第20話
20 フェイクロマンシー
ロック団の活躍によって、クスクスを捕らえることに成功したロックとワット。
クスクスを路地裏の雨どいに縛り付けてから、尋問開始。
ロックは協力を拒むようならたっぷりと殴ってやるつもりだったが、クスクスはなんでもよくしゃべった。
「死体となった息子をネクロマンシーで操って、包丁で母親を殺害? そんなのできるわけないだろ。
ネクロマンシーってのは制限がいっぱいあるんだ。
まず、複雑なことはさせられなくて、包丁を持って刺すだなんて到底無理だよ。
それに術の有効範囲もそれほど広くなくて、術者がそばにいなきゃダメなんだ。
バイオゾンビをけしかけたとき、俺は逃げずにずっとそばにいたろ?
あれは、俺があの場から離れると、バイオゾンビのコントロールもできなくなるからだよ。
もしネクロマンサーで殺人をやるなら、ずっと現場の近くにいなくちゃいけないから、目撃者がいるんじゃないのか?」
しかしその説明を、ロックは「ウソつけ」と一蹴する。
「おれはガキの頃にサーカスに忍び込んで、踊るクマのゾンビを観たことがあるぞ。ソイツらはそばに術者もいないのに、高いところで綱渡りをしてた」
「ああ、そりゃひと昔前に流行したニセのネクロマンシーさ。
俺たちの業界じゃフェイクロマンシーって呼んでて、今でもやってるヤツがいるようだがね。
死体の首筋にマイクロチップを埋め込むんだよ。
電気信号で死体の筋肉を動かして、ネクロマンシーで操ってるように見せるのさ。
ようは無線操縦みたいなもんで、チップに電波が届いて、電池が持つあいだはロボットみたいに自由に操れる。
死体に料理だってさせられるし、なんだったら歌わせることだってできるんだ」
「確かにフェイクロマンシーを用いれば、死後にマルコさんを動かして、サロメさんを刺すことも可能になりますね」
ワットがふむと頷いたが、クスクスはすかさず異を唱える。
「だけど、そのチップで操れるのは死体だけだぞ?
犯人はまずマルコってヤツを殺したあと、そのマルコにわざわざチップを埋め込んで母親を殺させたのか?
誰がなんだってそんな面倒なことをしたんだよ?」
「動機はわかりませんが、実際に可能である以上は手掛かりのひとつになります。
とりあえず、さらなる司法解剖をドストレート警部に要請することにしてみます。
マルコさんの首からチップが検出されれば、まずその線と見て間違いないでしょう」
ロックとワットはそこからさらにネクロマンシーについての質問を重ねたが、それ以上の有益な情報は得られなかったのでクスクスを解放する。
「もう悪さをするんじゃないぞ、クスクス! おいらたちはロック団、ベイカー支部だ!
困ったことがあったら、いつでもおいらに言ってこいよぉ!」
手をぶんぶん振って見送るショーンに、「ベイカー支部?」とロック。
「そうっすよ! おいらたちロック団のメンバーのうち、半分がベイカー街に引っ越してきたんっす!
兄貴のピンチに駆けつけるためには、そのほうがいいと思って!」
「もしかして、今日もずっとおれのことを尾けてたのか?」
「もちろんっすよ! 兄貴あるところにおいらあり、っすから!」
ロックは「危ないからやめろ」と言いたいところだったが、現に助けられてしまったのでなにも言えない。
隣にいたトニーが、ショーンの薄汚れたジャンパーをくいくいと引っ張っていた。
「ショーン、僕の入団テストは合格でしょ?」
「うーん、おいらほどの動きのキレはなかったけど、まぁギリギリ合格ってとこだな!」
「やったぁ! じゃあ僕も今日からロック団だね!
メンバーはナイフを持ってもいいんだよね?
ねぇ、ショーンのナイフを1本ちょうだいよ!
2本もあるんだし、いいでしょ!?」
「バカっ、このナイフはダメだ! 副団長は特別に、ナイフを2本持つ権利があるんだからな!」
「けちー!」とやりとりしているふたりのとなりに、ワットがそっとしゃがみこんだ。
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