第217話 使用済み(配信あり回)

 俺のしでかしを真っ先に矜侍さんに話したはずの今宵が疲れた表情をしている。

 今宵からすれば2日連続で通うほど気に入っていたファミレスで、俺が恥ずかしい行動をとってしまったことで、当分の間は行けなくなったと言う愚痴を矜侍さんに言いたかっただけと思う。


 それなのに、矜侍さんはモテるためのアドバイスとしてブラックカードを見せれば良いと言う斜め上のアドバイスを俺にしていた。

 札束で頬を叩くよりはスマートかな?


 でも俺が求めているのは、矜侍さんの言うような大人な女性ではなくて……、こうなんて言うんだろう、自分のピンチに駆けつけてくれるような女性にモテたいんだよね。

 まあ、クレジットカードは未成年では作れないと思っていたけど、探索者をしている場合は作れるということもわかったし、将来的にはブラックカードを作って霊峰 不二子れいほう ふじこのような大人な女性に『そりゃないぜぇ、不二子ちゃ~ん』とかしてみたい気はするが……。


 「お兄ちゃん? 鼻の穴を大きくして気持ち悪いけど、矜侍さんと同じことはお兄ちゃんには出来ないと思うよ?」


 ……。

 それは俺がブラックカードを持てたとしてもスマートじゃないってことか?

 体型だってスマートにできたんだし、行動だって将来的にはスマートにできるはずって――矜侍さんがもう来ているのに本題からズレすぎた。

 俺は今宵をスルーすると、矜侍さんに話しかける。


 「矜侍さん、指輪の200個はどういう風に売れば良いですか? 先着順だと配信をみれない人に不利過ぎますよね?」


 「ああ、その話か。Tw〇tter なんかで良く見る質問箱があるだろ? あれと似たようなものを開発しているから、専用のURLを発行して、そこから折り返し連絡ができるメールアドレスを登録してもらってその登録時に番号を割り振った後で、俺が開発したアプリ『ランダムで選ぶん君』を使って当選番号を選ぶ。当選した人にはメールで連絡をしてそこから個人情報……指輪を送るのに必要な住所などを返信してもらってやり取りをする感じだな」


 「話に聞くと難しそうですけど、簡単にまとめるとクリックしてメールアドレス登録、当選したら折り返しの連絡に必要事項記入するだけですよね? かなり効率が良さそうです」


 「まぁな。俺も外部と連絡を取りたいこともあるし、そのために開発をしたやつだからいかに簡単にやり取りできるかってことを重視してる。初めの段階だとほぼ匿名状態で相手からすればやり取りできるしな。っとこれが残りの指輪だ」


 俺は残りの指輪を矜侍さんから受け取ると、他にもいくつか話し合った後で、LIVE放送を始めた。

 一応告知は、時間指定をしてはいなかったが今朝に済ませている。



 「みなさん、おはこんばんは。『アステリズム チャンネル』のシュテルンです」


 「みなさん、おはこんにちは! アステルと――」


 「シンとファーナです!」


 開始をする前に10分ほどの待機時間をとってから配信を始めたのだが、既に10万人近くの視聴者がいるようだ。

 今日する話の内容的にある程度の人数はほしかったのだが、思った以上に人が集まっている。

 今宵とキィちゃん、さっちゃんは挨拶と同時に戦隊もののポーズをとった。

 いや、俺だけポーズをとってないんだけど? そういうのは最初に言っておいてくれませんかね!?


 『わこつ』

 『全裸待機して待ってました!』

 『かわいい』

 『配信内で告知があるようですがなんですか?』


 チャットはすでに結構な速さで流れている。

 大半は挨拶と可愛いで埋まっているのだが、ちょいちょい全裸待機で待っていましたと言う人がいるのが闇深い。

 

 「今日の配信はいつもの攻略配信ではなく、アステリズムで開発した画期的なマジックアイテム魔道具のお披露目と販売の宣伝をしたいと思っています」


 俺たちがマジックアイテムを開発したと発言した時のコメントは、『すごい』だとか『わくわく』で溢れていたのだが、販売という一言を言うだけで、『ダンジョン攻略を楽しみにしてたのに!』とか『失望しました』とか『結局はお金ですか』、『コオロギゴリ押しだったらウケる』という批判コメントも混じるようになってしまった。


 いやコオロギゴリ押しってなんだよ。

 食糧難でコオロギを食べる前にその餌の大豆やトウモロコシを食べるわ!

 それに俺がゴリ押しするなら、ウチのオーク肉ですよ。

 オークをいっぱいおおく食べましょう!!

 

 探索者以外には、ほぼ関係のない配信になってしまうので面白くはないだろうし、視聴者の大半は探索者ではないだろう。

 ただ、世の中に出回ってはいない初のマジックアイテムであるので、大々的な発表も必要だ。

 それにはやはりこのチャンネルを使うことが一番だろう。

 まあ、実際は部活で使いたいだけなのに、画期的なマジックアイテムの開発なんて大風呂敷を広げることになってしまってはいるのだが。


 「探索者の方以外には意味はないんですが、なんと! 魔物を倒した人だけではなく、パーティメンバー全員に同じだけの経験値が手に入る指輪を開発しました! 倒していないのにそれぞれのメンバーが倒したと同じ状態ですね。これでパーティ全体で強くなることが可能です」


 視聴者の数はどんどんと増えているのだが、指輪に対する反応はイマイチだった。

 探索者にはこの価値がわかるようで、『信じられない』だとか『ほんとうに?』、『ゲームみたい』という声も多いのだが、やはりほとんどの視聴者は探索者ではないためにイマイチピンと来ないんだろう。


 『10000円:どうせ指輪を売るなら、マジックアイテムになっていないアステルの使用済みの指輪をキャラグッズとして売って下さい!』

 『5000円:↑天才現る』

 『100円:ファーナの指輪を希望します!』


 未知のマジックアイテムだからそれなりに盛り上がると思っていたのだが、そうではなかったのでどうするかと思っていた所で、一つの赤スパが飛んだことを皮切りに物凄い数のスパチャが投げられ始めた。

 そのすべてがアステルたちが一度つけた普通の指輪をキャラグッズとして売ってくれというものだ。

 

 えぇ……?

 中古の指輪がそんなにほしいの?

 たしかに好きな有名人が使ってました! という商品があれば、ほしいような気もする。

 今宵たちも困惑しているようで顔を見合って戸惑っていた。


 「アステル、一度つけただけの指輪で良いならいいんじゃない? サイン色紙みたいなものだよね」


 「うんうん、キャラグッズがほしいとか良く書き込まれてたし」


 「うーん、本当にそんなので良いのかなー」


 今宵たちは三人で話し合っている。

 え? 話し合う余地なんてあるの? 

 コメント欄にもこれ押せば売ってくれそうじゃない? スパチャ班頑張れ! という声と共に売ってほしいと言うスパチャの弾幕が凄い。


 『50000円:チェキ券みたいに目の前で一度つけたものを売るのはどうですか?』

 『120円:天才しかいない』


 アイドルか何かかな?


 「おい、俺を何時まで待たせるんだ」


 「あ! 矜侍さんすみません!」


 俺たちは後ろに控えていた矜侍さんそっちのけで、キャラグッズの指輪の事を考えてしまっていた。

 というか、矜侍さんの声が聞こえて現れた瞬間、今までのコメント量も凄かったのだが、一気に読めないレベルの早さで流れていく。


 『10000円:ファー!』

 『50000円:矜侍さまを待たせる貴方に惚れました。ウホッ』


 世界一の登録者数を抱える矜侍さんの出現で数分もしないうちに同時接続が500万人を突破する。

 俺と矜侍さんの何気ないやり取りだけで増えていく同時接続者数。

 

 「まあ、もう告知はしたんだし、後で概要欄にまとめておけばいいだろ」


 「グダグダになってすみません」


 「いや、良いぞ。せっかくだし、俺もついでにここで告知をしとくかな。ロ〇アから回収してきたダンジョン内がLIVE配信できるカメラが一つ余っているから、面白い企画を持ってきた個人もしくは企業に貸し出すぞー。これは俺のチャンネル概要欄にリンクと説明を貼っておくから使いたい人はよろしくぅ!」


 最後にとんでもないブッコミが矜侍さんの口から飛び出した。

 え? 今俺たちが使っているカメラと同じ物を貸し出すの!?

 これ絶対に世界的ニュースになるやつじゃん。

 先ほどまで誰の指輪がほしいという話題一色から、一気にライブカメラの話題一色に塗り替えられた放送は、その後は四人で雑談をして終えることになったのだった。

 

 

 

 

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