第21話

「マナーが悪いって怒られない?」

「そこまではいわないと思うけど……」

「あ、俺は参加しないから。まぁ、王城の飯を楽しめばいいんじゃねぇの」

「……他人事だぁ」

「他人事だからな」


 そりゃあバーナードにとっては他人事よね……。いや、陛下と一緒に食事をするってかなり緊張するわ……。王城のご飯かぁ……。……一体どんなご飯なのか、気になりはするけれど……。きっと一流の料理人が作った一流の料理が出されるんだろうけど……。


「……服装、これで大丈夫?」

「平気平気。公式の食事じゃないし。ほら深呼吸、深呼吸」


 ディーンにいわれた通り深呼吸を繰り返すと、ちょっと落ち着いた気がする。それを確認してからディーンが歩き出す。それを追うわたし。……っていうか、荷物あの部屋に置いたままでいいのかな……?


「どこで食べるの?」

「中庭」

「……!? 外で食べるの?」


 ティータイムというわけでもなく!? わたしが驚いていると、ディーンがくすりと笑ってこう聞いて来た。


「メイドたちに見られながら食べたい?」


 ぶんぶんと首を横に振る。ディーンは「だよねぇ」と笑っていた。……配慮してくださったのかな、陛下。結構いい人なの? ……いや、判断材料が少なすぎる。陛下ってだけで怖そうなイメージがついて来るのはなぜかしら……?

 移動中に窓の外を見てみると晴天だ。確かにこんなに良い天気の日に外で食べるのは美味しいだろう。


「来たか、アクア、ディーン」

「お招きありがとうございます、陛下」

「ええと……あの、本当にご一緒してもよろしいのでしょうか……?」

「もちろんだ」


 中庭はすっごく綺麗だった。色々なバラが咲いていて、これだけでも見応えがある。さっき謁見の間見た陛下は、外に出てから眺めるとまた雰囲気が違うなぁと感じつつ、謁見の間ではよく見られなかった陛下の顔を見る。……うん、ディーンもイケメンだけど陛下もイケメンなのねぇ……。バーナードも顔だけ見ればイケメンだし……この国にはイケメンしかいないのか!


「どうかしたか?」

「いえ、格好いい人にしか会わないなと思って」

「そうか、それは褒め言葉として受け取っておこう」


 そういって陛下がすっと手を上げると、料理が運ばれてきた。サンドウィッチやらフライドチキンやらスティックサラダやら……。片手でも食べやすいラインナップが丸いテーブルに並んだ。すっとディーンが椅子を引いてくれたので、その椅子に座る。

 ちらりと陛下を見ると、彼はにこりと微笑んだ。このラインナップ、わたしに気を使ってくれたのかな……?


「美味しそうですね!」

「うむ、うまいぞ。早速食べよう。……これはどうだ?」

「え? はい、ありがとうございます……?」


 丸いテーブルに並んだ料理のうち、サンドウィッチを手にしてわたしに渡してくれた。

 ちなみに、わたしの左隣に陛下が、右隣にディーンが居る。……なんだ、この位置は……丸いテーブルなのに、どうしてこんなに近くにいるんだ……。


「いただきます」


 と、一言挨拶をしてからサンドウィッチを口に運ぶ。しっとりとした食パンに、シャキシャキのレタス、濃厚な黄身のゆでたまご、丁度良い塩加減のハム……。辛子マヨネーズが味を纏めている……気がする。美味しい!


「気に入ったか?」

「すっごく美味しいです!」


 わたしの返事を聞くと、満足そうにうなずく。……シェフの料理の腕を自慢したかったのかもしれないな……。なんて思いつつ、サンドウィッチを食べる。


「この野菜スティックも、野菜の味が濃厚で美味しいぞ」


 と、人参のスティックを手に取るとマヨネーズをつけてわたしに向ける。

 これを……どうしろと? と困惑して陛下とディーンを交互に見ると、「ほらほら」とずいずい迫って来る。ちょっと、ディーン、肩を震わせて笑っていないで、なんとか助けてよ! と心の中で叫んだ。陛下はわたしの口元まで野菜スティックを寄せているし……、ええい、ままよっ! とぱくりと噛り付いた。ちらっと陛下を見ると、満足そうに微笑んでいた。……なんなんだ、一体。

 うさぎにでもなった気分だわ……。とりあえず、用意された料理は美味しくいただいたけど!

 食べ終わった頃を見計らったかのように、食後のお茶を渡された。うーん、良い香り~。


「……君は本当に祖母に似ている」

「そうですか?」

「ああ、今度祖母の肖像画を見せてやろう」


 ……大聖女ステラの肖像画って神殿にあるんじゃなかったっけ?

 それにしても……随分フランクな陛下だな……と考えながらお茶を飲む。……わたしがこんな風に、アルストル帝国の王族と話す日が来るとは思わなかった。陛下はお茶をひと口飲むと、ことりとカップを置いてわたしを見る。


「出来れば、アクアには護衛をつけたいのだが……」

「ディーンとバーナード?」

「なんだ、聞いていたのか。……もう二度と、あのような悲劇を起こすわけにはいかぬからな」


 ……その悲劇の内容を全く覚えてはいないのだけどね……。

 神力しんりょくを扱う聖女や聖者は、アンデッド系の魔物には(会いたくないけど)よく効くけど、生身の人間にはあんまり効かないからね、浄化って。悪意に満ちた人の浄化って骨が折れる作業だから。 

 悪意なく人を襲う人たちもいるし……。他の魔法なら使用することで時間稼ぎは出来るかもしれないけど。……わたしに腕っぷしもないしなぁ……。まぁ、心配されていることはわかる。

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