コーヒーブレイク・ブロークン

一宮けい

ビターコーヒー

異星人つばさくん

 たまにいる。謎にフレンドリーにやってくる異星人。例えば中学生の頃、席替えが間近に迫ったころ。この時、運よくイケメンの男子と隣同士になった。この男子こそが異星人だ。

 ちなみに当時のわたしは(今も?)異性として全く認識されていない存在だった。現にその頃クラスの男子たちから「ラリコ」と呼ばれていた(このあだ名は本当のあだ名)。ラリコとは“ラリる”から来ており、わたしはその頃ものすごく笑っていたからだ。笑い過ぎて椅子から落ちたり、床を這いずり回ったり、常軌を逸した行動していた。自分でも書いていてやばい奴だと思った。

 そんなラリコの横にはクラスでもイケてる男子なのだから、席替えが名残惜しかった。ある日向かい合って、給食を食べていたら、その男子はわたしに向かってこう言った。

「おれ、席替えしても一宮がいいなあ。だって面白いんだもん」

と笑いながら言った。

 だー、あー…。危うく心臓持ってかれるところだった。わたしみたいな異性として意識されてないという自覚がある人間だからいいものの、この手のタイプの男子は平気でそういうことをうそぶくから危険なのだ。本当に恐ろしい奴だ。


 時が経ち、大学生の頃。5年も通った大学で、一番時間的に長く一緒に過ごしたのはなぜかこの種の異星人だった。麗香や穂波ちゃんはわたしと一緒の学部だったが、3年次にわたしが留学に行ったせいで、カリキュラムがずれ、一緒に過ごした時間という面ではそこまで長い時間ではなかった。

 異星人の翼は英語を勉強していて、英会話クラブに入っていたわたしとは何度か英語のパーティーで顔は見ていた。翼がソファに座り、周りに英語専攻のキラキラ大学生集団が集まっている光景をわたしはオレンジジュースを片手に眺めていた。

 

 その後のある日、大学図書館で中国語を勉強していた。

「けい、中国語勉強してんの?」

 顔を上げると、翼だった。

 は? けいって? なんでいきなり呼び捨て? 口をあんぐりと開けていると、いきなり席の隣に座った。

「おれも勉強したい、中国語」

 と言って、わたしの中国語の教科書を勝手に手に取り、パラパラとめくっていた。

 翼は別にイケメンではないのだが、妙に目立つところがあり、コミュニケーションおばけだ。英語を勉強しつつ、バスケ同好会にも入っている。大学でせっせせっせと地味に中国語を勉強している自分からするとまぶしい存在だった。

「…翼くんも勉強すればいいじゃん」

「え、名前知ってんの?」

 逆にわたしも苗字は知らない。そのぐらいみんなつばさ、つばさと呼んでいた。

 

「お待たせ!」

 後ろを振り向くと、背が高くてモデルのような女の子が立っていた。翼の彼女だ。彼女とわたしは一緒の学部だが話したことがなかった。相変わらずきれいな子だな。

「え、中国語勉強してるの? すごーい!」

「ええ、まあ…」

 初めてそのきれいな子としゃべって、翼と話した時以上にどぎまぎしてしまった。相手の女の子も気を使って話してくれているのだということがわかるから余計申し訳なくなった。まあ、彼氏にちょっかい出していたわけではないのは明確だし、万が一出していてもこの子には敵わないことがすぐわかるから、そんなに委縮する必要はないんだけど。

「じゃ、けい、またな」

と二人は嵐のように去っていった。

 

 な、なんなんだよ…? 

 

 まさかこの後翼とは大学生生活後半戦の大半を一緒に過ごすとは思わなかった。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る