飛びたいニワトリ
新吉
第1話 ニワトリ
コケコッコー!ニワトリが鳴いている。我が家は片田舎で、東京に住んでる人からしたらど田舎だろう。ただ田舎のイメージもだいたい固定してきている。島や山しかない本当のど田舎ではなく、片田舎。ちょっと行けばショッピングモールもある中途半端な田舎であることを先に説明しておく。
ツイッターで知り合った東京生まれ東京育ちの年上の男性と、時々下らない話をする。長いやりとりもあれば、一言のときもある。
会ったこともなければ見たこともない。そりゃご飯とか景色の写真は見るけど、そこから特定したりすることもない。仲のいい友だちに会いたくないの?と聞かれれば会いたいけれど、別に恋をしているわけじゃない。片田舎の私がちょっと東京の生活をのぞける。向こうも私ののんびりした暮らしや噂話を楽しんでいるようだった。雑談友だち。
「目、覚めた」
「お、僕も起きてた」
「鳥さんはいつも早いでしょ」
「おっさんだからね」
本名も知らない。鳥さんに鳥の話をしようと思い立ち、早く目が覚めた朝にやり取りをした。
「あ、そうそう鳥さん。ここニワトリ鳴くんだよ。コケコッコーじゃなくてケコケッコーみたいな時もあるけど」
「ああ、オスだね。メスはコッコッって鳴くらしい」
「そうなの?あ!ニワトリはなんで飛べないの?鳥先生!」
「食べるために飼い慣らしたから。まあもともと飛ぶのがへたっぴな鳥だったらしいよ」
「飛ぶの下手だったんだ」
「一応ちょっとは飛べるんだ」
「羽根あるもんね」
「んー、ねこっちは飛べない鳥に勇気は要るか?って聞かれたらなんて答える?」
「勇気はいるよ」
「即答だね。その心は?」
「飛ぶためだけじゃないでしょ、勇気」
「そうだね。ねこっち、飛べない鳥に翼は要るか?って聞かれたら」
「いる」
「こりゃまた即答だね」
「飛べないからいらないなんて勝手に決めるな」
「かっこいー」
「かっこよくない!鳥さんは?いらないって答えるの?進化で羽根がなくなったり足が発達したりってことでしょ。羽根があるってことは必要なんでしょ?」
「まあ必要なんだよ。羽根がない相手とメスも交尾したがらないし、日よけや虫よけになる、けどね」
「まあ羽根むしるもんね、食べるのに」
「その、ねこっちはやったことあるの?」
「ないよ、ただ友だちはあるみたいね。血抜いてお湯つけてむしるっていってた」
私の家は農家じゃないけど。周りはそうだ。野菜だけじゃなくて鳥やら猫やら飼っている。牛を飼っていたところも昔はあったようだ。
「羽根のないニワトリも研究で作られてるらしい」
「ニンゲンってバカだねぇ。欲望に素直だ」
「そうだね。欲まみれだ。羽根があればちょっとは飛べるのにね」
「そっか鳥さん、空飛びたいんだもんね」
「子どもの時からずっとね、鳥は憧れだよ」
「ニンゲンってバカだねぇ」
「勇気が必要なのは僕の方なんだ」
飛べない鳥は僕なんだ、実は翼を作っていた鳥さんは鳥人間コンテストに出たい。でも勇気がでない。全然飛べないかもしれない。そう打ち明けてくれた。初耳、ていうかなんか恥ずかしいんだけど。
「ありがとね、ねこっち。女の子なのにやっぱりかっこいいね。勇気ちょっと出てきたよ」
「普通に相談してよ」
「バカだからね、でも即答してくれて助かった」
「応援したい」
「教えなーい」
「鳥さんのケチ」
鳥人間コンテストを見て顔も知らない鳥さんを探したけど、よく考えたら出るのを迷ってたんだから今回のじゃないよね。
わたしはねこっち。猫を愛する大学生。片田舎に住んでいる。噂話はすぐに広まる東京よりも狭いまち。コケコッコーと今日も鳴く。電話はしない。できない。勇気がでないのはわたしの方なのです。
飛びたいニワトリ 新吉 @bottiti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます