第75話 尾上 麻子でございます!
「りおんちゃん、こんにちは」
この声、間違いない。
あの人だわ。
悟さんの家に居た人。なんでここに?
背がスラっとして、そうね、クレアさんみたいな高身長。悔しいけど美人だし、クレアさんみたいな着こなしでファッショナブルだわ。
年齢はたぶん私より一回り位上かしら。
私があっけに取られている間に、この人はウチの玄関の中まで入ってきてしまった。
「あ、あの。入ってくださいとは言っていませんが。ど、どちら様でしょうか。不法侵入になりますわよ?」
「まあ落ち着いてください。えーと、私は麻子。はじめまして、ですよね?」
はじめましてじゃないわ。いったい何なのかしら。
「もし間違っていたらごめんなさい。その、麻子さんってさっき尾上 悟さんの家に居た方ですか?」
「そうよ」
なによ! この人!
さも当然みたいな顔をして。
私がどんな気持ちでいるか分かっているのかしら?
「それで、私に何の御用でしょうか」
「ケーキまで買って悟に会いに来てくれたのに、なんだか慌てて帰ってしまったから。だから、もう一度悟に会ってもらえるかしら?」
悟さんとこの人って、どんな関係なの?
で、私にまた会いに来いって随分な話じゃない!
「いえ、もう私は尾上さんに会うつもりはありません。」
「どうして? 悟のこと好きなんじゃないの?」
この人、私をバカにしてるの?
あなたのせいで、あなたのせいで私はこんな最悪な気分になっているのに。
「だって、私はもう……」
「私はもう?」
「あなたのせいで私は悟さんから棄てられたんじゃないですか!」
言うつもりはなかったのに、つい感情が爆発して大きな声を出してしまった。
「曉子、この女の方は誰なの?」
母が私の声を聞きつけて玄関口まで来てしまった。
「あら、こちらはりおんちゃんのお母さん? ちょっとりおんちゃんをお借りしていきますわね」
「ちょっと待ちなさい。あなた何者なの? あなたでしょう? ウチの曉子がいない間に尾上悟に取り入って家にまで入り込んでいる泥棒猫は!」
「『泥棒猫め!』ってセリフ、本当に言う人がいたんですね。ちょっとびっくりしたわ。お母さま」
「なによ、あなた。随分人を馬鹿にして! 曉子! 警察よ! 警察を呼びなさい!」
もう、私も何が何だか分からなくなってきちゃって。
お母さんはこんな風に逆上するし、この麻子って人はなぜだか私を悟さんのところに連れて行きたがるし。
と、とりあえず携帯電話だわ。
「ちょっと待って」
私が携帯電話を取りに行こうとすると、麻子という人は私を呼び止めた。
「おじけづいたの? 構いやしないわ。曉子。警察に電話。だったら母さんが電話するわよ!」
ますますお母さんはヒートアップしている。
「お二人とも、少し冷静になって」
「はあ? 何を言っているんですか! あなたは招かれざる客なのよ? 分かっているの?」
「いいえ、私はあなた方二人が邪魔にするような人物ではないわ」
「何を言っても無駄よ! 警察! 警察を!」
私も少し頭に来てしまって、警察を呼ぼうと思った。
でもどこにそんな自信があって、私たちに「自分が邪魔をされるような人物ではない」なんて言えるのかしら?
「名乗り遅れて申し訳ありません、私、尾上 麻子と言います。東堂曉子さんのお母様。」
おのうえ……あさこ? えっ、お姉さんかしら?
「あの、悟さんのお姉さん、でいらっしゃるんですか?」
「いいえ、悟には兄が一人しかいません」
確かに、悟さんにはお兄さんがいるとは聞いている。
「というと?」
お母さんも私も混乱している。じゃあこの人は一体誰なのかしら?
麻子、と名乗るその人は、少し微笑んでから大きくすぅーっと息を吸い込んでから言い放った。そして私は凍り付いた。
「尾上 悟の母でございます」
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