第123話 失態
16階層に移動した俺は、まずこの階層のことを調べているのか父さんに聞く。
「父さん、16階層の情報は集めて来てる? レベルの壁と同じならここから一段と強くなってるはずだし、ギルドでも16階層は注意事項が出てたよ」
「おう。それは調べて来てるぞ。みんなも聞いておいてくれ。16階層はゴーストとレイスという魔物が出る。ゴーストは半透明で大きな風船のようなものが浮遊しているらしい。レイスは良く漫画で書かれて死神のような鎌を持った霊体で、どちらも物理攻撃がほぼ効かないらしいから気を付けてくれ」
「ええ!? 新しい武器で出番が来たと思ったらもうダメなの!? 物理攻撃がダメって私やさっちゃんはどうすればいいんですか?」
キィちゃんがこの階層ではハルバードが使えないと知って困惑している。
「さっちゃんのご聖水……スタミナポーションは聖属性だから、ぶつけたりかければ恐らくダメージになるけどね」
キィちゃんが自分たち二人はどうすれば? ということを言うので、さっちゃんもダメージが通る攻撃ができるよと教えてあげると、絶望した表情を俺に向ける。いつも悪戯されるのでこれくらいのお遊びは許されるだろう。
「え? 私のポーション効くんですか!? でも数があんまりないから……」
さっちゃんは最近ではスタミナポーションを人数分作って持って来てくれる。
そして余った分は俺や父さんがアイテムボックスにストックしている状態だ。
さっちゃん自体は数があんまりないと言ってはいるものの11人分……帯剣ベルトに付けられるポーチに毒消しや回復のポーションを入れた残りの空き……、4本分ほどがスタミナポーションになっているために、数の合計としては結構な数をパーティ全体で持っている事になる。
「効くはずだけど、どの程度の効力があるかはわからないから一度ゴーストかレイスに使ってみて試してみるのもいいかもね」
「はい」
「お兄ちゃん。物理が効かないってのも、どんな感じなのかは見ておかないとダメじゃない?」
今宵が物理が効きにくいって言うのは、どういう感じなのか見ておきたいという話をする。
出会い頭に魔法で瞬殺みたいな感じで良いとは思う。
ただ、不測の事態……、例えば魔力切れだとか、今後に上の階層で物理が効きにくい相手とリビングアーマーのような魔物の混成部隊などとの対戦があれば、ゴーストやレイスに対して剣で牽制ぐらいはできるのかどうかは知っておくべきなのかもしれない。
「あ! じゃあそれ私が攻撃してやってみます! 矜一お兄さん、やってみて良いですよね?」
キィちゃんが俺に初戦のゴーストは私に対応させてというので、俺は父さんをチラリとみる。
すると父さんは頷くのでキィちゃんに初戦を任せてみる気のようだ。
「じゃあゴーストが出たらお願いしようかな。ちゃんとハルバードが通用しない可能性を考えて立ちまわること」
俺はキィちゃんに注意事項を確認しながら許可を出した。
「はーい」
「お兄ちゃん? そろそろ言わないと」
ん? 少し前から今宵がこちらをチラチラと確認していた事と母さんが一瞬何かに反応した事には気づいていたんだが、言うってなにを?
そう思っていると、俺の気配察知に反応があった。
しかもいつも気配察知で反応する距離の3分の1の距離……、かなり近い場所まで接近されての察知となった。
これはもしかしてゴーストなどの霊体は気配察知では察知し辛く、魔力感知の方が察知しやすいのか?
霊体ならば魔力体だからなのかもしれない。
「キィちゃん もう少しでゴーストと接敵するみたいだよ。あと、今宵。この階層は気配察知よりも魔力感知の方が察知しやすいみたいだ。感知したら皆に注意を促してくれ。母さんも」
「あ、それで。ほーい」
「わかったわ」
「あれがゴースト。では私が行きますね!」
ゴーストを確認するとキィちゃんは気合を入れて前にでる。
16階層からは1段階強いという話ではあったが、感じる強さはそこまでではない。
むしろヘルハウンドよりも弱く感じる。
もともと今宵が魔力感知を覚えてから俺もそのスキルがほしくて魔力の濃度などそういう目線で敵を見てみても、ゴーストは魔力体であっても
これなら物理が効かなくても大したダメージを受けそうにもないのかな? と俺はゴーストを見て判断した。
「やぁ!」
キィちゃんはハルバードを大きく振り上げてゴーストに振り下ろす。
が、それはそのままゴーストを通り抜けてダンジョンの地面へとぶつかった。
なるほど……。物理が効きにくいって言うのはこういうことか。
しかし今の感じなら無効と思うが、属性のついた武器であれば通るから効きにくいということなのかな?
俺がキィちゃんとゴーストの初撃を見て対策を考えていると、ハルバードをすり抜けたゴーストは攻撃をするために近寄っていてほぼゼロ距離になっているキィちゃんへ重なって……キィちゃんをすり抜けた。
「あッ……」
ドサリッ
!?
「「キィちゃん!?」」
ゴーストがキィちゃんをすり抜けたと思った瞬間に、キィちゃんは声をあげて倒れてしまった。
なんてことだ。
ゴーストから感じる強さから舐めてしまっていた。
キィちゃんから感じる気配からキィちゃんは完全に意識を失ってしまっている。
不測の事態に対応しようと物理攻撃を試して不測の事態に陥るなんて。
(転移) 「あああっ!」
俺が短距離テレポートを使ってキィちゃんの近くに行き、抱き寄せたと同時にさっちゃんが声をあげてスタミナポーションをゴーストに投げつけた。
ポーション瓶はゴーストに当たるとなぜかすり抜けずに破裂して、その瞬間ゴーストは消滅して魔石を落とすのだった。
「「キィちゃん!!」」
今宵とさっちゃんが声をあげてこちらにやって来る。
「矜一、キィちゃんは大丈夫なのか!?」
父さんが俺にキィちゃんの状態を聞いてくるが、キィちゃんに外傷はなくダメージを受けているようには思えない。
ただ魔力の感じがおかしいようなそうではないような……。
「ヒール」
俺は念のためにヒールをかけて様子を見るが、キィちゃんの意識は戻らない。
これはどうなっているんだ?
くそっ 失態だ。
俺はそう思い唇を噛みしめる。
「矜一。魔力をもっとよく見なさい! キィちゃんの魔力回路がズタズタよ」
母さんが俺を叱責する。
たしかに魔力に異変は感じたが……。
俺はもう一度キィちゃんを魔力の流れを重視しながら見てみると、たしかに違和感は感じるのだが……。
「こっちに」
母さんはそう言うとキィちゃんを抱き寄せて、キィちゃんに魔力を流し循環し始めた。
5分ほど母さんがキィちゃんに魔力を流し循環させていると、キィちゃんが目を覚ました。
「あれ? 咲江さん?」
「「キィちゃん!」」
今宵とさっちゃんが目を覚ましたキィちゃんに飛びついた。
「もしかして私……ゴーストに負けた?」
キィちゃんは独り言をそう呟くと、今宵とさっちゃんから状況の説明を受けていた。
「……矜一。これは俺たちの失態でもある。わかっているな?」
「うん……」
父さんが自分たちの失態だという話を俺にしてきたので、俺はそれに同意する。
物理が効きにくいという情報を知っていてこの結果だ。
当然、今回のように効きにくいというなら、それがどういう感じなのかを調べることは必要だろう。
だから、そこの判断については俺は間違っていたとは思っていない。
でも、俺は……、いや恐らく父さんや母さんもゴーストを見てキィちゃんが対応できると判断したはずだ。
攻撃が通用しない場合でも、さっきのように意識を失う様なことにはならないと思っていた。
それが結果を見ればこの状態。
多少は攻撃を受けてもヒールで治せる程度だろうと思っていたことも、その判断にミスを生じさせたと思う。
キィちゃんに任せたとして攻撃が効かなかった場合には、すぐに態勢を整えてこちらに戻らせるかゴーストの攻撃はかわすように指示をしておくべきだった。
俺と父さんは今宵たちが話をしているのを横目に、自分たちの失態と今後どうやってそれを無くしていくかという話をする。
お互いに意見を言い合っていると母さんがやってきた。
「今の対戦で分かった事も多いわ。キィちゃんのハルバードがすり抜けたのにさっちゃんのポーションは当たって砕けたのは見たわよね? あれからするとポーションに属性が備わっていたから物理攻撃が通じたようにみえたんだけど、どう思うかしら?」
「それは俺も気になってた。たぶん母さんの言ってることで間違いないと思う。問題はスタミナポーションは聖属性だから、その属性以外はどうなのかって所かな? 魔法で倒せるならどの属性でも大丈夫とは思うけど、効果は違うかもしれないよね」
「そうね。それと魔力回路を壊す、属性や魔法が効くという仮定で言うなら、単純に魔力を放出したり、武器に纏わせれば攻撃が通るんじゃないかしら?」
なるほど。
キィちゃんが攻撃を受けた時も威圧を放つ要領で魔力を放っていれば、ダメージを受けずに済んだ可能性があるのか。
俺たちはこの話を全員で共有した後に、ゴーストと何度も対戦をして試す。
そしてその結果は、魔力を纏わせた物理攻撃ならばゴーストは倒せるということだった。
魔力を放出してゴーストに当ててもその濃度……威力によってダメージが与えられることも判明し、キィちゃんとさっちゃんも戦える事がわかって、俺たちはゴーストとの初戦のミスを教訓に16階層の探索を進めて行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます