第151話 野営➀
7月24日大安の火曜日。
俺はダンジョン前の広場で野営に行く九条君たちとダンジョン攻略道のメンバーの全員で集合していた。
今日はここに来る前に家が近いこともあり大安という吉日でもあるので、椿を誘って一緒に広場に行くべきかと悩んでいた。
決意を固めて端末で誘おうとした時に、今宵から「お兄ちゃんさっきから唸って何をしているの?」と聞かれる。
俺は正直に椿を誘って一緒に行くべきか悩んでいることを伝えると、あの人はもう出かけていたよと教えられた。
ってか前にあの人呼びを聞き間違いかと思ったが、今回は目の前で言われていることもあって聞き間違いではなかったことが判明した。
え? お前ら喧嘩でもしちゃったの?
今宵が俺たちの仲を取り持ってくれさえすれば、俺もまた元に戻れると思っていたのにダメなのだろうか?
そんなこんなもあって俺は急ぎダンジョン前の広場に来たわけだが、全員が集まった後でもダンジョンに出発する気配がなかった。
その理由は、九条君が東校の二年生と話をしているからだ。
しかもその二年生というのが、俺と東三条さんがギルドでアンポンタンの3人に絡まれた時に近くでこちらをみていたやつだった。
アイツは見ていただけだったので、東三条さんは特に気にしてはいなかったが、俺は念のために名前と所属している部活動は調べていた。
名前は、
剣術部のエースで次期部長と目されているらしい。
二年のランキング戦でも1位で総合ランクでも4位の実力者だ。
しかも学力も高く、2年の1クラス1位ということもあって、
ナーガの王だって七俣竜なのに、名前負けしすぎてない?
羨ましくなんてないんだからねっ!
いや、東校の2年1位であるなら、日本国内でも同学年であればトップクラス……それなら名前負けはしていないのかな?
ただ俺は一言だけ言いたいね! クトウをクズと読むなら、ニックネームは
いや待てよ? 屑なのかも? と思ったけど、東三条さんに負けているなら屑鴨さんか!?
「どうした蒼月? 難しい顔をして」
いけない、黒い俺が出てしまっていた。
九頭のことを考えていると顔に出ていたようで、水戸君が心配をして聞いてくる。
「いや、あの先輩、前に俺と東三条さんがギルドで絡まれた時に近くにいた人だから、九条君と何を話してるのかなってね」
「トワイライトってクランのメンバーに絡まれたってやつだっけ。それなら気にはなるけど、ギルドには結構東校の人がいるからどうなのかな」
それはそうなんだよね。
東校の生徒は普通に探索協会に出入りをしているので、彼がいても不自然なことはなにもない。
ただ、こちらを見ていたタイミング、しかも俺たちが絡まれていた相手がマコト達を襲ったトワイライトのメンバー。
さらには東三条さんとも彼はランキング戦で対戦をしていて負けたと言う話だったので、それぞれ個別には問題がなさそうでも合わさると不気味だと感じてしまうのだ。
「まあ、気にし過ぎだとは思う」
「いや、そういう勘って結構重要かもしれないから、僕も少し気にかけておくよ。ただまあ、今日は大人数だしさすがに絡まれないと思うけど」
確かに11人の集団なので、絡まれたりすることはないだろう。
俺と水戸君が話をしていると九条君と九頭の話も終わったようで、俺たちはダンジョンに入ることになった。
今日の予定は、5~6時間を目安に12階層を目指して移動をして、そこから折り返して6階層で野営をすると言う日程になっている。
現在は朝の7時30分。
移動に時間がかかって12階層に到達ができなかった場合でも、14時を境にして6階層へ引き返す予定だ。
今の攻略道のメンバーなら猪瀬さんでも普通に3時間で行ける距離ではあるが、椿たちはどうなのだろう。
「荷物が多すぎて動きにくいから、あおっちとあまちーが羨ましい~」
大きめのリュックサックを背負った猪瀬さんが、マジックバッグを持っている俺と東三条さんを羨ましがっている。
「普段は持ち歩かない寝袋やヘッドライト、水や食料、着替えがバックパックに入っているもんねー」
七海さんが普段は持ち歩かない荷物の話をしている。
というか、リュックサックよりバックパックって言う方がカッコイイから俺もそっちにするか。
ちなみにリュックサックはドイツ語でバックパックは英語だ。
ドイツ語にすると何でもカッコよくなると思ったら大間違いなのかもしれない。
ちなみにザックはリュックサックの略語でこれは日本だけでしか使われていない言葉だったりする。
「それでもテントは東三条さんと蒼月君にそれぞれ持ってもらっているからだいぶ楽だよ! 九条君と十六夜さんなんてテントの分だけ私たちより大きなバックパックだし! 九条君は盾と剣もあるから両手が塞がっているし大変そう」
葉月さんが九条君と椿はもっと大変そうだと言う話をする。
盾という話で俺が水戸君を見ると、その視線に気が付いたのか水戸君もこちらを振り向く。
「盾で両手が塞がるけど、これはバックパックを背負っていなくても同じだしね。慣れないと」
俺の視線が盾にあったので、俺が言いたいことに気が付いて慣れるしかないと水戸君は話す。
「学生の時にポーターを雇う人は少ないですが、安全を考えれば雇う方が良いのかもしれませんわね。パーティ内でその役割を担う人がいるパターンも多くのパーティで採用されていますけれど、ただその場合は、パーティ内でその方に対する差別のようなものがあるという話もよく聞くので難しい所ですわ。あちらのパーティはリーダーが率先して重い荷物を持っているようなので良いパーティなのかもしれません」
東三条さんが九条君たちを見て評価をしている。
パーティ内の差別って一番弱い人が荷物持ちになってって言うことなのかな?
確かにパーティ内でポーターのような事をしていると、戦闘をしている人からすれば楽をしているように感じるのかもしれない。
でもその荷物を持ってもらえているから戦闘も楽なはずなのにね。
今回はパーティ別の野営の訓練ということもあるので、椿の荷物が多くても俺のマジックバッグに入れて持つ荷物の軽減という話はしない方が良いだろう。
「じゃあ行こうか。って蒼月君の荷物はボディバッグと剣だけなの? 戦闘をするから役割を分けてるのかな?」
九条君が俺たちの所にやってきて出発の話をしたが、俺の荷物の少なさに気が付いたようだ。
「ああ、マジックバッグがあるから」
「え? 蒼月君ってマジックバッグ持ってるの!? へ、へぇー。そ、そうなんだ。……すごいね」
九条君はそういうと、自分たちのパーティの所へと戻っていった。
まあ、同級生が何千万円もするものを持っていたら引くかもしれない。
俺はそう思いながら、みんなとダンジョンへと入るのだった。
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本文外。
矜一と東三条さんがトラブルにあった回は4章2話目の129話です(忘れてる方向け)
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