈みそうになった頃、宿泊地のラナンの町に着いたことを知らされた。


 レオンハルトによると、ラナンの町は人口2万人ほどの、ロディニア王国では平均的な大きさの町であるとのことであった。御者から明日朝の出発時間を教えられた後、めいめいに宿探しを始める。中にはローブを着た商人のように馬車の中で休むものもいるようだ。また、ラインハルト達護衛は冒険者組合の宿泊施設に泊まるとのことであった。


 優季は御者に紹介してもらった宿に向かう(紹介料に銅貨5枚とられた)。宿は3階建てで中に入ると1階は受付カウンターと食堂になっている。食堂は居酒屋も兼ねているようで、テーブルのいくつかに町の男たちが酒と食べ物を注文して騒いでいるのが見えた。絡まれたら怖いなと思いながら、優季はカウンターに行き、受付にいたおかみさんらしき女性に、「1泊お願いします」と告げた。


「1人かい。素泊まりなら大銅貨7枚、夕食と朝食を付けると銀貨1枚だよ。あと、風呂はないから、お湯は提供できるけど銅貨3枚いただくよ。トイレは1階の奥」

「じゃ、夕食と朝食付きでお願いします。あとお湯も下さい」

「わかったよ。これが部屋の鍵だ、部屋は3階だよ。夕食は適当に降りてきたら出すよ」


「あの、夕食は部屋で食べてもいいですか。1人でここで食べるのちょっと怖くて」

「ああそうだよね。お嬢ちゃん、格好の獲物になりそうだもんね。いいよ、作って届けるよ。ただ、食器は下げておくれよ。その時にお湯を渡すからさ」

「はい、お願いします」


 部屋は6畳ほどの大きさで、ベットと机、椅子が対面式に配置されている。明かり取りのランプを付けてしばらく休んでいると、おかみさんが夕食を運んできてくれた。


「ゆっくりお食べ」


 夕食は野菜と肉がたっぷり入ったシチューと小さなステーキ、パンであった。早速シチューを食べてみると、とても美味しかった。昼からまともな食事を摂っていなかったこともあり、素朴な味ながらお腹がじわりと温かくなるのを感じた。


 その後、食器を返し、バケツ1杯のお湯をもらって部屋に戻ると、しっかりと鍵をかけ、お湯を使って体を拭き、美容魔具で体を磨いた(毎日の日課となってしまった)後、歯を磨いてベットに入った。


 朝、目を覚ますと朝日が昇るところであった。冬の朝特有の放射冷却でとても寒い。優季は服を着こみ、毛皮のローブを羽織って部屋を出た。


「おはよう、朝食の準備できてるよ」とおばさんが声をかけて来たので、食堂のテーブルに座り「おはようございます。いただきます」と言って準備されていた朝食を食べ始めた。


 食べ始めてしばらくすると、不意に、「ねえ、君!」と声をかけられた。


 声をかけられて驚いた優季が、のどにパンを詰まらせ、「んぐ、んぐ」と日本で見ていた国民的アニメの女性のように唸っていると、声をかけた人物が「わあ、ごめんごめん!」と謝りながら水を差しだしてきたので、ごくごくとの飲み干し、何とか落ち着くことができた。


 優季が声の主に振り向くと、優季と同年代、身長は優季よりやや低めな茶色の髪をショートカットにしたややそばかすの残るあどけない顔をした女の子が立っていた。


「ごめんねえ、女の子が1人でいたから珍しくて。もしかしたら、王都に行くの?」

「え、うん、王国高等学園を受験しようと思ったから」

「そうなんだ! 実は私たちも!」


 大きな目をパチクリしながら大声で優季に話しかける。


「たち、も…?」

「うん! 私はララ。もう一人、向こうに座ってむすっとした顔の男の子がアル」

「私たちも高等学園を受けに行くんだ!」


 優季がアルと呼ばれた男の子の方を見ると、身長175cmほどある、同年代としては大柄な赤茶色の髪をした男の子がお茶を飲みながら、こっちを見ていた。


「ねえ、君の名前はなんていうの?」

「え、ああ、うん。ボクはユウキ、ユウキっていいます」

「わあ、ボクっていう子に初めて会ったよ! ホントにいたんだ。よろしくねユウキ!」


 今、優季たちは連絡馬車の車内にいる。宿での朝食後、身支度を整えてララとアルの2人と一緒にここまで来たのだ。


 2人はラナンの町に住んでいるご近所さんで、ララの家は炎の魔法を使って魔具を作る魔具師をしており、ララも魔具師を目指すため、アルは昔から騎士にあこがれていて王国聖騎士団に入るため、王国高等学園に入学したいのだという。

あの宿には、連絡馬車の時間に早かっため、朝食を摂ろうとして寄ったらしい。


「ユウキは何で学院に入りたいの?」と聞かれた優季は明確な目標はないため、

「え、えと、見聞を広めるためかな…」とあいまいに誤魔化すのであった。


 馬車の出発後も優季とララは他愛もない話をしていたが、アルが全く優季の方を見ないのが気になった。


「ねえ、ララ、アル君はボクの方を全く見ないんだけど。何か嫌われるような事したかな」

「ユウキ、自分の姿を見てごらんよ」


ララは少し呆れたような目をして優季に言ってきた。


 馬車の中は、暖房の魔具(ララの実家でも作っているそうだ)のおかげで暖かいので、毛皮のローブは畳んで脇に置いている。このため、私服の状態なのだが、マヤの薫陶よろしく、女の子らしいかわいいブラウスとその上にリボンのアクセントが付いたジャケットを着ている。優季の大きめの胸が強調されて、非常に女っぽい。

 下は、濃い藍色で短めのプリーツスカートと、黒のぴったりとしたタイツを穿き、脚線の美しさを損なわずに、防寒に配慮している。靴はくるぶしまでの防寒ブーツ。

また、ポニーテールにした髪には大きな黄色のかわいいリボンを結んでいる。


「ユウキって、すごい美少女じゃない。美少女にそんなかわいい恰好されたら男の子は恥ずかしくて目も合わせられないし、声もかけられないよ」

「ええ、そ、そんなことないと思うよ」

「いいや、ユウキは王都に行っても目立つよ。胸も結構大きいし」


 そういえば、ララの胸は…。


「今、失礼なことを考えたでしょ」


 アルをよく見ると、顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。慣れるまで仕方ないかと考えた後、そういえばラインハルトは静かだなと思い出し、客車の隅にいる護衛を見るとレオンハルトではなく、黒いローブを纏って大きめの杖を持った女性が座っていた。

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