第60話

 そして翌日、わたしたちは再びコボルトたちの待っている村へ向かった。ちなみに突然のコボルトに、屋敷の人たちはびっくりしていたけれど、受け入れてくれた。こんなに可愛いんだもん。メロメロになっちゃうよね!

 ココは大役を果たした達成感からか、なんだか嬉しそう。可愛いなぁ、もう。転移石であっという間に移動できるのが本当にありがたい。元瘴気の森に移動して、ココの案内でコボルトの村へ歩いていく。ココは村につくと長老の元へと走って行った。二本足で走るコボルトの後ろ姿……とても可愛い。うっとりとその可愛い姿を眺めていると、他のコボルトたちが集まって来た。……この森のどこで寝ているんだろう。……まさか、野宿……?


「アクア、今日も来た!」

「おかえり?」

「えっと、ただいま?」


 パタパタと尻尾を振りながら集まって来る小さいコボルトたち。視線を合わせるためにしゃがみ込み、両腕を広げると我先にと駆け寄って来てくれた。あー、かーわーいーい! 思いっきりデレデレな表情になっていると思うけど気にしない。この可愛さにまさるものはないのだ!

 ココが身振り手振りで長老に説明しているのが見えた。長老はうんうんとうなずきながら、ココの話を聞いていた。そして、話し終わったのか、長老たちが近付いて来た。


「ココから話は聞いた。アクアの屋敷に五人、大通りにコボルトたち十五人を受け入れてくれる、と」

「はい。それから、もうひとり、ルーカス陛下の傍にいてくれるコボルトも」


 合計十六人だ。長老は嬉しそうに笑っていた。


「人間たちと交流がもてるのは嬉しい。ありがとう、アクア」

「どういたしまして。ルーカス陛下にも伝えるね」

「うむ。では、この者らを頼む」


 そういって後ろを振り向く長老。視線を長老の後ろへと移動すると、ずらりと並ぶコボルトたち。昨日、手を上げてくれたコボルトたちかな?


「それともうひとりだったな。では、ララ。行ってきなさい」

「はい、長老」

「えっと、十五人には音楽を週に一回流して欲しいんだけど……」

「ほうほう、コボルトの音楽に興味があるのか」


 音楽が好きなのか、コボルトたちの目が輝いた、気がした。


「新しい音楽を求めているみたい?」

「そうか、そうか! ならば楽器も持っていこう」

「いっぱい音楽する!」

「いっぱい楽しくする!」


 コボルトたちはそういって楽しそうに笑う。その表情を見て、これからのことを想像した。週に一回の音楽。多分……ううん、きっと帝都の民を楽しませてくれるだろう。これを機に、人間とコボルトたちが良い関係を築いていけたらいいなぁ。そのためにも――……ちらりと、バーナードに視線を向ける。実は昨日、バーナードはわたしの屋敷ではなく、伯爵家に帰っていた。ルーカス陛下に頼まれたからね。いつの間にか屋敷に戻ってきていたけど。


「……一応、大丈夫だとは思う」


 バーナードにしては珍しく、歯切れの悪い言葉だった。それが意外で目を丸くしてバーナードを見上げると、肩をすくめられた。

「それじゃあ、わたしについて来てくれるコボルトたちは、ついて来て。帝都アール

テアに向かうよ!」


 ……と、口にしてから気付いたのだけど、お別れの時間が必要なのでは……? なんて考えていたらみんな勢いよく尻尾を振って、「人間の街!」、「行く、行く!」と……とても前のめりだった。好奇心旺盛なんだろうな、コボルトたち。


「えーっと……楽器は忘れないようにね」


 とりあえずそういってみると、ハッとしたように顔を上げて、自分の楽器を取りに行った。テンションが上がっているんだろうなぁ、ふふ、大人のコボルトも可愛い。みんな楽器を手に取って、早速帝都アールテアへ向かう。……とはいえ、転移石で移動するんだけどね。わたしたちの住んでいる屋敷へ移動して、住民登録してから大通りの屋敷へ向かう予定だ。……どうか、コボルトたちがみんなに受け入れられますように!


「準備できた! 行こう、アクア!」


 その言葉を聞いて、わたしはうなずいた。「また来るね」とコボルトたちにいってから、転移石で帝都へ!


「はい、つきました!」

「はやっ!」

「ここが人間の街?」

「うーん、ちょっと違うのよね……。とりあえず、屋敷に入ってね。用意はもうしてあるから」


 首を傾げるコボルトたちを招き入れ、礼拝堂へと足を進める。礼拝堂にはセシリーたちが待っていた。わたしたちがコボルトのところへ向かっている間に、住民登録のためのカードを用意してくれた。というか、事前にルーカス陛下が手配してくれていた。素早い。


「このカードに魔力を流してください」


 そういってコボルトたちにカードを渡すセシリーたち。コボルトたちはちょっと戸惑っていたけれど、わたしがこくりとうなずくとすぐにカードに魔力を流した。


「これでいいの?」


 くいくいとわたしの服を引っ張って尋ねるココ。ココも好奇心旺盛らしく、わたしたちについて来た。


「どれどれ……、うん、大丈夫」


 カードを確認してぐっと親指を立てる。ココはぱぁっと笑って尻尾を嬉しそうに振った。可愛い。本当に可愛い。そんなことを考えていたら、いつの間にかみんなの住民登録が終わっていた。早い。

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