第120話 ミートソース

 ハイオークがそれなりに強いことと肉を卸すために今後も15階層は良く来るだろうこと、午後から今宵と合流することから、レベル上げのために先に進むというのを一旦止めて15階層を満遍なく調べて回ることにした。


 ここにいる15階層のオークは棍棒を持っていて、上位種であるハイオークは大きな鉄の棒か剣を装備している。

 棍棒や剣は直径が大きく人は使えないが、素材としては売れるので父さんがハイオークを入れても空きがあるなら入れられるだけ持って帰ろうと言うので集めている。


 「素材なんかを一時的に保管する倉庫を借りないと家や庭に置くには量が多すぎるな」


 「それもですがお父さん恭也さん、冷凍室があれば私たちなら短時間でオーク肉を取れるのでいくらでも確保できますよ」


 「ダンジョン近くの倉庫や冷凍室か……。賃貸料が高くても1ヵ月分だけ先払いで借りられるとかなら良いんだが……」


 夫婦間では父さんが会社を辞めるということは、空間魔法を覚えた直後くらいから話し合っていたそうなんだが、昨日の家族会議の後からは家の問題として俺や今宵の前でも話してくれるようになった。


 というか、さっちゃんがスタミナポーションを作るだけで億万長者になれそうなのと同様に、原価がほぼ掛からないオーク肉卸し業者……とかヤバすぎるな。


 人の口に戸は立てられぬというように俺たちには秘密がありすぎるので、従業員が増やせないことが一番の課題だろうか。

 ただ、それについても契約魔法を覚えればある程度は対処できることになるだろう。


 「15階層もだいぶ慣れてきたな。ただ、俺たちは気配察知なんかで感知できるが、それがない場合は魔石を取ったり死体が邪魔でもたついている間にバックアタックを受けて不意を突かれると危ないかもしれないな」


 父さんが15階層について考察している。

 俺たちは基本的にダメージを受けることがあまりないので、不意を突かれて攻撃を受けた時にどの程度ダメージを負うのかが分からない所が弱点かもしれない。


 「せっかく家族だけなんだから、色んな魔法やスキルを試しながら15階層を探索しましょう」


 母さんが……俺たちのレベルだけではなく恐らく魔法やスキルのレベルも上げるために、普段だとパーティ全体を考えたりしながら探索をするので、過剰に使ったりしない魔法やスキルを使っていこうと提案する。


 「無茶をするのは一人だと危険だけど、3人いればカバーし合えるからいいかも」


 「ふむ、ならそうするか。ただ周囲の気配だけはみんな探りながらだぞ」


 「だね」



 俺と父さんも母さんの意見に賛同して、俺たちは15階層を普段はあまり使わない魔法やスキルを積極的に使いながら隅々まで攻略していく。


 「隠し部屋やトラップ部屋のようなところはないみたいだね」


 俺たちは休憩を挟みながら既に4時間以上もの間、15階層を探索していた。

 4時間も探索していれば、複数のパーティを見かけたのだが東校の学生に会うことはなかった。


 護衛を含めた東三条さんのパーティで最高が17階層なので、上級生だとしても15階層は既に難しい階層になっているのかもしれない。

 

 「少し早いが、一旦戻るか?」


 「そうね……。でも時間が中途半端でしょう?」


 「なら14階層で30分くらいやらない? バーゲストがいるかもしれないし」


 「レア種か! 行ってみよう」


 「もうお父さんったら、年を考えてはしゃいで下さい」


 俺の提案に父さんは飛びつき母さんは苦言を呈したが、バーゲストと戦ったことがない父さんに押し切られて、14階層に戻り30分だけ探索をすることになった。

 探索をするには短い時間なので俺たちは小走りで移動して探したが、結局バーゲストを発見する事はできなかった。


 「時間切れか。しかし話には聞いていたが本当にいないもんなんだな」


 「東三条さんの話だと1日探索しても会わないこともあるそうだからね」


 「それだとますます戦ってみたかったが、仕方ないか」


 「お父さんはこれから時間があるんですから、別に今日じゃなくてもいいでしょう?」


 「まあ、そうなんだけどな。よし、じゃあ一旦帰るか」


 「今宵ちゃんが帰ってくるまでに、お昼ご飯も作らないと行けないんですからね」


 「あ、それなんだけど母さん。今宵のことだからキィちゃんとさっちゃんも連れて帰ってくるかもしれないよ?」


 俺はあの3人の行動を予想して話す。

 4人分だけしか料理を作っていなかったら、キィちゃんとさっちゃんが来た時に足りなくなってしまう。


 「それなら簡単に人数分が作れるパスタとサラダにでもしましょうか」


 「あ、じゃあ俺はミートスパゲティが食べたいかなー」


 「はいはい。たしかひき肉とトマト缶はあったから大丈夫よ」


 「なら俺はたらこで頼む」


 「それは……たらこがたしか無かったから、振りかけるだけで簡単レトルトね。バターは加えますけどね」


 母さんがスーパーに買いに行くとは言わずに、レトルトで済ませようとするところに家族内の力関係が見て取れる。


 ただまあ、味が違うソースを何種類も作るのは面倒だろうし、仕方がないのかもしれない。

 母さんの作るパスタは美味しいので、先にミートスパゲティを提案しておいてよかった! 

 


 


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今後の更新は毎日更新から、一週間のうちで水、日の2回に変更します。

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