第13話

「ごめんね、時間を取らせて」

「あ、いや……。民を守ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 ぺこりと頭を下げるディーンに、わたしはひらひらと手を振った。すると、バーナードが怪訝そうな表情を浮かべてわたしを見て問いかける。


「どうして助けたんだ?」

「どうしてって、……人助けに理由がいるの?」

「……それ、は……」


 わたしの前で誰も死なせない。それが、あの日からのわたしの誓いだから。……それを口にすることはしない。彼らに余計なことをいうつもりもない。わたしはわたしの信念を貫くだけだもの。


「アクアが魔物討伐に付き合ってくれると、騎士団の負傷率と死亡率減りそうだなぁ」

「騎士団って大変なのねぇ」

「まぁね。でも、増えすぎた魔物は倒さないと、民の生活が脅かされるから」

「騎士団の鑑ね」


 ディーンはきちんと、騎士団の役割を理解しているように見える。統治する人が居なければかなりぐだぐだになるけれど、そもそも民が居なければ王は王で居られないのだ。それを理解しない王族……が、いたわね、ダラム王国で。


「どうしたの、アクア。すごい表情になったけど……」

「イヤな人を思い出して、イヤな気持ちになっただけ……」


 もう二度と会うことはないだろうけど、多分。……でも、そうなると、やっぱり一発ぶん殴っておけばよかったかなぁ。ああ、後悔……。機会があったらぶん殴りたいわ、あのバカ殿下……!


「あ、王城についたよ」

「おおー、さすが帝国の王城。立派な城ね~!」


 目の前に広がった光景に、思わずそう口にした。

 王城につき、ディーンとバーナードに「こっち」といわれて歩き出す。すると、とある部屋の前で足を止めて、ディーンが扉をノックする。すると、中から扉が開き、メイド服を着ている女性たちが迎えてくれた。


「お待ちしておりました。では、お借りします」

「お願いします」

「え? えっ?」


 パンパン、とメイド服の女性が手を叩くと、後ろから別のメイド服の女性が数人現れて、わたしの両腕を掴み、さらに背中を押された。ディーンとバーナードに視線を向けると、彼らは「また後でね」と手を振って別のところに向かった! ちょ、置いて行かないでよ――っ!

 メイドたちはとても手際よくわたしをお風呂に連れて行くと、服を脱がせて湯船に浸からせ、髪と身体を綺麗に洗うとお風呂から上がらせ、肌と髪の手入れをされた。顔も身体も髪もつやっつやにされた……やだ、すごい……。……じゃなくて! さらにドレスに着替えましょうとコルセットで締め付けられた。……貴族の女性ってすごかったのね、コルセット、きっつい! いつも聖職者のローブしか着ていなかったし、メイド服だってコルセットを使わないから知らなかった! コルセットってこんなにきついものなの!?


「お化粧もしますね」

「きついのは勘弁してください。謁見終わったらすぐに元の服装になりますから!」

「髪も結い上げましょうね」


 ……うんうん、そんなに張り切らなくていいんだよ、あなた方……!

 こんなに綺麗にされるのって、お祭りの日以来だわ……。いや、ドレスは着ていなかったから、こんなにきつくはなかったけど……。そして、わたしは淡い水色のドレス、濃い青色のペンダント、髪を赤いリボンでまとめられた。……アレだけ弄られると、わたしでも美人になるのねぇ、なんて感心しながら謁見の間まで向かうことになる。

 ねぇ、ハイヒール歩きづらいんだけどぉぉぉおおおっ!

 メイドたちに手伝ってもらいながら、なんとか部屋の扉まで歩き、扉を開ける。正装に身を包んだディーンとバーナードがわたしのことを待っていてくれたのか、扉の前に立っていた。


「アクア、綺麗だね。それじゃあ行こうか」

「ありがとう。ディーンも格好いいね!」


 なんかさらっといわれた。いや、ディーンならいいそう。でもちょっと待って、ハイヒール本当に歩きづらいんだけどっ! ぐらっといきそうになったのを、バーナードが助けてくれた。


「まともに歩けないのか、お前は」

「一回ハイヒールを履いてからそれを言ってみろ!」

「ほらほら、ふたりとも。陛下がお待ちだから、謁見の間に向かうよ」


 ほのぼのとした言い方でディーンがわたしたちを見る。……行くわよ、ここまで来たからには一度会ってみたいしね! バーナードは小さく息を吐いて、すっと腕を差し出した。掴まれってこと? と彼と腕を交互に見ると、慣れないことをしているのか、照れたように視線を逸らしていた。


「……ありがと」

「……転ばれては困るからな」


 ……一度思いっきりハイヒールで踏んであげたいわ……。もう少し心配そうな声色で言って欲しい。そんなわたしたちを見て、ディーンが楽しそうに笑っているのがすっごく解せない。


「陛下に無礼な真似をするなよ」

「約束は出来ないけど、がんばるよ」


 わたしの返事にぎょっとしたように目を丸くされた。

 バーナードにエスコートされながら、謁見の間に向かう。……きっとあの大きな扉を抜ければ目的地だろう。そっちに向かっているようだし。

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