第三十五話 罰ゲームor地獄

「マジで!?」


「マ〜ジ」


 ぎゅっと抱きつき、胸を押し付けながら耳元に話かける天使。いい加減纏わりつくのは邪魔に思えてきたので、力づくで無理矢理体から引き離し、天使の胸を握力ボールの要領で握りつぶしながらサダンさんの真似をして脅す。


「教えろコラァ」


「あんっ!

 ……んふふ。いいけど、そ・の・か・わ・り❤️」


 胸を握り潰されたままの天使がひざまづき、祈りのポーズをとりながら唇を突き出し、俺の顔の前で目を瞑った。


「キスして」


 うわあぁ。

 あまりの気持ち悪さに両手を胸から離した。腕を見ると、鳥肌がびっしり立っていた。

 諸君は生きた虫を口に入れる事が出来るだろうか?

 俺は無理だ。例え食用のカブトムシの幼虫やらエスカルゴやらバッタやらだったとしても無理だ。気持ち悪すぎる。俺にとって天使とキスするっていうのはそれと同等なのだ。


「むぅーー。ジンくん。妻に対して気持ち悪いは酷いよ。私は虫じゃないよ」


 天使が目を瞑ったままぷくっーっと頬を膨らませた。

 虫じゃないのか? じゃあ膨らんでるからフグか。毒あるからどっちみち無理だな。


「なんでよ。キスしよジンくん。んーーー」


「い・や・だ」

 

 とキスを拒否すること20回超(めちゃくちゃしつこかった)。怒った天使(フグ)が頬を膨らませたまま、タコのように両手をバタバタさせながら。


「もぉぉぉぉぉぉーー! ジンくんのバカ! 意気地なし! ヘタレ! キスしないなら今すぐにでもハデス様呼んで地獄に――」


 ちゅっ。


 『ハデ』まで言ったところで、光の速さで唇をくっつけた。


「んんっ!?」

 

 オマケで舌も入れてあげる。

 そ、それだけはアカンで◯藤。

 体をガタガタ震わせながら、罰ゲームから一転して天使とのキスという天国を選ぶ俺。

 何故なら、天使とのキスを『フグとの生キス』だとすると、ハデス教官による地獄行きは僧侶の『千日回峰行』×50くらいの過酷さだからだ。

 死んでるからもうこれ以上死なないのをいい事に、地獄で何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度でも何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も殺されるのだ。それも毎回違う方法で。

 リ◯ロの主人公であるス◯ルくんより酷い体験と言ったらその過酷さが伝わるだろうか。

 だからそれに比べたら、天使とのキスなんて最早天国。ご褒美だ。

 幸せ。生きてるって幸せ〜。

 キスによって生を実感して涙を流していると。


「ちゅっ。ジンくん。大好きだよ❤️」


 足を俺の背中に回し、お猿さんのように抱きつきながら、今度は天使から舌を入れてキスしてきた。

 うんうんその程度の気持ち悪さなんて天国や。俺は幸せやで◯藤。


「ちゅっ。私工◯じゃないよジンくん。でもそんな理解不能なジンくんも大好き❤️」

 

 それから約1時間ずーーーーっと天使とありとあらゆるキスを四十八回もし、唇や顔、身体中が天使の唾液でベタベタ〜。になったところで、満足した天使がやっと汗まみれの体を離してくれた。


「はぁはぁ。いっぱいシタね。ジンくん❤️」


「確かにな。一生分のキスをした感じやで◯藤」


「工◯じゃないって。

 私はまだまだシ足りないけど、ジンくんのキスとっても気持ちよかったから、お礼に教えてあげるね❤️」


「教える?」


「忘れたの? エンペラーゴブリンに勝てる唯一の方法だよ」


「せやった」


 それが目的でキスしたのに、ハデス教官への恐怖ですっかり忘れてたで◯藤。


「だから私工◯じゃないってば!

 もういいや。じゃあ教えるね。エンペラーゴブリンに勝てる唯一の方法はね」


「唯一の方法は」


 天使がベッドの上で立ち上がり、何故か俺の背後に回り、ムニュっと胸や体を密着させながら、今度は背中にキスして。


「ちゅっ。それはね。私と体をさせるの。今のジンくんと私なら簡単でしょ❤️」

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