第61話
この世界に生きる者にはすべて魔力が備わっているっていうのは本当みたいね。前に神官長から聞いたことがある。人によって量はバラバラだけど、魔力自体は持っている人がほとんどだって。ただ、本当に魔力がない人もいるかもしれないらしい。わたしは会ったことないけど。
そもそも、狭い世界の中でしか生きていなかったしね。……狭い世界、か。本当の世界はこんなにも広かったんだなぁ……。
「アクア?」
「あ、ごめん。ええと、それじゃあ、この屋敷にいてくれる五人は誰かな?」
ココに名前を呼ばれて、わたしはハッとしたように顔を上げた。考え事に集中しちゃうところだった。危ない危ない。
わたしの問いに、手を上げるコボルトたち。ココも屋敷にいてくれるみたい。なんだか嬉しいな。一気に仲間が増えた感覚だ。
「じゃあ、セシリー。ココたちを案内してくれる?」
「かしこまりました、アクアさま」
ではこちらへ、とセシリーがコボルトたちを誘導する。他のコボルトたちは、一緒に大通りの屋敷へ向かうことになる。ディーンがあらかじめ馬車を手配してくれていたから、馬車に乗り込んで大通りへ! 馬車は何台も用意されていて、それぞれ好きな馬車に乗っていた。ララにも悪いけれどついて来てもらった。
大通りの隅にある大きな屋敷。……あれ、空き家だったんだ……と、思うくらい綺麗な屋敷だった。家って人が住まないとすぐに荒れるって聞いたことあるんだけどなぁ……どこで聞いたんだっけ、覚えてないや。
それはともかく、確かにこの屋敷ならコボルトたちが住んでもまだ部屋が余りそうな感じね!
大通りの隅だから、あんまり
「……なにやってんだよ」
「ごめん、ありがとう」
呆れたように肩をすくめられた。小さく息を吐いてから、屋敷の玄関をノックする。すると、すぐに扉が開いた。あまりの早さにびっくりして目を丸くすると、わたしと同じくらいの歳の女性が「どちらさまですか? ……って、あ、バーナードお兄さま」と言葉を紡いだ。
ば、バーナードお兄さま!?
バーナード、あなた、兄だったの!? と思わずバーナードに顔を向けると、バーナードは妹に近付いて「昨日言っただろう」と呟いた。それで伝わったのか、バーナードの妹は明るい笑顔を浮かべて、わたしに向けてカーテシーをすると、柔らかい口調でこういった。
「お待ちしておりました。アクアさま」
「え、なんでわたしの名前……」
「バーナードお兄さまから聞きましたわ。さぁ、入ってくださいな。夫婦で今か今かと待っていたのです」
……夫婦?
バーナードのご両親も待っていたのかな、と思いながら屋敷に入る。みんな一緒にね。バーナードの妹はコボルトを見ると一瞬不思議そうな表情になったけれど、すぐに応接間? に案内してくれた。応接間には、二十代くらいの男性が待っていて、白衣を着ていた。ど、どちらさま……?
「さぁ、座ってくださいな」
応接間はかなり広くて、わたしたちが座る場所もきちんと確保されていた。緊張した面持ちでコボルトたちが椅子に座る。わたしたちも座った。するとすかざす、メイドがお茶とお茶菓子を用意してくれた。素早い、すごい。
「改めまして、バーナードの妹のフィロメナと申します。そして、こちらは……」
「夫のラシードです。初めまして」
「夫?」
「はい、フィロメナの配偶者です」
……ちょっと待って、フィロメナってわたしと同じくらいの年齢じゃないの?
目を大きく見開いてふたりを交互に見ると、ディーンがちょっと戸惑ったようにわたしに声を掛けてきた。
「貴族の結婚は年齢早かったりするんだよ。生まれてすぐに、婚約者がいることもあるんだから」
「生まれてすぐに!?」
思わず大きな声が出てしまった。だって、生まれてすぐって赤ちゃんの頃に婚約者が出来るってこと!? どうなっているんだ、貴族世界……わたしにはさっぱり理解出来ない……!
「お前だってずっとここに住んでいたら、嫁ぎ先が決まっていたかもしれないぜ?」
「お兄さま! アクアさまに向かってその口調は……!」
「あ、いいのいいの。みんなも普通に話してくれたほうが嬉しいな、わたし。ところで、フィロメナって何歳……?」
「十六歳です」
「じゅ、十六歳で結婚……?」
「はい。アルストル帝国では、男女共に十六歳から結婚出来ますから」
……し、知らなかった。……あ、ダラム王国の結婚年齢についても知らないわ。結婚は神殿の管轄外だったもんね。なぜか王族の仕事だったことを覚えている。陛下の前で夫婦になることを誓うっていう感じだった。
「あれ、じゃあもしかして、成人も十六歳?」
「はい、そうです」
……ってことは、わたし来年成人? 成人したらなにが出来るんだろう……?
「……っと、考え込む前に。わたしはアクア。よろしくね!」
なんか、最近考え込むことが多くなっているような気がする。きっと情報量が多すぎて、自分の中で消化できていないんだろうな。しっかりしないと!
笑みを浮かべて挨拶をすると、ふたりは目をぱちぱちと瞬かせて、それから朗らかに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます