第11話

「今日はここまででいいよ」

「えっ、まだ働く時間だよね?」

「いいのよ。来てからまだ日が浅いのだから」


 ……! なんて優しい職場なの……! ああもう、ここでずっと働いていたい……!


「それに、なんだか今日はみんな……生き生きとしているし」

「そうなの?」

「うん。いつもなら喧嘩が多少、ね。でも、今日はまだ起こってないし……」


 ……瘴気払ったおかげかな!

 人の悪意を増幅させやすいんだよね、瘴気って。多少なりとも影響力があるんだ。……帝都全体の瘴気が一気に消えたから、今日はみんな一日清々しい気分でいられるかもしれないね……。

 そしてわたしは、一週間ほどジュリアに色々教えてもらった。ジュリアは教育係初めてといっていたけれど、とても丁寧に教えてくれてありがたかった。

 ――が、わざわざ部屋に来て、「明後日、謁見な」と伝えてきた。事情を知らないジュリアに、「謁見ってどういうこと!?」と肩を揺さぶられた……。

 部屋でまともに会話が出来ないと判断して、部屋から出た。ジュリアが残念そうに眉を下げているのが見えたけど、気にしない!

 ディーンと話すために外に出て、また屋根まで飛んだ。ここなら話を聞かれることもないだろうし。


「わたし、お城に着ていく服がないよ?」

「いいよ、城のメイドがなんとかするだろうから」


 えー……と眉間に皺を刻む。謁見……あまり気が乗らないなぁ……。平和に暮らしたいと思うのは贅沢かしら?


「オレとバーナードも付き合うから」

「……そういえば、あの連絡鳥……セシルって人に飛ばしたのに、そのセシルって人来なかったよね?」

「……バーナードのセカンドネームなんだ。つい、昔の癖で呼んでしまった……」


 セカンドネームがあるってことは、バーナードも貴族か。この世界の貴族にはセカンドネームがあるもんね。ってことはディーンもセカンドネーム持ち。そんな人と追放された日に出会えるなんてラッキーだったわね、わたし! ちなみに前神官長がつけてくれたこの名前の由来は、わたしの水色に近いシルバーヘアだ。アクアは水、ルックスは神殿の顔になるようにって感じの意味だったような覚えがある。

 名前のとおり、わたしは水と相性が良いみたい。一応全属性使えるけど、中でも一番苦手なのは土。魔法を使うと、小さいゴーレム? がいっぱい出て来るのよね……。

 違う、わたしが使いたい土魔法はそうじゃない……! ちなみに人形としては愛らしかったのか、神殿の人たちには好評だった。


「バーナードとは幼馴染なんだって?」

「ああ。子ども頃から一緒に剣術を磨いたりしていたよ」

「ふぅん……」


 友達がいる人ってちょっと……いや、かなり羨ましい。神殿の人たちは家族のようなものだったし、友達らしい友達はいなかったから……。まぁ、今はディーンが友達だもんね! 脱、友達ゼロ人!


「……ところで、謁見ってなにをすればいいの?」

「なにも……、ただの顔合わせ。多分、神殿の聖女やら聖者が来るだろうけど……」

「ええ……」


 なんか面倒そうな気配がして、わたしは思い切りイヤそうに表情を歪めた。ディーンが慌てたように、「会うだけだから!」といっていたけど、……なんだかなぁ。ダラム王国の聖女だったとはいえ、一般人がそんな簡単に皇帝陛下に謁見できるってどうなのよ……。


「皇帝陛下はお暇なの?」

「そんなわけないだろう。一番忙しい人だよ」

「ちゃんと仕事しているんだ。……まぁ、それが当たり前か」


 ダラム王国の王族がダメダメだったんだろうな……。改めてそう思って、わたしは肩をすくめる。


「……アクアは、身分証を手に入れたらどうするつもりだったんだ?」

「え? そこまで考えてないよ。まずはお金を稼がないといけないし、お金を手に入れたら身分証を申請して、その後はまぁ、色々探していくのも楽しいかなぁって」


 行き当たりばったりな感じがするかもしれないけど、わたしはこの国のことを知らないもの。生きていくだけで精いっぱいになるのは、簡単に予想が出来るし。わたしは神殿以外の生活を知らない。……だからこそ、まずは一般人の生活を知って過ごしてみてから……って、思っていたんだけどなぁ。皇帝陛下に謁見する一般人って珍しい部類じゃないの……?


「アクアの回復魔法がとんでもなく効いたのは、君が聖女だったからなんだな」

「神殿を追い出された聖女だけどねー」

「……そんなに悲しそうじゃないのはなぜなんだ……」

「落ち込むより先に、ムカムカがよみがえるのよ……!」


 正直にいえば、今すぐにオーレリアン殿下はぶん殴りたい。距離が遠すぎて無理だけど。せめて儀式が終わってから追い出して欲しかった。そうすれば、補修なしに一年は結界が保てるもの。ああ、やっぱりむかつくわぁ、あのバカ殿下……!

 儀式は四年に一度だけど、わたしと神殿の人たちが毎日お祈りしているから四年に一度の儀式で済んでいたっていうのに……!


「色々鬱憤が溜まっているようだね……」

「まぁねっ! ああ、でもディーンには本当に感謝しているよ。衣食住の保証はとってもありがたいもの!」

「こっちこそ、アクアのおかげで命拾いしたから感謝しているよ。……まぁ、そういってくれるのは嬉しいけれど。それじゃあ、明後日はお城ね」

「はーい……………………行かなきゃダメ?」

「ダメ」


 ……やっぱりダメか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る