第三十三話 天使(虫)による誘惑(笑)

「――はっ!」


 気がつけば目の前は真っ白な天井。

 そうか。俺は死んだのか。

 上だけ体を起こす。かかっていた毛布がスルリと落ちた。

 毛布?

 地面をよく観察すると、俺の寝ている場所はキングサイズのベッドの上だった。

 なるほど、ここはベッドの上か……なんで?

 しかも服を着ておらず裸で寝ていた。なんで?

 シャーー。

 水の滴る音がすぐ隣の部屋から聞こえる。

 そこに顔を向けると、シルエット越しに誰かがシャワーを浴びていた。

 この部屋、シャワーまでついているのか……なんで?

 キュとバルブを締める音がして、シャワーを浴びていた何者かがシルエット越しに体を拭き、軽やかな歩みでこちらに来た。


「やっと起きたね。あ・な・た❤️」


 一糸纏わぬ姿で現れたのは、天使だった。

 程よく大きな胸、すらっとした体、人間とは思えない美しく整った顔。どれをとっても完璧で、普通の男なら魅力されているだろう。

 だが俺は、真顔で虫を観察するように天使の体を隅々まで見ながら。


「何の用だ。シャワーを浴びている暇があったらとっとと俺を元の世界に帰せ」


 と声をかけた。ちなみに元の世界とはもちろん、エンペラーゴブリンなどが存在しない、かつて国王として君臨(笑)していた平和な世界だ。


「うふふ。シャイなのね。妻が裸でいるのに「帰せ」なんて」


「誰がシャイだ! ……ん? 何してるんだ?」


 服を着ないまま、両手を広げながらこちらに歩み寄る天使。


「何って。夫婦の寝室で裸の夫婦がやることは一つじゃない」


 と言い、俺の寝ていたベッドに入ろうとする天使。俺はプリンのように柔らかな胸を押しながら抵抗する。


「誰が夫婦だ! 勝手に入ろうとするな!」


「はあんっ、激しいのね。

 ジンくんちゃんと分かってるね。本番前に前戯は大切だもん……ねぇ」


「何が分かってるだ、勝手に興奮するんじゃねぇえええええええ!」


「はぁはぁ……わかったよ。んんっ……もぅ……」


 と胸を押しているだけなのに息を荒げながら頬を赤らめ抵抗虚しく無理矢理ベッドに入る天使。もういいや。コイツに欲情するなんて転生しようが、一万年と二千年経過しようがあり得ないしな。

 てかそもそもの話、人間はカブトムシのメスに欲情するか? 答えは否。スズメバチのメスに欲情するか? やっぱり否。横にいる天使もそれと同じだ。性的に興奮する要素が皆無に等しい。裸だろうが虫を眺めているようなものだ。

 なんて思っていたら。


「もう! 妻を虫をなんて失礼だよジンくん!」


 子供のように頬をぷぅーっと膨らませながら怒る天使。事実なのになー。

 

「……でも」


 天使が吐息が触れる距離までグイッと俺に近づき。


「私のような虫とならこ、子供は作れる……よ」


「は?」

 

「その証拠に今から……しよ」


 恥ずかしそうにそう言い、天使が色っぽく顔の前で両足を広げ、くぱぁと両指で股の中まで見せつけてきた。

 あーはいはい。

 真顔のまま足で股を踏み「あんんっっ!」と興奮している天使に再度「いい加減元の世界に帰しやがれ!」と拷問官のように股をぐりぐりと攻める。


「はぁはぁ、ジンくんの前戯激しすぎ。

 でも妻としては痛い前戯は終わらせてそろそろ合体したいかな……」


「うるせえええええええ!」


 戯言を言う天使を肩に担ぎ、ベッドの反発力を利用しながら天井付近まで飛び、筋肉バ◯ターのようにベッドに頭から叩きつけた。


「あぁんっ――!」


「はぁはぁ。どうだ、帰す気になったか」

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