第131話 十六夜椿とその仲間たち(三人称一元視点)
――十六夜椿と仲間たち(三人称
矜一たちがダンジョンで付与魔法の実験をしていたちょうどその頃、椿はパーティの仲間と共に冒険者ギルドの一角で、あるパーティを待っていた。
「レン。本当に大丈夫なのか? ダンジョンの中で一度アドバイスをしてくれたパーティだからと言って、昨日冴木先生が5クラスに悪意を持って接してくる人たちがいるかもしれないと注意していたばかりだろう?」
椿は昨日冴木先生に言われた事が気になって、レンにそのことについて話しかける。
「椿は心配性だな。前だって親切にいろいろ教えてくれた人たちじゃないか。しかも、クラン:トワイライトのクランマスターでA級の人と一緒に10階層のボスの討伐に参加させてもらえる機会なんて今後ないかもしれないだろ」
「そ、それはそうなんだが……」
「でもまさかレンがA級の人と連絡をとっていたなんてな。前にたしかに困ったことがあれば連絡をって連絡先を教えてくれていたけど、相手の社交辞令かと思っていたよ」
「あたしも社交辞令と思っていたから、何かあった時のお守りくらいにしか考えてなかったー」
「ワイもや」
ダンジョン内で赤外線データでのやり取りという古いやり方ではあったが、海斗と葵、榎本君は前に交換をした連絡先を社交辞令と考えて……登録はしていたが、こちらからかけたりすることはなかったようだ。
ちなみに椿はいくらこちらが東校の生徒で相手が元OBだとしてもA級まで上り詰めたような人が、簡単に連絡先を教えてくれることに違和感を覚えて、連絡先の交換をしていない。
「でもワイらも討伐に参加させてくれるって、そんなうまい話あるもんなん?」
榎本君は相手を信用していないというよりは、あまりにもうまい話で困惑しているという感じかな?
「ああ、何でもここ数日ミノタウロスを独占できているらしくてね。クランの人たちで回していたみたいなんだけど、ちょうどその時に僕から連絡が来たらしくて一緒に参加してみるかって打診を受けたんだよ。あ、もちろん戦闘には参加はできるみたいだけど、魔石や肉はトワイライトの取り分だから、こっちがもらえると言えるものは、ミノタウロスと対峙した時の安全と対処する経験だから金銭的には今回は何もないよ」
レンが今回の待ち合わせの経緯について榎本君に話している。
「うーん。金銭的なものは全て相手の取り分だったとしても、A級の戦闘が間近で見られて、しかもボス戦に一緒に参加できるだけでもギルドに依頼をしたら凄い金額になりそうじゃない? 戦闘終了後にあたしたちに指導料を払えって言ってくるかもだよ?」
葵が金銭的な報酬がないと聞いても、むしろA級と同行するのだからこちらに支払いを要求してくるのではないかという懸念をしめす。
「A級だぞ!? みんな心配しすぎだって。
レンは1-4クラスの上位に負けてから――――いや、矜一と授業中に対戦をしてから何かに追い立てられるかのように上を目指すようになった。
毎日のダンジョンダイブにしても椿たちが家に帰宅するのはいつも夜遅くで、夕食を家族と共にすることは殆どなくなった状態だ。
椿はこのパーティの現状を危ういと思う。
ただ……結果は出ている。
たしかに、矜一やダンジョン攻略道のメンバーに椿は成績で抜かれることになってはいるが、1-5クラスで見ると矜一たちとレン……椿たちの集団は一歩も二歩も抜きんでているのは間違いがないのだ。
矜一は1-4クラスの全員に棄権を含めて勝って見せたが、レンや椿たちだって1-4クラスの下位には勝つこともできている。
そう、このまま推移して今の成績を維持できるなら、2年次には4クラスに上がることも可能だろう。
……椿たちは頑張っている。
そうそれは間違いがないのだ。
でも――――、幼い頃に憧れていた――――思いを寄せていた、あの頃を取り戻しつつある今の矜一を思い、椿は胸に一抹の痛みを覚えるのだった。
「おう、待たせたみたいだな」
「あ、
話をしていると、トワイライトのクランマスターがクランメンバーを連れてやってきたようだ。
レンが朧さんに対応している。
「ミノタウロスの戦闘を見せるって話だったが、よくよく考えると俺のパーティだと簡単に倒してしまって参考にならないと思ってな。昨日、ポカをしたメンバーがいて、それがお前たちが目指す強さとしてはちょうど良さそうだったんで連れて来た。おい、
朧さんはそう言うと、三人のクランメンバーを呼んでこちらに向かって自己紹介させた。
お互いが自己紹介をし合う。
朧さんが言うには、本当はもっと椿たちのレベルに合った三人組がいたらしい。
その三人組と今回紹介した三人の六人でミノタウロスを倒すのが一番椿たちの参考になる組み合わせだったそうだけど、ゴールデンウィークを境に急にクランに姿を見せなくなり、行方が分からないらしい。
「ダンジョン内で他の探索者に殺されていたりしてな。あ、これはAランクジョークな」と言っているが、Aランクジョークってなんだろう?
事実としてクランに姿を見せなくなったということは、ダンジョン内で負けたということに違いない。
魔獣に負けたと言わずに他の探索者にと言った所が、A級探索者が言う皮肉ジョークと言うことだろうか?
そもそも椿たちからすればダンジョン内では日々命を賭けて魔獣と戦っているので冗談には聞こえないし、別の探索者から攻撃を受けるという話も冴木先生がクラスで話をしていたばかりということもあって、レンたちもどう答えて良いかわからないという表情をしている。
「チッ。何で俺たちがお守りをしなきゃいけないんだよ。しかも外部生って朧さんは何をかんがえているんだ(ぼそ」
レンたちと朧さんが話をしている少し離れたところで、先ほど紹介を受けた一人……安城さんが小声で今回の椿たちの同行に文句を言う。
たしかに彼らからすれば椿たちに戦闘を見せるのは何の得にもならず、お守りというのもその通りかもしれない。
ただ……、せっかく長時間同行させてもらうので嫌な気分で過ごすよりも仲良く行けたら良いなと思う。
「すみません。こちらが無理を言ってしまって。できるだけ邪魔にならないように頑張るので、今日は宜しくお願いします」
会話を交わせば嫌な感情も少しは減るかと思って椿は声をかけてみた。
「わかってるなら無理を言うなよ。これだから外部生は……」
「安城! お前は昨日ウチの評判を落としたのに反省できていないのか?」
仲良くできるかと声をかけたが、彼らには椿たちが外部入学であることが、気に入らないようで何度も外部生という言葉を発している。
「いえ、すみません」
「じゃあ、行くか。10階層までは……お前たちなら4時間くらいか? ミノタウロスの出現する時間の関係もあるから4時間以内には到着したい所だな」
愚痴を言っていた安城さんが朧さんに窘められた後、椿たちはダンジョンの10階層へ向かって出発した。
4時間近くダンジョン内で一緒に移動をするために、その間に椿たちのパーティの役割や戦い方を話したり、敵と遭遇した時にこちらが戦ってアドバイスをもらったりする。
レンは最近ではライオットシールドを使うようになっていて、片手剣にライオットシールドというスタイルだ。
スキルに武器マスタリーを持っているためか盾を使い始めても直ぐに使いこなし、敵の攻撃を受けることが可能になった事でパーティのできる事の幅は多くなった。
「そう言えば、聞いているとトワイライトのクランだとチームはスリーマンセルが基本なんですか?」
レンが朧さんとの会話の中で気になった事を聞いている。
朧さんが言うには、トワイライトでは基本的にスリーマンセルで活動をしていてボス戦や三人では厳しい場所では2チームが集まって攻略をしていく形態をとっているらしかった。
「ああ、スリーマンセルって言うのは小隊を組むうえで一番最小の人数が三人組でな。小隊……パーティを組むうえで最小の人数で攻略ができるってことはわかりやすくその三人が強いってわかるだろ? まあ俺たちのクランが上を目指すためのプライドみたいなもんだな。他のクランやパーティが五~六人で攻略する所を俺たちは三人でできるぞってな」
「凄い……! たしかにほとんどが五人か六人のパーティで攻略をしている所で三人でいれば、一人一人が他のパーティより強いってことですもんね」
「「「まぁな」」」
レンの言葉を聞いて安城さんたち三人は少し胸を張り同意していた。
……スリーマンセルで行動することでその一人一人は他の同じ階層を攻略するパーティより強い事はたしかだろう。
でもダンジョン攻略はまず安全を確保することが大事なのではないかと椿は思う。
後二人か三人いれば、三人で攻略している階層以上にいけたり安全に攻略している階層を移動できるのではないのだろうか?
姿を見せなくなった3人組も、一般的なパーティの人数で攻略をしていれば今もいつも通りに活動出来ていたのではないかと思うのだ。
強くみせるためだけに少ない人数でダンジョン攻略するということに椿は同意できず、レンや海斗が安全よりもプライドを重視するようになれば注意する必要があるなと思うのだった。
「おー、ご苦労。他のパーティはどうだ?」
「あ、朧さんお疲れ様です。大丈夫です。何組か来たんですけど、順番待ちをしようとしたパーティは散らしておきました」
「そうか。ただ、悪いんだが今回は安城たちと俺、それと東校の生徒でやるからお前たちは1回あとにしてくれ。交代要員にもその話をクランで既にしてきたのであと5時間は来ないからな」
「了解です。次はあと30分後くらいです」
「わかった。
「はい」
……階層ボスの独占行為って禁止ではないのだろうか?
スリーマンセルの件と言い、いくらA級が率いるクランだからといってレンは付き合う相手を間違えているのでは?
それについても話し合いたいが、善意でミノタウロスの戦闘参加を許してくれている事実もあって、椿の考え方がトワイライトと合わないだけで言いがかりの可能性もあるのが難しい。
「お、時間だな。あー、レンたちは初めてだから最初の咆哮に驚くかもしれないが、最初はこいつ等三人が対処をするから慣れるんだな。お前たちの後衛の役割は俺が三人に混ざってやるから、参考にすると良い」
「はい!」
「よし、じゃあ行くぞ」
椿たちは朧さんたちが魔法陣に乗ったと同時に階層魔法陣へ足を踏み入れた。
「ブモォォ――――!!」
「「クッ」」
これがミノタウロスの咆哮か。
2度壁を超えたからか、動けないということはないがそれでも動きを阻害されるだけの効果はあるようだ。
初見でこれを受けると、話を聞いていただけでは対応が遅れるかもしれない。
それを考えれば、同行させてもらえた事は幸運か……。
「よし、お前ら、初心者講習だ。なぜその行動をとるのかわかりやすく見せながら動けよ」
朧さんがそう言って指示すると、三人はすぐに移動していく。
「「スラッシュ!」」
本波さんと丹場さんがミノタウロスの両側に移動してスラッシュを放つ。
「ミノタウロスはある程度の力があれば、倒し方が確立されているんだ。ああやって両サイドから攻撃を加えることでミノタウロスの標的を一人に絞らせず、迷うようにするのがミノタウロスを倒す時の基本だな」
椿はミノタウロスの戦闘に参加させてくれると聞いても、朧がここまで親切に解説をしながら教えてくれるとまでは思っていなかったために驚く。
先ほど懸念したことは、やはり言いがかりだったのかもしれない。
標的に迷ったミノタウロスであったが、数瞬の後に丹場さんを狙うことに決めたようでそちらを向く。
そこを待ち構えていた安城さんが後ろから攻撃を加える。
「ダブルスラッシュ!」
「ブモォ―――!」
ミノタウロスはさすがボスだけあるのか、三人の攻撃を受けて傷を負っても動きが鈍ることはない。
「ミノタウロスの攻撃はできるだけ受けるな。レンは
「は、はい」
「前衛三人だけでやっても後衛には参考にならないか。よし俺が後衛として海斗と同じくらいの力で参加をするから見ておけよ」
朧さんはそう言うと、姿がかすみ一瞬でミノタウロスと戦っている三人の後ろに移動した。
「ウインドカッター!」
朧さんは海斗の氷魔法を意識したのか後衛の動きを見せながら戦ってくれる。
しばらく四人の戦闘をみていると、朧さんから声がかかった。
「そろそろ、お前たちも参加してみろ! 15数えたら来い! それと同時に俺たちは引くから五人で対応してみせろ」
「はい! みんな行くぞ!」
「「おう!」」 「「うん!」」
椿はレンと5人の先頭を走りミノタウロスの近くに移動すると、今まで戦っていた朧さんたちが後ろに下がる。
椿はレンの目をみて合図をすると、ミノタウロスの左側へ。
レンは右側へと移動する。
「「スラッシュ!」」
先ほど見せてもらったやり方を椿たちも踏襲する。
!?
ミノタウロスはどうやら椿をターゲットにするようだ。
目前でミノタウロスを見上げると、その大きさに少しだけ怯むが強く意識を保ちミノタウロスの攻撃を避けることに集中する。
「やぁ!」
ミノタウロスの後ろではヒーラーではあるがチャンスと見たのか、一ノ瀬さんが剣で攻撃を加える。
それを見た榎本君も足を狙い攻撃を加えたことで、椿からターゲットを後ろ側の二人に変えたようだ。
そこを一ノ瀬さんと榎本君がミノタウロスに本格的にターゲットにされないように、レンが攻撃を加えた。
「ダブルスラッシュ!」
なるほど、こうやってターゲットを分散させることでミノタウロスの攻撃をかわしやすくして一方的に攻撃を加えるのことが、朧さんの言っていたミノタウロスの倒し方か。
しかし、まだ少ししか動いていないというのにミノタウロスと対峙をしているだけで、疲労が溜まっているのが分かる。
「アイスブレット!」
海斗も今の流れが、見せてもらった動きの踏襲と気が付いて魔法を放った。
「よし、そろそろ俺が参戦して倒すぞ。お前らは疲労で動きが悪くなっているからな」
何度か先ほどの動きを繰り返していると、朧さんが参戦するようだ。
朧さんが言うようにたった数回、同じ動きをしただけで椿たちは疲労していた。
「絶影」
朧さんは言葉を発すると同時にスキルを使い一瞬でミノタウロスの前に出る。
「朧月夜」
ミノタウロスの前に出た朧さんがさらにスキル名を唱えた瞬間、朧さんとミノタウロスの両方の姿がかすんで動きが見えなくなると……、幾度かの攻撃を加えた音がした後にミノタウロスは倒されるのだった。
「すげー! 動きが霞んで全然なにをしたかがわかんなかった!」
レンは興奮して海斗と榎本君と話している。
これがA級。
椿たちが目指す先か。
「参考になったなら良いんだけどな。悪いがミノタウロスはもらうぞ」
朧さんはそう言うと、ミノタウロスをマジックバッグに回収した。
「帰るまでが
「「はい」」
椿たちは朧の言葉に返事をすると束の間の休息をとり、帰路へ着くことになるのだった。
―――――――――――――――――
冒頭のナレーション……矜一たちの動きを入れるためだけに、椿の一人称視点ではなく三人称一元視点としてみました。
なくても良いのですが、時系列がいれたほうがわかりやすいと思われたので入れています。
またフォロー、応援コメント、星評価うれしいです。ありがとうございます。
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