第177話 ゲリラ配信
キャンプを終えてから数日、俺はアステルとシン、ファーナと共にMeTube配信をするためにダンジョンへとやってきていた。
最近は配信の時間を告知しているとダンジョン前が埋まってしまって、配信予定に支障をきたすようになってしまったために今回からはゲリラライブのような形で配信をすることにした。
今宵の要望で今回は20階層のヴァンパイアを倒す所からの配信で、先ほど始まりの挨拶をして、その後に今宵たち三人がヴァンパイアを瞬殺して決めポーズをとっている所を配信している。
視聴者は突然LIVE配信が始まったために、まだ五十人未満と少ないが……って千人超えた!?
ま、まあまだ視聴者の数は少ないけど、数分もしないうちに千人を超えたので学生は夏休みだし、すぐにたくさんの視聴者に見てもらえることだろう。
「あ、今回も宝箱が出ない! 箱ガチャ渋いな~」
「まだ一回しか出てないんだよね? これじゃあ20階層が人気ないのも仕方ないね」
今宵……アステルがヴァンパイアを瞬殺した後に宝箱が出現しなかったことを嘆いている。
てかさっちゃんの言う通り、俺らと行った回数を合わせてもまだ宝箱は1回しかでてなくて、しかもその中身もショボかったのに箱ガチャって。
「アステルの強い要望で20階層から始まりましたが、どうやら宝箱が出なくて落ち込んでいるようですね。今日はこれから21階層を探索しようと思います」
俺は今宵たちを映しながら、今日の予定を解説する。
21階層からは初めての階層になり、安全性を考えると経験してからが一番なのだが、MeTubeの特性上ハプニングやハラハラドキドキという観点から見ると、どうしても多少のリスクが必要になってしまう。
もちろん俺自身は自分たちのレベルや階層の情報収集を徹底的にした上で、大丈夫と判断しての配信ではあるが、安全を優先したい俺からすると乗り気になれない行動となっている。
ただ、逆に今宵たちからするとガチガチに安全な冒険より、こういう配信が合っているようで楽しそうに動いてくれることは撮る側からすればありがたいことではあった。
LIVE配信のチャットを見れば、「宝箱が出ない」という不満の言葉さえも可愛いと評判だ。
今宵が魔石を拾い、21階層に移動しようとこちらを確認したので俺は頷いて自らも転移魔法陣へと向かった。
「ここが21階層かー。普通の洞窟タイプだね?」
「私のハルバードが活躍できる階層だといいな」
「それだと私が攻撃力不足になっちゃうよ~」
アステルを筆頭に
「21階層に出る敵は20階層のボス部屋に辿り着くまでと同じで、スケルトンナイトの数が増えるのとレッサーヴァンパイアが杖を持って魔法攻撃をしてくるのが大きな違いだね。20階層のレッサーヴァンパイアはカモネギだったけど、ここでは遠距離からの攻撃が加わるから気をつけろよ」
「「「ほーい」」」
今宵たちに説明をするついでに視聴者へも21階層の情報を開示する。
今宵たちはちゃんと聞いたのか聞いていないのか簡単に返事をすると、ずんずんと進んでいった。
「あ! 第一レッサー発見! スケさん
第一村人……21階層ではじめて出会う敵を第一レッサー(レッサーヴァンパイア)とスケルトンナイト2体を見つけた今宵はキィちゃんとさっちゃんに声をかけて対処にあたる。
レッサーヴァンパイアもこちらに気が付いたようで、杖を構え何やら詠唱をして魔法を使おうとしていた。
ただし、圧倒的に今宵の方が早く、スケルトンナイト2体を従えてその少し後ろにいたはずのレッサーヴァンパイアの横に今宵が出現したかと思うとチャキンと小太刀を抜いて首を斬り飛ばした。
その間にキィちゃんが片方のスケルトンナイトをハルバードでグシャリと押しつぶし、もう片方はさっちゃんが華麗な剣捌きで倒すと三人はこちらに向かって決めポーズをする。
「うーん……結局詠唱しようとする時間があるから20階層と同じで大差ないね!」
「こっちだとちょうど三人で倒せるから良いかも」
今宵のスピードが圧倒的に早いからそれができるだけで、普通は出来ないからな?
そして確かにスケルトンナイトの数が増えて3対3になって数としてはちょうど良い。
基本敵が弱い感じで進んでいくのでいつも視聴者の反応は気になるが、好意的な反応が多いので問題はないだろう。
それから何度も同じような対戦が続き、その戦闘に飽きて来た今宵がレッサーバンパイアに魔法を使わせてから攻撃をするようになった。
魔法は今宵たちに当たらなくてもダンジョンの壁に当たったりするので映像としては物凄く盛り上がるようで、チャットは興奮に包まれていた。
「あ、22階層への魔法陣発見!」
「22階層への魔法陣を発見したようです。22階層へ向かいます」
俺は視聴者に説明をしてから四人で魔法陣に乗ると22階層へと転移した。
「22階層はナーガが1~3体の集団で出現するはずだ。新モンスターだから気をつけろよ」
「ついにおに……シュテルンから前に聞いたことのあるナーガだね。戦ってみたかったんだよね~」
ナーガがいる階層と聞いて今宵が反応する。
11階層のトラップ部屋で俺が攻略道のメンバーと死闘を繰り広げたという話を聞いてから、今宵はずっと私がいればと悔やんでいた。
「ですわ がやたら仲間とのコンビネーションを自慢してきてウザ……死闘でしたわと言うのが気になっていたから、私のハルバードで瞬殺して差を見せつけますよ!」
配信中で名前が呼べないからって、ですわ呼びってキィちゃん……。
東三条さんがキィちゃん達に話したのは俺も聞いてたけど誇張とかなくて、まんま俺らの対戦をしっかりと話していた。
たしかに、「私様たちのコンビネーションがなければ切り抜けられませんでしたわ!」とか俺が最後に興奮して皆に抱き着いた話とかはしていたが……。
ふと赤文字……1万円のスパチャが入ったのでチラ見すると、「ナーガの強さにビックリするといいですわ!」というスパチャが流れていた。
俺はそっと見ないふりをする。
てかお前ら生ライブで配信者と視聴者に分かれて、お互い見てるかどうかもわかっていないのに会話を成立させるなよ!
「そろそろ敵が見えるよ。ちょうど3体! 見せてもらおうかナーガの性能とやらを!」
今宵のナーガをやたら高性能扱いした発言と共にキィちゃんとさっちゃんが戦闘態勢をとると3体のナーガが現れた。
その瞬間に今宵たちはタタタっと3方向から敵に向かうと一気に切りかかり……一刀で斬り伏せてしまった。
「あれ? 聞いてた時よりもアステルたちがレベルアップしてるから?」
今宵はあまりの瞬殺劇に腑に落ちないような発言をしている。
それを聞いて、キィちゃんはなぜかハッとした表情をした後にこちらを向いた。
そして大きなハルバードをクルクルとまわしポーズをとると、
「これが私たちの実力よ!」 どーん!
とカメラに向かって決めポーズ。
その瞬間に赤スパチャが「キィィ~~~~~」と悔しそうな顔文字付きで流れる。
いや、ハンカチ噛んで悔しそうな表現なんだろうけど、煽っているのがキィちゃんだからそれとかけてスパチャしてるなら、東三条さんも結構余裕あるだろと思いながら俺はチャットを確認していた。
他にも、『何故かメスガキ発言をしているシンが可愛い』と言ったキィちゃん達の謎ムーブにチャットが賑わっている。
というか11階層で戦ったナーガとは色が違って、22階層のナーガの方がかなり弱い印象を受けた。
あの時のナーガはカドゥルーの特別な敵だったのかもしれない。
その後、22階層も順調に探索をして23階層への魔法陣を見つけたところで俺は配信を終えることにした。
最終的には
ゲリラ配信だったので十分すぎる成果だと思う。
「今日の配信はここまでにしたいと思います。ここまで視聴していただきありがとうございます。まだ、チャンネル登録をしていない方はよろしくお願いします」
俺はそう言って今宵たちを見ると、
「「「「この配信を面白いと思わなくともここまで見てたら
と三人が何もない空間を指さしている所を映しながら、俺は配信を終了させたのだった。
―――――――――――――――――――――――
本文外。
少し過去のコメントなどで気になったのでここで補足。
矜一が仲間にハブられたり、仲間同士でとげのあるやり取りが本文内にありますが、実際に仲が悪かったりするわけではありません。
あくまでオチや悪戯的なものと考えていただければと思います。
一応、本気でないよという感じでフォローを所々でいれているつもりですが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます