幼馴染が告白をするようです

月之影心

幼馴染が告白をするようです

「告白しようと思うの。」




 アイドル顔負けの美少女にして、僕、鹿沼かぬま隼太はやたの幼馴染である真岡まおか莉愛りあに呼び出されてやってきた放課後の中庭で、突然そんな事を言われた。


 僕は莉愛の事が好きだ。

 幼馴染としては勿論、異性として付き合いたいと思っている。

 しかし莉愛は、僕の事を恋愛対象とは見てくれていない。

 それは普段の付き合いの中での彼女の態度がはっきりそう言っている。


 朝起こしに来てくれるのは有難いが、朝はもっとゆっくりしていたい。

 お昼の弁当を毎日作ってくれるのは嬉しいが、色とりどりの鮮やか弁当より高校生なら『The 脂』だろうという事を分かってくれない。

 登下校もほぼ毎日一緒なのにこれと言って会話は無く、あったとしてもよくある時事ネタや噂話程度。

 帰ったら必ずと言っていい程毎日、完全な部屋着のラフな格好で宿題を持ってうちにやって来る。

 そのまま晩御飯もうちで済ませる事もあるし、何なら自分の家のように風呂に入っていく事もある。


 普通、異性として意識した相手ならそれなりの態度を取ると思うのだが、莉愛は幼い頃からずっと変わらず、僕を『ただの幼馴染』『ご近所さん』程度にしか思ってくれていない。


 だから僕は、高校1年から2年になる春休みの頃に莉愛に対する恋心を封印し、僕も莉愛を『ただの幼馴染』と見る事にした。




「頑張れ。」

「まぁ話は全部聞いてよ。」

「聞くよ。」

「私ね、本当は自分から告白なんて無理だと思ってたんだけど、このままじゃ何の進展も無いし、のんびりしてる間に他の子に取られちゃうかもしれないから、私から告白する事にしたのよ。」

「うん。」

「でね。どうせするなら私にとっても相手にとっても理想的な告白にしたいの。」

「いいんじゃないかな。」


 莉愛は舞台女優のように身振り手振りを加えながら、告白への熱意を語っていた。

 僕にしてみれば、莉愛の告白相手が僕じゃないという時点で『どうでもいい』という気持ちになっていたのだけれど。


「莉愛の理想の告白ってどんなのだよ?」


 莉愛は僕の方を見て『よくぞ訊いてくれました』みたいな顔をしている。


「私の理想の告白は『心に刺さる台詞』が最重要事項ね。」

「それまた漠然としててよく分からないな。」

「自分の伝えたい気持ちを、相手の理想とする台詞回しにして言うの。隼太は普段素っ気無いし回りくどいのは好きじゃないから……」


 何でそこで僕を出すかな。


「初めて見た時から、貴方の事が好きでした!私とお付き合いして下さい!」


 迫真の演技とでも言うのだろうか。

 演技と分かっていながら思わずドキッとしてしまった。


「直球過ぎる?」

「かもしれないね。」

「じゃあ……」


 莉愛は一旦僕に背を向けてから、胸の前で手を握り締めてゆっくり振り返った。


「貴方の事が好きで好きで……もう気持ちを抑えておけなくなっちゃった……好きです……私と付き合って下さい……」


 莉愛は女優を目指してもいいんじゃないかなと思える程の完成された演技を披露した。


「どぉ?」

「いいんじゃない?」


 僕の言い方が軽く受け流したように聞こえたのだろうか。

 莉愛は少し不貞腐れたような表情を見せた。


「ん~……今一つインパクトが無い?」

「そぉ?」

「うん。隼太の表情全然変わらないんだもん。」


 内心かなり心揺さぶられたのは黙っておいた方が良さそうだ。


「僕の表情なんか関係無いだろ?」

「なんでよ?」

「いや、だって僕に告白してるわけじゃないんだから僕の表情が変わらなくても問題無いだろ?」


 莉愛がずいっと僕のすぐ前まで体を寄せて来て、眉を吊り上げて見上げてきた。








「何言ってんのよ?隼太に告白してるんでしょうが。」








「はぃ?」








 莉愛が僕に告白?

 何で?

 いやいや、僕にそんな素振り一度たりとて見せた事無いのにいきなりそれは無いだろ?


「はぁ……どこまでも鈍いんだから……」


 莉愛が肩を落として溜息混じりに言った。


「何で私が、毎日遅刻しないように起こしに行って、毎日栄養バランス考えたお弁当作って、毎日周りに取り残されないように色んな話をして、毎日素の私を見て貰おうと部屋着で遊びに行って、隼太の母おばさんに鹿沼家の味を教わってるのか……知らないわよね。」

「え?何だそれ?」

「もぉっ!」


 莉愛がゼロ距離に迫る。

 そのまま僕の腰に腕を回して抱き付いてきた。


「隼太とずっと一緒に居たいからに決まってるじゃない。」


 僕の心臓は今にも口から飛び出してしまいそうだ。

 頭の中では莉愛を異性として見ちゃいけないと割り切ったつもりだったので、現実に起きているこの状況が飲み込めない。

 しかし、胸に触れる莉愛のおでこから伝わる温かさは夢では無いし、耳に届いた莉愛の声も本物に違いない。


 僕は莉愛を異性として見てもいいんだ。


「そうだったんだ……」


 そう言って僕に抱き付いている莉愛を抱き締めようとした。


「だからねっ!」


 僕の胸におでこを当てていた莉愛がいきなり顔を上げて言った。


「隼太の心に刺さる告白をしたいのよ。」


 ん?


「隼太がどんな告白をされたいのかなぁってずっと考えてたんだけどいいのが思い付かなくてねぇ。」


 いや……さっきので十分だけど……。


「それなら隼太に訊くのが一番早いかなと思って訊いたのよ。」


 どういう事?


「どんなのがいいかなぁ……」


 莉愛は僕の腰にしがみついたまま考え事をしている顔になっている。


「いや……別にさっきの……」

「さっきの?直球のやつ?それともはにかんだやつ?」

「あ~……それよりも……」

「ん?他に何かあったっけ?」

「その……この今の状況が……ね……」


 僕は自分と莉愛を交互に指差し、今こうして抱き合っている状況を示した。


「あぁ!なるほど!隼太はこういうのが理想なんだね!?」

「あいや……そ、そういうわけじゃ……」


 すると莉愛は僕の体からぱっと離れて拳を握り締めて『よしっ!』とか言ってる。

 何が?


「じゃあ今日は先に帰るね!」

「え?」

「帰って告白の練習しなきゃだから!」

「は?」

「しっかり隼太の心に刺さる告白を練習しとかないとね。本番で失敗したら一生後悔しそうだから!」

「え……お、おぃ……」

「じゃぁねっ!おばさんには今日は行けないって言っておいて!」


 そう言って莉愛は足早に僕の目の前から去って行ってしまった。








「何なん?」




 喜んでいいのか悲しんでいいのか分からなくなった僕は、久々に一人とぼとぼと家への道を歩いて行った。

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