第89話 ありのまま
「おい、本当か?」
僕が曉子さんとご両親のやり取りについて、
「本当だよ。お母さんはキャバクラ自体に良いイメージを持っていない。そこを払しょくできないかなって」
「お前にしてはなかなかのアイディアだと思うよ。あのお母さん、かなり強情なところがあるからな。お前、りおんと結婚したらあのお母さんとうまくやっていく自信あるの?」
「ま、まだ気が早いって!」
「アタシの質問には答えてねえな(笑)」
「そうだね。確かに感情の起伏が激しいし、意固地なところがある。でも、とても娘想いの良いお母さんだと思うんだ。僕が曉子さんを大切にしていればきっとうまくいくんじゃないかな」
「まあ、上手くやってくれよ」
「ああ。っておい、まだ何も決まっていないからね⁉」
「本当かぁ?」
姉小路は僕の目を覗き込んでニヤニヤしている。
(こいつ、何か知ってるのか?)
「ほ、本当だよ」
「りおんから聞いてるぞ? 来年の6月に式を挙げるって」
曉子さん、姉小路に言ったのか‼
「え、聞いたんだ」
「りおん、ものすごく喜んでたぞ? 携帯越しでも本当に幸せそうな声が伝わってきたよ」
曉子さん、そんなにも喜んでくれていたんだ。
曉子さんと結婚できることは、僕の方が幸せなのに。
「それに比べてアタシときたら。ここ3年くらい全く男っ気なくてさ。客からも『怖い』とか言われてちょっと凹んだりしてるんだ」
姉小路は少し寂しそうな顔をした。
「姉小路は物事をはっきりさせる
「お前に慰められるとなんか腹立つな(笑)」
「そうか? 僕は姉小路には本当に感謝しているんだ」
姉小路は僕の言葉に少しびっくりして、そして愛想笑いをした。
「へえ、そうなんだ。そりゃどうも。誰かいい人いたら紹介してよ」
そう聞いて、僕はなぜか水野の事を思い出していた。
「あ、ああ。もし誰かいたらな」
「で、さっきの話に戻るけど、いつ実行するんだ?」
「お二人とも直ぐにでもとは言っている」
「りおんから店長に話は通してるのか?」
「話をする、とは言っていたけど」
「じゃあ念のためアタシからも店長に言っておくよ」
「それは助かる」
「あとはどんなおもてなしをするかだよな……」
「それについては僕は門外漢だ。姉小路に相談したのは実はそこなんだよ」
「まあ任せとけって。アタシがきっと満足させるようなアイディアを考えるからさ」
「うん、本当に姉小路は頼もしいよ。よろしくお願いするよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ほほぅ、ではりおんちゃんのご両親がご来店されると、そう云う事なんですね」
「はい、店長」
「仕事に対する『偏見』を払しょくするような何かを提供したいと」
「ええ」
「僕は反対ですね。誤魔化してまで、ご両親を欺いてまでここで働きたいとそう聞こえます」
「店長……そんなつもりは……」
「ハハハ(笑)。少し言いすぎましたね。でも、堕天使での仕事をありのまま見ていただければ。きっとご両親はちゃんと分かってくださると思います」
「そうでしょうか?」
「何もやましいことはないでしょう?」
「そ、そうですが」
「ですから、りおんちゃんは普段通りやってください」
「はい。店長を信じます」
「店長~、あ、りおんもいたんだ。悟から聞いたぞ! ご両親ここに来るらしいじゃんか」
「クレアさん、お客様を呼び捨てにするなんて」
「あー、ごめんなさい。でもなんかさん付けとか笑っちゃうね。でさ、アタシなりに何かおもてなしを考えてきたわけ」
「クレアさん、その事についてはもうりおんちゃんと話はついています」
「話がついているって、どんな」
「ありのままの勤務態度を見ていただければ」
「まありおんには問題ないよ。でもさ、たまにエロいオヤジとか客で来るじゃん。そういうお客さんが来たら」
「特に、りおんちゃんをお気に入りの仲井様が要注意ですね」
「仲井様……は、ちょっと確かに苦手です」
「まあ、そこは全員でサポートしましょう。りおんちゃんは大船に乗ったつもりで」
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