第245話 安易な約束

 次の日。

 昨日はダンジョンから戻り、夕食の時に矜侍さんの話と椿のこと、さらには桃井先生の話を父さんたちと共有している。

 そのため、椿は朝から父さんたちと、とりあえず25階層を目指しその後はレベル上げをするはずだ。

 また、桃井先生の話になった時には、父さんがどうせならマコト達のこともあるし、探索者の学校を独自に作り児童養護施設の子供を育てて、最終的にウチの会社星月夜に就職をしてもらうのはどうだろうか? と言い始める。

 東校の教員である桃井先生なら能力的にも対外的にも人材として最適らしいのだ。


 俺からすると東校の教員が引き抜けるなら、対外的な広告塔としても十二分だし、今の所は俺も東校を卒業するつもりなので、卒業後は手伝うこともできて会社としては良い案ではないかと考えた。

 まあ、能力的にも最適というのには言動が残念すぎてイマイチ同意できないけどね。

 ただ、その案は、母さんがあの先生は落ち着きがないし、知らない間に個人的な用途で会社のお金を散財されそうと言う不安を話し……、父さんがなぜか仕事に華がある方が活力が~~と余計なことを言ってしまう。

 

 その途端に、「あら、私は枯れているのかしら」と冷気魔力を母さんが発生させた。

 精神的にだけではなく物理的にも夕食が冷える経験をした家庭なんてきっとウチくらいじゃないのだろうか?

 その時の味噌汁が冷めた味と言ったら……。

 ちなみに、母さんからの冷気にパニックになった今宵が、「大丈夫、今はお父さんよりもお兄ちゃんの方が狙われているみたいだから!」と意味不明な供述をすると、「うちの子を見る目があるのね」と母さんは冷気を収めていた。


 俺を気に入っているというより、桃井先生はお金を稼ぐ俺を見てそうで怖いんだが!?

 それに桃井先生は最近は俺じゃなく水戸君狙いだと思うよ!




 学校の教室に入り、自分の席周りに挨拶をする。

 席について、堂島君と話していた九条君に、俺は椿が一週間ほど学校とチームの探索を休むということを伝える。

 昨日彼らと別れた時に、椿が急いでいるようであったために、近所住まいで情報を伝えた俺に、椿を心配する二人から多くの質問を受けた。

 と言うか、一週間も(学校だけなら厳密には4日だが)学校や仲間との探索を休む理由って案外思いつかない。

 いや、ダンジョン探索をするからって言えば、ウチの高校なら終わる話な気がするが、チームから離れてとなるとそれも使えない。


 「遠方の親戚関係で葬儀や法事が続くらしくて。法事の方は出席をしなくともよいみたいなんだけど、せっかくだからとか言ってたかな?」


 「お葬式なら仕方がないが、法事もって。田舎の風習関係ならそう言うこともあるのかな?」


 「レンは知らないか。宗派によっては100回忌まで亡くなってから……99年経っていても行う法要があったりするから、重なれば一週間くらいはあるのかもしれない」


 「法事が多いとお坊さんの稼ぎも多そ――「レン!」


 日本最大宗派……ちなみに1位も2位も同じ宗派なんだよな確か。

 西本願寺と東本願寺だったかな? 戦国時代に織田信長と和睦する派と徹底抗戦する派に分かれたことに端を発していたはずだ。

 名作ゲーム信長の野望をしていれば……知ってるマメ知識……え? 信長の野望にはそんなことは書いてないから普通は知らない?

 九条君のような考えも無宗教が多い日本独自かもしれないよねと、俺が勝手に椿の休む理由を考えたせいで、九条君と堂島君のお布施論争に発展しそうなやり取りを聞きながら俺は現実逃避する。

 

 いや、海外で親戚が結婚とかでも一週間の休みの理由は行けたとは思うんだが、説明をする椿にとっては困るだろう。

 その点、葬式関係であれば突っ込んで聞きにくい。

 ブラック企業で有休をとる時に、使う言葉ナンバーワン……って言うか、虚偽申請は就業規則によっては処罰の対象になるので、『家庭の事情や私用のため』と言う理由が嘘にならず一番なのかもしれないが、実質的にはそれで了承されないのが問題だろう。


 キーンコーン

 ガラララ


 「よーし、お前ら席につけ~。ホームルームを始めるぞ~」


 朝のチャイムと同時に、冴木先生と桃井先生が教室に入って来る。

 どうやら今日は、桃井先生も副担任として朝のホームルームに参加をするようだ。

 

 「よーし、みんなおはよう。連絡があった者以外は全員来ているようだな。では桃井先生、お願いします」


 「まずは朝の連絡事項からはじめるわよぉ。今日から4日間、十六夜さんが家庭の事情でお休みすると言う連絡を受けています。体調不良ではないようですから、心配はしなくていいわよぉ。それから、期末テストまで約二週間となっているからぁ、探索も大事だけどぉ、勉学も疎かにしないようにねぇ」


 「桃井先生、蒼月から椿の欠席理由は親族関係の葬儀関連と聞いたのですが」


 桃井先生が冴木先生に変わって朝のホームルームをしていると、先ほど俺が言った椿の欠席理由を堂島君が訪ねてしまった。

 それを聞いた桃井先生は俺に目をやり、「喰い違ったじゃないのよぉ」と言う目線を向けてくる。

 いや、椿からは学校のみんなに伝えてくれとしか言われてなかったし、たぶん桃井先生にも学校側への対応で椿がお願いしたんだろうが、どうせどういう理由にするかも聞かず「任せなさぁい」とか先生は安請け合いしちゃってそう。


 「そ、そうねぇ。それも家庭の諸事情だから合っているわねぇ。私からは以上よぉ」


 たしかに、家庭の諸事情って汎用度高いな! でも普通はもっと突っ込んで理由を聞かれるので、その魔法の言葉だけで乗り切れる場面は少ないと思いますよ!

 その家庭の事情の詳細はなんだよって話になるだろうし。

 ただ、こうやって考えると、休む時には詳細な事情を聞かれるのに、実際に全体に周知する場合には簡単な説明で終わるような気がする。

 「今日の○○君は病欠です」みたいなやつね。

 あれだって実際には、風邪だとか腹痛だとか連絡を受けているはずで、病欠しますと言って休んでないんだろうし。


 「あ、桃井先生。タイミングよく朝のこの時間に会えたのでお願いがあるのですが、飲み会の時に助け合っていきましょぉ。何かあれば手助けするわよぉ。と言ってくれた件でお願いがあるのですが……。次の宿直時に、予定が入ってしまったのでお互いの当番の日を交換してもらえませんかね?」


 「そんなことで良いなら了解よぉ。むしろ交換だけでなく、冴木先生の時に私も一緒に待機していても良いくらいよぉ」


 「本当ですか! ありがとうございます。あ、一緒に待機の方はしてもらわなくとも大丈夫です。それで日程ですが、こちらの次の宿直予定が23日の勤労感謝の日なのでよろしくお願いします」


 「大船に乗ったつもりで……え? 23日……って4日後?」


 「そうですね。よろしくお願いします。桃井先生以外に頼む場合だと毎回ウチのクラスの話をして来てイラっとするので助かりました。お前ら、期末の平均点で他のクラスに負けるなよ。学業は内部生も外部生も関係ないんだからな! では、今日の朝のホームルームは以上だ」


 冴木先生はそう言うと、クラスから退出していく。

 

 「先生、こちらのことは任せてください。約束は守らないといけないですからね!」


 ギギギとこちらに顔を向けた桃井先生に、俺は笑顔でそう声をかける。

 俺がそう声をかけた瞬間に桃井先生は崩れ落ち、orzとなっている。

 桃井先生って自業自得でこの姿勢に突入するよね!


 ウチの学校は全国から人が集まって来ているので寮もあり、休日や夜間であっても誰かしらの教員が学校に待機している。

 これにより、桃井先生のアステリズム参加は消滅した。

 安易な約束って怖いね!

 ちなみにテストの平均点の話だが、今の所1-5クラスは毎回ドベをとっていて、冴木先生曰く5クラスの上位は1クラスの得点と変わりないが、下位が酷いらしく……青木君たちには頑張ってほしいところだ。

 学園祭からクラスの雰囲気は仲間意識も出て来ていて良い感じなので、最下位からの脱出も期待できるのではないだろうか。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします!



 


 

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