エンペラーゴブリン編
第一話 この世界超ヤバい。
天使に転送された先は夜の草原だった。
「またここから始まるのか」
夜だけど月のような星が二つあるのであまり暗くない。
すぐ近くには人が通るように舗装された道があった。それとアイテム袋にはこの世界での生活費がほんの少し入っていた。
「この金はきっと天使なりの俺を殺したお詫びなんだろうな。まぁこれはこれ、それはそれとして、絶対許さないけどなあの天使!」
思い出したらまた怒りが湧いてきた。
「心を落ち着かせるためにも少し歩くか」
とりあえず人のいる場所を目指し歩く事にしたがなんだか体が疲れていたので、初日ということもあり探索は明日にすることにして、川辺で焚き火をして今日はもう寝る準備を済ませた。
その時。
「きゃあああああっ!!」
「ん? これは女性の悲鳴?……悲鳴!?」
俺はすぐ悲鳴の聞こえた森の中へと向かうとそこには。
「グォオオオ」
「だっ誰か、誰か助けて!」
高校生ぐらいで金髪の少女がいて、その正面には5メートルはあろうトラの魔物が今にも襲い掛かろうとしていた。
「デケェえええ!」
俺は神眼でその魔物を見る。
《デッドリータイガー》(魔物)
ATK 3200
DEF 6600
SPD 5560
《スキル》
なし
ーーーーーーーーーーーーー
ステータスの数値がおかしい。この数値前の世界の幹部とかそんなクラスだぞ。それが野生で出てくるなんてこの世界ヤベェところなんじゃ――。
「グォオオオッ!」
『デッドリータイガー』がその巨体に似合わず俊敏な動きで少女に飛びかかった。
ヤベェ!
「させるか!」
俺は少女の前に立ち聖剣を召喚した。
例え幹部クラスだろうが今の俺の聖剣はっ!
《神聖剣シャイニング・スター・ソード》(聖剣)
ATK +90000
《スキル》
光変化(この剣のATK以下のDEFを持つ敵を光に変える)
ーーーーーーーーーーーー
「お前より遥かに強い。
くらえ必殺『シャイニング・スター・スラッーーーシュ!』」
「グァアアアーーーー!」
一撃で真っ二つになり光になって跡形もなく消滅するトラの魔物。
「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった」
聖剣と一緒になって、スマ◯ラのマ◯スのような決めポーズを取りながらカッコよく決める。
ふっ、決まった。
だが少女は俺の決めポーズを見ても感想など言わず。
「あっあの、助けてくれて、あ、ありがとね」
モジモジしながらお礼をいう少女。せめて『キャー! カッコいい!』くらいは言って欲しかったぜチクショー。
「ふっ、それはどういたしまして。それじゃあ俺はもう行くので。さようなら」
普通ならここでフラグが立ったりして少女といい感じになるのが物語の王道展開だが、かつてそうはならず断られて一人寂しく旅をした経験から俺はカッコよく去る事にした。
「ちょっ、ちょっと待って!」
だけどこの少女は俺を呼び止め。
「あの、あなたに助けてもらったお礼がしたいのだけど、私に付いて来てくれないかしら」
まさかのお家に呼ぶパターンのラブコメ展開がキターーーー! なんだよこの展開。お礼って一体俺何されるんだろう。ぐへへ。
「わ、わかった」
俺はムフフ気分で少女の住んでいる街に行くことにした。
「あ、まだ名前を教えてなかったわね。私は『ミイナ』よ」
「ミイナか。俺は『ジン』だよろしく」
「うん。よろしくねジン」
「ああ。それで、ミイナはなんでこんな暗い森に1人でいたんだ?」
「隣街から帰る途中に近道しようとしたらあの魔物に襲われたのよ」
「そうか。それは災難だったな」
「災難よまったく。酷い目にあったわ」
こうしてしばらくミイナと会話をしながら外道を歩いていると、森を抜けた先に立派な城壁を携えた門が見えてきた。
「ミイナさんおかえりなさい。おや、そちらの方は?」
街の入り口では武装した門番のおじさんが声をかけてきた。
「途中出会った旅の人で、私の命の恩人なの」
「そうですか。それなら検問なんていらないですね。どうぞお通りください」
あっさりと通してくれた門番さん。
「ここが私の住む街『ホオープ』よ」
「なかなかに大きな街だな」
街の中はかつて俺の治めていた(形だけだけど)王国よりは栄えてなかったがそれでも街としては大きく、店などがあちこちに並んでいた。
「そしてここが私の家よ」
ミイナの家は貴族とかの住むような大きな屋敷だった。
「へぇ、すごい屋敷だな」
「それはそうよ。だって私のパパはこの辺一帯を治めている領主をしてるんだもの」
「領主か。それならこの屋敷に住んでるのも納得だ」
「でしょう。それよりお礼したいからほら、入って」
「お、おう。お邪魔します」
「おかえりなさいませ。お嬢様」
中に入るとミイナと同い年くらいのメイドが出迎えてくれた。
「ただいま『マカ』」
「そちらのお方は?」
「私のお客様よ」
「そうですか。初めまして。私はこの屋敷のメイドをしている『マカ』です」
「ジンだ。よろしく」
自己紹介をしてミイナに屋敷の中を案内された。
屋敷の中は前の世界の貴族の屋敷と似たような内装だったが、不思議なことにこんなに広いのにメイドはマカと呼ばれた子一人だけだった。
「この部屋よ」
俺はミイナに長いテーブルのある部屋に案内され。
「じゃあ今から食事を用意するから、ジンはここでしばらく待っててね」
そう言ってマカと一緒に部屋を出るミイナ。用意ってまさかミイナが手作りするのか? まさかな。
だが俺の予想を裏切るように。しばらく待っているとゆっくりドアが開き。
「お待たせ」
そこからエプロンを身につけたミイナとマカが一緒に料理を運んできた。
「ミイナ。その格好は」
「ああ、これ? 料理作ってたのよ。いっぱい作ったからたくさん食べてね」
「マジで!? これ全部ミイナの手作り!」
「マカにも手伝ってもらったけどね」
照れるように申告するミイナだが、テーブルいっぱいに置かれる料理は全部プロが作ったんじゃないかと思わせるような料理ばかりだった。
「それよりお嬢様。ジン様。早く食べないと料理が冷めますよ」
「それもそうね。ジン。冷めないうちに早く食べましょう」
「おっ、おう。いただきます」
まずは熱々のスープをスプーンですくって一口。
「美味い!」
「そうでしょう」
ミイナも椅子に座って嬉しそうに頬に手を置きながら俺に微笑みかけてきた。その姿はとても可愛かったが俺はミイナとマカ二人の手作り料理に夢中になってたので口に出して言わなかった。
20分後。
「美味かった〜。ご馳走様」
「ふふふ。お粗末様」
大量にあった料理をミイナと一緒に食べ終え、お腹いっぱいになった俺とミイナの二人でリビングのような部屋でくつろいでいると。
「それじゃあ本題に入りましょうか」
「本題?」
「そうよ。とってもとーーーーっても重要な事を今から話すわね」
ミイナの表情は真剣そのものだった。
今から何を言われるんだろう。
ゴクリと喉を鳴らして俺はミイナを見つめる。
「実はね。ウチの家訓で――」
その時。突然バンっ! とドアが勢いよく開き。
「ただいまミイナ! 仕事が終わってパパが帰ってき、た、よ……」
「パパおかえりなさい。もう帰ってきたのね」
パパと言われた紳士服姿の男性は初対面の俺を見てスタスタ無言で詰め寄り俺の服を持ち上げながら。
「貴様、ウチの娘とどうゆう関係だ! あぁん!」
「ちょっと、離してください……」
ミイナのパパって英国の紳士風なのに中身は日本のヤ◯ザじゃねぇかよ。
「死ぬ覚悟は出来てるのかって聞いてるんだコラァ!」
「やめてパパ。ジンさんは私の命の恩人よ」
「命の恩人だぁ」
「そうよ」
命の恩人と言われたら普通『ありがとう』とかいうものだがミイナパパは違った。
さっきまでのヤ◯ザのような怖い顔から今度は阿修羅のようなもっと怖い顔にバージョンアップして。
「だったら尚更じゃないかミイナ。つい最近ウチの家訓を教えたよな」
「ええ、『命を救われたらその人の嫁に』だったわよね」
「そうだ。この男は命の恩人なんだろう。ならお前をこの男の嫁にしないといけない」
嫁に? 家訓?
「そうよ。私はもう嫁に行く覚悟はできてるわ」
「ダメだ。そんなのワシが許すわけないだろ!」
なんか話がどんどん勝手に進んでいくんだが?
え? 俺ミイナと結婚するの?
「あの、俺の話を聞いて――」
「貴様は黙っていろ!」
「やめてパパ!」
グサリ。
俺の腹に何かが突き刺さった。
「痛っ! なんだこの痛み……は」
「いやああああ!」
お腹がなんだか熱い。
腹を見ると細長い剣が心の臓に突き刺さっていた。
おかげでペットボトルをこぼした勢いで血がドバドバ流れている。なるほど。だからミイナの顔が真っ青にっ……てえええええええ!?
「ミイナ。これで嫁に行く話は無効だ」
「そんな。ジンさん……」
ドサリ。
剣を引き剥がしてミイナパパが俺を地面に落とした。
その間にも意識がどんどん朦朧としていく。
「まだ魔王とも戦っていないのに……俺こんなあっさり死ぬ……の……か」
こうして俺は異世界に送られて3時間も経たない内に呆気なく死んだのだった。
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