第53話 ヅカジェンヌ
俺達は休憩を取り終わり、10階層のボスに1度挑みに行こうという話になった。
「俺だけで一度倒した事はあるが、ダメージが通りにくかった。動きはそこまで早くはないが、受けると大ダメージもあり得るから避けるんだぞ」
「えー、お兄ちゃんは倒した事があるんだ。わかった、避けるよ」
そう言うと、今宵は反復横飛びを始め手に印を結ぶ。
忍者がする、九字護身法ってやつだろうか。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
おおっ 何か凄いぞ。
ざ、残像で分身しているように見える!
「お、おおっ。ジョブで何かNINJAの技でも覚えたのか?」
「え? ううん? 雰囲気? 避けまくれてる感じしない?」
んん?
それは敵を想定したシャドーボクシング的なものなの?
避けてる想像?
でもそれ、九字は切ってるけど反復横跳びだよね?
「敵の想像をして避けたりしてる感じ?」
「え? ううん? 反復横跳びだよ」
やっぱりただの反復横跳びなんじゃねーか!
まあでもなんか凄そうな雰囲気は確かにあるが、でもそれって九字がカッコいいからだよね。
「そ、そうか。そろそろ行くぞ。アレだ。忍者走りしてよ。ナ〇トで両手を後ろに伸ばして走るやつ。あれ忍者っぽいじゃん」
「あー、お兄ちゃん。ちゃんと現実を見なよ。走るのを早くするには腕を大きく振って上半身を屈めて腿を上げないとダメなんだよ。スポーツ科学に逆らっちゃダメ」
えぇ~。
さっきまで忍者っぽいでしょって反復横跳びで遊んでたよね?
「くっ。そうかもしれないけど、忍び足で走るのに腿を大きくあげたり腕を振ったら音が出やすくなるぞ」
「まぁね~」
そこは同意するのかよ! それならナ〇ト走りもあり得るじゃねーか!
「まあ良い、行くぞ」
「ほーい」
向かう最中にいくらか魔獣の気配は感じたが、そこへ行って倒す事もせず10階層を目指したので直ぐに10階層へ移動するための魔法陣の前に到着した。
「よし、最初にミノタウロスは咆哮して威圧してくる。一瞬身体が硬直するがパニックにならないように」
「うん」
「行くぞ!」
俺たちは気合を入れ10階層に移動するが、ミノタウロスはいなかった。
「あれ? お兄ちゃんボスいないよ?」
そうだった。一度倒されると10時間は沸かないんだった。
「既に誰かに倒されてたみたいだな。忘れてたけど一度倒すと10時間は沸かないんだった」
「もーぅ。気合入れてたのに~」
「まぁまぁ」
ボス戦だ! って挑んだら敵がいないとか確かに憤るのもわかる。
あ、そう言えば憤るで思い出したけど、怒るの類語で憤るがあるが、Weblio類語辞書の怒るの類語リストの中に今、「激おこプンプン丸になる」が辞書登録されてるのって知ってた?
学校の課題で調べてたら載ってて俺は目を疑ったよってミノタウロスがいない可能性を忘れていたのを逃避しても仕方ないか。
「休憩したばっかりだけど、少し集中きれたな。一度魔法陣転移で1階に戻ってオーク売りに行くか?」
「そうだね。そうしよう」
俺も集中が切れたので休憩したばかりだが、気分転換をする事にした。
「魔法陣転移はパーティメンバーが空間魔法持ちで移動したい階層を思い浮かべてやってもパーティで飛べるか知りたいから今宵試してみてくれ」
「わかったー。空間魔法を使う感じで魔力を意識して流して階層を思い浮かべるんだっけ。行くよ」
「OK]
そうやり取りすると俺達は10階層の魔法陣に乗ると、数瞬の後に魔法陣が光って移動が完了する。
「お、空間魔法持ちがリーダーになってなくても飛べるみたいだな」
「おー、上手く行ったね」
「じゃあ一気に入口まで戻って企業買取所の方に行くぞ」
「ほーい」
「こんにちはー。オークの買取お願いします」
「お、いらっしゃい。こっちで出してくれ」
俺は指示通りの場所で2匹のオークを出現させる。
「おー、やっぱり便利だな、アイテムボックス。2匹も入るとは。しかも処理がほぼ完璧だ」
「人前では使いづらいのが難点ですけどね」
「まあ、そこは嫉妬されるのは仕方がないな」
ですよねー。
処理が出来ているので今日中には査定が終わると言う話を聞いて、俺たちは外にでた。
「今宵、制服のサイズ直しが出来てるはずなのを思い出したから、一度学校に行こう」
「私の服がもう一着増えるんだったね!」
男用でしかもズボンだから着れるのだろうか。
「男用なんだから期待はするなよ」
「楽しみー」
「すみません、3日前に制服をリサイズしてもらってるのを取りに来たんですがー。これ、サイズ直しの控えです」
「はーい、ちょっと待ってね」
俺はサイズ直しの控え(引換券)を事務所の人に渡すと、服を取りに行ってもらった。
「はい、これね。1着だけサイズ一番小さいサイズになっているけど間違ってない?」
「あ、大丈夫です。妹のなんで」
「え? でもこれズボンじゃ。最近、話題のLGBTかしら(ボソッ」
いえ、それが違うんですよ。ジェンヌっぽい何かです。
「あ、お兄ちゃん今宵こっちに着替えてみる!」
俺が受け取ろうとしたSサイズを今宵が横から奪い取り更衣室に向かう。
ごそごそ
「じゃーん! ピッタリ。どう? 似合う?」
男用の制服に着替えた今宵が俺の前でターンを決める。
髪型も何故かこめかみからクルクルと両サイドに捻じり、後ろで合わせて止めて、下ろした髪をアップにして丸めているのか?
「なんか髪型が凄いな。思った以上に似合っててビックリだ」
「へへー。これギブソンタックって言うんだよ~」
そう言いながらくるっともう一度後ろを向いた。
「お、おお。可愛いお団子だな」
チッチッチっと言いながら何故か今宵がこちらを向いて人差し指を動かしている。
いやその指の動きと音は、ちょーっとだけなんかイラっとするな。
「お兄ちゃんそんな事じゃダメだよ? 女性の髪形はちゃんと褒めないと。お団子よりも手がかかってるの! ほらっ!」
そう言ってまた後ろを向くが……うーん、わからん。
「毛先を巻き込んでるでしょ!? ちょっと手が掛かってるの!」
いやそれは分かるよ、手が掛かってるってのはね。
でもそれ、お団子じゃん?
「は~。女心がわからないお兄ちゃんには仕方がないから魔法の言葉を教えよう。こういう髪型を見て見分けがつかなかったら、シニヨン似合ってるねって言っとけば万事OKだからね!」
俺は何もわかってない、がっかりだよ的な溜息を今宵が吐くと魔法の言葉を教えてくれた。
そして何か期待している目でこちらを見ている。
「お、シニヨンに髪型変えたのか。に、似合っているぞ」
「そうそう」
そう言うと、今宵はにこぱぁと笑った。
いやお前、シニヨンはフランス語でお団子って意味だからっ!
俺はそう思い、見た目30代前半くらいの事務所の女性に目を向けると、
「フォーマルな感じで似合ってますよ」
と言って今宵に声をかけた。
「ほらぁ、こういう事だよお兄ちゃん。これはフォーマル。お団子はカジュアル」
いや分からん。
その事務のお姉さんだって目が泳いでる気がするんだが?
絶対いい感じで言っただけだろ?
てか、ダンジョン探索に行くんだからカジュアルの普段使いが良いんじゃないの?
フォーマルだとパーティーだろ。
まああれだ、シニヨンってオシャレな感じで言えば喜ぶ事は理解した!
俺の女子力はレベルが上がったはずだ。
俺達は事務の女性に目礼をすると退出した。
そうだ、矜侍さんにパーティを組んでいるとパワーレベリングがやり易くなるのではって話と経験の話で別々の事をしていたらパーティ内でスキルを覚えるのが早くなるのでは? などと思った事を聞いておくか。
俺は少し今宵を待たせてメールをすると、今度は届いたようだった。
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