第87話 ガラドクヘービがやって来る
12階層に初めて足を踏み入れた俺たちはその景色に圧倒される。
草原とむき出しの地面が半々の地平線の先にはエアーズロックのような一枚岩がそびえたっている。
「広い。そして暑い」
砂漠気候というのだろうか? 11階層はジメジメとして不快であったが、真逆のような状態だ。
「ほえ~。景色が凄い~」
「本当に凄いねー。でもこんな広い空間がダンジョンにあるなんて不思議」
そこなー。
でもそれは考えてはダメな所だよな!
恐らく魔法陣による転移で階層はそれぞれ別の亜空間なのだとは思う。
ラノベの塔タイプはもちろん、階段で地下に降りるタイプだってちょっと階段移動しただけでどうやってそれを支えてるんだよって話になるもんね。
マジックバッグやアイテムボックスの中に実はダンジョンがありましたと言われても俺は驚かないゾ!
「どこまで続いているのかな!」
葉月さんが何処までも続く地平線を目にして距離が気になったようだ。
「確かエアーズロック……じゃなくてあのビッグロックまでが約100キロメートルでそこからさらに100キロほどが全容だったかな? そこにはキングスキャニオンのような渓谷があってガルーダがフィールドボスでいるみたい。でも強いから絶対に行ってはダメな所だな」
エアーズロックはエアーズさんが見つけたからそう呼ばれているが、12階層のビッグロックは国防軍の大石さんが見つけたからビッグロックと名付けられている。
ちなみにキングスキャニオンっぽい方はガルーキャニオンと呼ばれている。
「100キロ!? じゃあ今日はビッグロックの探検は無理だね!」
俺たちが今、ジョギングする程度の速度が軽く走る自転車の速度くらい……の時速10キロメートルくらいだから単純計算で10時間もかかる道のりだ。
速度を維持しながら敵と戦っても遅れをとらず継続して走れる速度限界は時速20~25キロくらいに思える。
これは6人で走った時の場合で、俺と今宵はもっと早くても問題はないけどね。
時速20キロで走っても5時間か~。
17時か18時にビッグロック下に着く計算になる。
そこから登ると考えると少なくても時速25キロで走る必要があるな。
「今日の元々の目標は一直線に12階層に入って、魔法陣まで到達する事だったんだけど午前中は11階層で訓練したからね」
「あー。私たちのせいだねー。ごめーんね?」
七海さん俺を上目遣いで見つめて謝ってくる。
天然なのか養殖なのかで評価が分かれますぞ!
いやどっちにしてもあざと可愛いから良いのか?
「ふふっ。そこでですよ! さっちゃんのスタミナポーションを使えば頑張ればきっと夜になる前に到着できる!」
距離の話で無理だとなった時にさっちゃんが俺の方をチラチラと見てアピールしてきていた。
勿論わかっていましたとも。
「おおー!」
葉月さんが声をあげながらパチパチと拍手する。
「さすがさっちゃん!」 「うんうん」
今宵とキィちゃんもさっちゃんのポーションを称賛している。
でもあれを見せてもらった時に色が黄色だったから、俺からしたら黄金水……さっちゃん聖水にしかみえないんだよなぁ。
「とりあえず先にここにどんな敵が出るかを共有してから行こう。平地にはラダックというラクダに似た魔獣と草木の茂みにガラドク蛇という毒蛇がいるから気を付けて。ビッグロックにはハーピー。基本ここまでしか戦わないはずだけど、ガルーキャニオン側の砂漠地帯にはワームもいるから覚えといてね」
「「はーい」」
「じゃあ走るよー。今宵、蛇とラダックいたら一応1匹目は止まってみんなでそれを確認するから殺すなよ」
「ほーい」
今宵には注意しておかないと首狩り族になる癖があるからね。
俺たちはそう言うと走り出した。
「お、あの茂みに何かいる。恐らくガラドク蛇だな。みんな一旦停止」
急に止まると体力を余計に消耗するので俺は少し早めに、居場所を指さしてゆっくりと速度を落として茂みの前で停止する。
「んー? どこにもいないー?」
七海さんは用心しながら茂みをみるが発見できていないようだ。
俺も見ただけではわからない。
「気配察知には反応があるんだけどな。擬態かな?」
「えいっ!」
俺が話をしていると、今宵がアイテムボックスからおもむろにクナイを取り出して茂みに投げ入れた。
コイツ絶対に投げたくてうずうずしていただろ。
いつするの? 今でしょ! とか思ったろ! なんかそんなドヤ空気を感じるんですけど。
キシャァ!
「ひぃ」
今宵のクナイに反応したガラドク蛇は、さっちゃん目掛けて飛びかかってきた。
驚きと不意を突かれてさっちゃんの動きがワンテンポ遅れた事から、俺が対処しようとするが……、
シュピン
俺より素早く駆け寄った今宵がなぜか持ってる小太刀(
そして鞘に小太刀を収めこちらを見てニヤリとする。
ちょっとだけ斬った後に間があったのは「つまらぬものを斬ってしまった」とかどうせ思ってたんだろ。
「今宵ちゃんすごい!」
さっちゃんとキイちゃんが今宵に駆け寄って二人でキャッキャし始める。
「てかその小太刀はどうしたんだ? 買ったのか?」
そういえばレンタルしていた剣はマコト達に貸したままだったがそろそろ資金は貯まっただろうか?
まあまだなら、あの3人の剣でも渡せばいいか。
お金が貯まったのにレンタルしたままというのも気持ちが悪いから今度返却をしに行こう。
剣帯ベルトも借り物だからそれも買わないとダメか。
「この忍刀は形から入るために買っておいた!」
こいつハッキリと形から入るためにとか言いやがったぞ。
でもお前は東校の制服じゃん?
形からならくノ一のコスプレの方がそれっぽくないか?
ついでにそれ忍刀じゃなくて小太刀だからな。
だって少し反ってるし
刃物を自由に買いクナイをオーダーメイドする中学生。ヤバいな。
「まあ良いけど。クナイのタイミングは良かったけど、こだ……忍刀はちゃんと考えて使えよ。敵が硬い場合とかはミスにつながるぞ」
「ほーい」
「あ、それとその蛇の血は猛毒だからクリーンで血のりをとるんだぞ」
「えっ」
忍刀を振って血を落とそうとした今宵が声をあげる。
近くにキイちゃんとさっちゃんもいるからね。
危なかったね。
「あ、今宵ちゃん。クリーンを出来たら私にもかけて~。さっきガラドク蛇が来た時にビックリしちゃって(ぼそ」
「いいよー。ほいっ! クリーン」
「ありがと!」
さっちゃんと今宵がなにかやっているが……。
いやさっちゃんは生活魔法を覚えてていたはず。
今宵に綺麗にしてもらうプレイか何かなの!?
「ちょっと、蒼月君。それを一番先に今宵ちゃんに言わなきゃダメでしょー」
七海さんが俺の助言がおかしいと言ってくる。
そうなんだけどさぁ。
忍者ゴッコを見せられていたからついね。
「しかしほんとに何処にいるか分からなかったね!」
それなー。
気配察知や魔力感知の訓練に持ってこいかもしれない。
「気配察知とか魔力感知、もしかしたら空間把握とかの訓練にも使えるかもしれない」
「じゃあ次はここで訓練かなー。さっちゃーん。スタミナポーションって経費どれくらいかかるー? いくらか作って売ってほしいんだけどー」
「私も!」
「ビン代くらいです。 後は水に魔力をこめるだけなので」
俺も持っておきたいし父さんたちもほしいだろうから声をかける。
「俺もほしいし、父さんたちもほしいと思うから作ってもらえる? 勿論、ちゃんと買うからね」
タダで良いですよというさっちゃんを押し切り、俺たちはスタミナポーションをさっちゃんに作ってもらう事になったのだった。
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