マザコンとは云わせない

ももいろ珊瑚

第1話 マザコンとは云わせない


  アダムスの息子等は己のイヴを求めん―


  イヴならしめるは何かとさぐるとき―


  順接のかたちでも逆接としてでも―


  我れたらしめたイヴが喚起されるのは―


  ことわりの中である。



 自分の理想の女性は、芸能人で云えば吉〇〇百合さんだ。


 “ 親世代の憧れの人を何故? ” と彼女が訊いた。


 彼女は高校の後輩で初めて相思相愛になったひとだ。


 課外活動を通じて知り合い、同じ電車に乗り合うことが多く、他にも共通テーマが何等あり。 気付けば行動をよく共にしていて付き合うように為った。


 文学少女の部分は、其れに遠く無かったかもしれない。



 “ しかし初めての相手とは結ばれない、と云うじゃないか? ”


 彼女自身にもそうと言って於いた。 あらかじめ、という訳では無く一般論として話してあった。 初恋とは結婚には至らず、最初から成就しないと決まっている様なもの、と。



 彼女を家に招いた。 家の者が出払う休日を選び留守に家に呼んだ。


 自分の部屋を見せたいのもあった。 学校や他所と異なった雰囲気で話したいのもある。 蜜なる時間を過ごしたかったことも、だ。

 だが口づけを交わす間もなく、家人が帰宅する。


 玄関で母の呼ぶ声が聞こえ、焦った余り彼女に隠れている様に言ってしまう。 何とか事無くして脱出させるから、と。

 そして各々が部屋へ入るのを見計らい、彼女を外に逃がした。



 去り際に、私の靴があったのに何か言われはしなかったか、と彼女が問うた。


 靴が脱ぎ捨てられていたが挨拶も出来ない子か、と母が言っていたことをそのまま伝えると、


 “ 誰のせい、貴方に言われるまま従ったのに ”


 “ 私が隠れて会わないといけない愚かしい者みたいじゃない ”


 と、泣き目で憤慨された。


 紹介するには早々だったし、するならば正式なものとしたい、ただそれこそが理由だった……。 とは云え、其れが遠退いたのも自明であったが。



 ときは流れて、彼女は自分の初めてのひとと為った。

 その前にも、その後も多々あったが之は別のはなしで、自分達は一層甘く語り合いじゃれあった。


 更に月日は流れ、受験時節となり、母から決め事を言い渡される。 受験が終わる迄は交際相手に会うな、と。


 翌日の帰途のホームにて、これを彼女に伝えた。

 彼女は言葉を失い、眼に衝撃と動揺が浮かんでいた。 自分もあとの句が出ない。


「……で、どうするの? もう会わないの? そんなこと出来るの? 貴方はそれでいいの?」


「仕方無いよ……」


「お母さんに言われれば、そうするのね。」


「間違った事は言ってない。 今は学業が本分なのはその通りだろう? 結果が出る迄の数ヶ月会わないだけだよ。」


「お母さんから言われたからじゃなくて、貴方がそう決めたなら。……別れましょ。」


 声には、落胆と怒りと諦めと侮蔑が聴いて取れた。


 「別離わかれなど望んでない。 振りだけで良いじゃないか。 考え直してくれ……」


 泣いて頼んだが、彼女とこれ迄のように聞き入れることをしなかった。


 “ お母さんが貴方の一番なんだから、これからもずっと望む姿を見せてけば? 私は一番になれなかったし、そんなの成りたくもない!”


 彼女が最後に出した結論で、二人は別れることに為った。


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