第214話 小姑

 桃井先生に階層移動の魔道具の使用許可を出した次の日。

 今日は土曜日で東校は休みなので、桃井先生はさっそく階層の魔道具を使う為の下準備で攻略道の新メンバーと16階層を目指すらしい。

 しかも月曜日が体育の日で祝日とあって3連休になっていて、集中的に攻略道の活動をするようだ。


 ただし、桃井先生を除けば、16階層の適正レベルを上回っているのは、鏡君と小烏丸さんだけで残りの二人……茅野さんと松戸さんはどちらもレベルが8で最初の壁を超えただけであり、16階層はかなり無謀な階層となっている。


 そのため、他の攻略道のメンバーも同行をして、レイドを組んで安全を確保しながら向かうことになっていた。

 なっていたのだが……、俺は今宵の許可が下りずに、俺だけ同行を許されずボッチとなっている。


 高校の部活道なので妹の許可は必要ないのだが、数日前に第二東校の麻里奈さんたちから誘われて水戸君と鏡君と一緒に合コンに参加した結果……、それがみんなにバレた上に、今宵の目からハイライトが失われた。

 そして夏休みが終わってから、今宵と一緒に探索をする機会が激減していたこともあって、日曜、祝日とダンジョン探索を一緒にすることになったのだが、今宵がいない土曜日も、なぜか部活動を禁止され攻略道の全員から来なくて良いと言われてしまったのだ。

 今宵ちゃんから連絡を受けているからってなんだよ!?


 「攻略道のみんなの俺たち男子三人に向ける目が冷たいんだよな」


 まあ鏡君は主に小烏丸さんからしか冷たい目で見られてはいないが、なぜか俺と水戸君は私たちとは遊びに行かないのにみたいに言われて肩身が狭い。


 「遊びに行かないんじゃない、俺と水戸君は自分から誘えないんだよ……」


 俺は愚痴りながら、一人寂しくダンジョンへと向かう。

 もしも誘って断られた時に、次が誘えなくなるメンタルをわかってほしいよ。

 

 「あれ? 蒼月君? 一人なの?」


 ダンジョン前に差し掛かったところで名前を呼ばれたので顔を上げると、そこには九条君と堂島君、そして榎本君の三人がいた。


 「え? ああ、九条君か。今日は一人かな。そっちもこれからダンジョン?」


 「てか蒼月、稼ぎ方を教えてくれてありがとさんやで!」


 「そうそう、一番安いマジックバッグだけど買えたから、最近はみんなのバッグを買うためにギルド探索者協会と7階層を往復してるよ」


 「リヤカーを使わなくて良くなって、野営の荷物も入れられるし本当にありがたい」


 三人はオーク錬金を教えてくれてありがとうと俺に感謝してくれる。


 「役にたったようで良かった。マジックバッグは最初に手に入れるまでが問題だけど、一つ手に入れられたら後は往復するだけだね」


 「たった一つで探索における荷物が一気に減るし、全員分となったら世界が変わりそうだ。と言うか、蒼月君。良かったら今日は一緒にダンジョンを探索しないか? ここ数日、教室での出来事で椿が落ち込んでいてね……」


 「ああ、俺からも頼む。それに俺たちのパーティで直す所があれば、探索中に指摘をしてほしい」


 九条君だけでなく、堂島君からも同行をお願いされてしまった。

 てか、椿は落ち込んでいるのか。

 実は合コンの一件で、俺は水戸君の席でその話をしていたんだが、水戸君のすぐ前の席の椿が、俺に合コンはまだ早いと会話に割り込んで来たので、ついカッとなって言い返してしまったのだ。


 最初は麻里奈さんたちと遊ぶだけだと思っていた俺たちだったのだが、これって合コンじゃね? と気が付いて、俺もまだ合コンは早いと思っていた所で椿に自分が思っていた指摘をされてしまい……、つい言い返してしまった。

 後悔はしている。


 まあ、その合コンは、参加者の相手側になぜか俺の家族がいるという地獄と、父さんたち大人以外の椿を含めた俺の友人たち全員が同じ店にいるというカオス状態で、楽しいことは何一つなく終了している。


 「蒼月君?」


 「きょ、矜一……」


 俺がどうするかを考えているうちに、一ノ瀬さんと椿がやって来てしまった。

 俺は九条君たちの勧めや椿のことが気になったので、結局は九条君たちのパーティに同行をすることにした。

 そして、午前中だけだが、学校に行っている今宵に、椿たちとダンジョンに行くという連絡を端末で送っておく。


 今日は午後から今宵のご機嫌を取る予定ではあったけど、明日と明後日は一緒に探索することが確定しているし、大丈夫だよね。




 俺は一番最後尾から九条君たちの戦闘を見守る形でダンジョン内を進む。

 まあ実際は、見守ると言うより低階層なので手を出す必要がないってだけだけど。

 移動速度も攻略道とほぼ変わらない速度で、走りながら移動をしているので、これでオークを倒して往復をするなら学校がある日でも1体、ない日であれば2~3体はギルドに持ち込むことが出来るだろう。

 マジックバッグが増えれば、効率も一気に上がるので、九条君たちのパーティ全員がマジックバッグを手に入れるのも時間の問題かもしれない。


 6階層まで駆け足で到達した九条君たちは、少しの休憩を挟むと7階層へと移動を開始する。

 正直な所、道中は榎本君もいるし、前に一緒に野営をした時と同じだと思っていた俺は、この規律ある行動に驚いていた。

 もちろん、野営を一緒にした時も、問題があるような行動はとっていなかったが、もう少し道中におしゃべりがあったし、空気が緩かった。

 

 それが今回の探索では、必要な話以外は移動中にすることもなく行動している。

 これでは俺たちの探索の方が圧倒的にしゃべっているし、空気も緩いように思う。

 気を抜かないことは大事だけど、このくらいの階層で……。


 いや、気負っているようには思えないので、どちらかと言えば当たり前のことを当たり前にしているようでもある。

 どうやら、6階層でのウルフの氾濫やカルラとの遭遇で根本的に意識改革がされているのかもしれない。




 7階層とギルドを二往復した俺たちは、ちょうど昼過ぎとあってギルドにあるフードコートで昼食をとることになった。


 「どうだったかな? 僕たちの探索は。蒼月君から見ればまだまだ甘いとは思うけど、気づいたことがあれば何でも教えてほしい」


 九条君はそう言って俺に頭を下げた。

 別人に入れ替わってない? 大丈夫?


 「いや、移動速度も俺たちと大差がないし、むしろ褒める所しかなかったよ。一つ気になったとすれば、俺がいたから会話が少なかったんだとしたら申し訳ないなってくらいかな?」


 「それは違う。僕たちには探索中に無駄話をしている暇なんてないって気が付いたんだ。蒼月君から見て問題がないなら良かった」


 「レンは蒼月と鏡との対戦を見て、お前を目標にしているらしいぞ」


 「おい、海斗! いらないことを言うなよ! 僕だって1年で総合ランク入りするつもりなんだからな!」


 「「あはは」」


 堂島君の言葉を受けて恥ずかしそうにする九条君。

 というか、俺に対する感じも変わっていたから気になっていたけど、鏡君との対戦でどうやら俺のことを認めてくれたみたいだ。


 「椿もパリィが凄かったよ。アレって最初は視認範囲だけが効果範囲でしょ。6階層のウルフは後ろから攻撃をされたのに弾いてたよね」


 「そ、それはシュ……矜一のパリィを参考にしたんだ」


 俺のパリィ? ああ……カルラと椿の間に割って入った時にそう言えば使った。

 あの時は正面で弾いたはずだけど、たしかに全方位からの攻撃を跳ね返すつもりで使っていた。

 それにシュテルンでなら配信で後ろからの攻撃も弾いたこともあったかもしれない。


 「ねぇ蒼月君。あたしだけレベルの上りが遅いんだけど、何かアドバイスはないかなー?」


 俺がパリィのことを考えていると、今度は一ノ瀬さんから相談を持ち掛けられる。

 というか、一ノ瀬さんだけレベルの上がりが遅いのは、ヒーラーで低階層では回復の機会がなく魔物もほぼ倒さないので経験値が入らないからだよな……。


 「一ノ瀬さんはヒーラーだから低階層だと回復をする機会も少ないし、魔物を倒すこともあまりないだろうから上がりにくいのかもしれない。探索を終える時に魔力を使うとか余裕がある時に魔物を倒してみるのはどうかな?」


 「あたし、役に立ててないね」


 経験値的な話で魔物を俺が倒していないと言ったせいで、一ノ瀬さんは自分が役に立ててないと言う。


 「いやいや、パーティに回復役がいるかどうかは生存に大きく関わるんだから、仕事がないことを喜ぶべきで、役にたってないとかじゃないと思うよ」


 俺は言い回しを間違えたかなと即座にフォローすると、九条君たちも同じく一ノ瀬さんの重要性を強調した。


 「「そうだぞ(やで)!」」


 「何言ってるの葵。みんながギリギリまで攻撃に専念できるのは、葵がいてくれるからだろう?」


 「椿……。みんなも……」


 「しかし、葵が悩んでいるならパーティとしては見過ごせない。蒼月君の話を取り入れるなら、戦闘に参加か……。マジックバッグもあることだし、投石はどうかな?」


 「なるほど。だけどマジックバッグは登録制だから、毎回石を渡すとなると……。ときどき、後は止めをさすだけの状態で生き残る魔物がいるからそれを任せるのはどうだ?」


 九条君と堂島君が真剣に話し合っている所で、俺は椿に端末でメッセージを送る。


 蒼月:『ダンジョンパーティはどうしてるの?』


 椿 :『時々全員を入れているけど、みんなステータスの確認をすることがあるから、ほとんどがダンジョンパーティを組めない状況で困ってる』


 ふむふむ。

 ちなみにこれは攻略道でも問題になっていて、桃井先生が『もう契約魔法をつかっちゃいましょうよぉ』と言っていたりする。

 せっかく東三条家の家宝ということで、階層移動の魔道具を解放したのに、契約魔法を使うなら意味が無くなってしまうんだよなぁ。



 「み つ け た」


 「ヒッ。こ、今宵ちゃん」


 俺がダンジョンパーティの経験値問題を考えていると、今宵とキィちゃん、さっちゃんが学校からギルドに急いで来たようでそれを見た椿が悲鳴をあげる。

 1回目にオークを売りにギルドに来た時に、『今宵からお昼には戻るよね?』 というメッセージが届いていたことは確認をしていたのだが、そう言えば返信をしていなかったなと思いだす。


 俺は激おこな今宵に引きずられるように、九条君たちのパーティから離脱をすることになったのだった。


 


 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

            前方出入り口

 1位 2位 11位 12位 21位 22位

 3位 4位 13位 14位 23位 24位

 5位 6位

 7位 8位

 9位 10位      29位 30位

            後方出入り口


 2位七海 3位葉月

 4位九条 5位椿 6位堂島

 7位水戸 8位一ノ瀬

 11位猪瀬 29位張本 30位青木

 忘れられているであろう席順です。

 

 

 


 

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