第52話 You are money!

 俺達は順調に階層を進む。現在は9階層の途中で今宵がオークを瞬殺した所だ。

 強い。ここに来るまでに、ホブゴブリン、ハイコボルド、オークと単体と集団のどちらも相手にしていたが、完封していた。


 「今宵、そのオークは綺麗に首を切断して倒しているからアイテムボックスに入れられるなら試してみたらどうだ?」


 「ん、やってみるね。……入れられたけど、ほぼ限界に近いかも?」


 「まあ、そんなもんかもな。俺で今は2匹入れられるかどうかって所だし」


 売る時には今宵のアイテムボックスはバレたくないので俺が売る事になるが、スペースを残しているのも勿体ない。


 「アイテムボックスは便利だが、秘匿性が高すぎて人前で使えないのが困るな。マジックバッグが買えれば良いんだが」


 マジックバッグは見た目より沢山物を入れる事が出来る空間魔法が施された物で、魔道具として発表された当初は、その危険性から持っていると国に監視される程だった。


 現在では銃や刀といったものと同じく警察署での所持許可証があれば、持つ事は可能だ。(ダンジョンで使用する銃や剣などの武器については探索者登録をすれば所持する事が出来る)


 「でもお兄ちゃん、マジックバッグって安いものでも1千万超えるんじゃないっけ?」


 「そうなんだよなぁ。しかも2人とも誤魔化す場合は2つは欲しいよな」


 「お家が買えそうだね……」


 「でも今宵、今アイテムボックスに入れたオークは30万くらいだぞ。俺も2匹持って帰れば、他の倒した魔石も合わせて売れば約100万……。10日で買えちゃうぞ」


 「えぇ? オークってそんなに高いの!?」


 「まあ倒し方にもよるみたいだけどな。さっきみたいに綺麗なら30万のはず」


 値段を聞いた今宵はふいにきょろきょろとし始め、そしてオークの反応を発見すると、


 「オーク発見! You are money! Thank you for the money~♪」


 いきなり英語を話しだし、それにリズムを付けて歌い始めた。歌いながらオークに近づくと首を一閃。


 首狩り族か何かかな? 

 今日の朝に今宵がしていた決意表明ってこういう事? 

 しかも歌っている内容が「あなたはお金、お金をありがとぅ~♪」ってずいぶん俗物的になっちゃったね? 

 お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えが……と現実逃避していると今宵が戻って来て俺に言う。


 「お兄ちゃんも一緒に~♪ さん、はい!」


 「「You are money!あなたはお金! Thank you for the moneyお金をありがとう~♪~♪ 」」


 「once moreもう1回!」


 「「You are money!あなたはお金! Thank you for the moneyお金をありがとう~♪~♪ 」」


 二人で小躍りしながら、リズムに乗って俗物的な今宵作詞作曲の歌を歌っていると何故か分からないが楽しくなってきた。

 ここダンジョンの9階だけどね?


 ひとしきり二人で歌って踊り、冷静になると恥ずかしい。

 いや、今宵は全然恥ずかしがってないな。


 所で「さん、ハイ!」って「いち・に・さん・はいっ!」の略なのかな? 

 4拍子。音楽の授業とか合唱、合奏で聞くよね? え? 聞かない?


 今宵がYou are moneyって歌いだす時に一瞬、肩を毎回上げるんだが、あれって音楽用語的に言うと「ザッツを出してる」のかな? 

 パートリーダーが入りのタイミングを合わせるためにやるやつ。

 今宵の肩が動く度に俺も歌いだしそうになって困る。


 そんな事を思いながら今宵の小躍りを見ていると、私気づいちゃったと言う風な顔をして話しかけてきた。


 「お兄ちゃん! 10日で貯めれらるって言ってたけど魔法陣の転移を使えば1階層から直ぐに来られるし30分から1時間に1回90万ゲットできるんじゃ?」


 確かに! 

 もしかして1日で1000万稼げちゃう? 半日でオーク34匹を持って帰れば……。

 いや、流石に量がおかしすぎるわ!


 「半日で約30匹も買取してもらっていたら明らかにおかしいぞ。ギルドと企業買取で半分に分ければ15匹……ってこれでも異常だから無理かも?」


 3匹で2トン弱はあるだろうし、時間的にも確実にアイテムボックスと転移を疑われそう。

 と言うか2匹は俺が企業の買取所で売るとしても、今宵分のもう1匹を直ぐに持って行くのもおかしいし、ギルドで買取の場合だとしてもこの間買ったリアカーでは1匹丸々は載せられない。

 もっと言えばマジックバッグを買っても、結局それに入る量しか売れないなら、偽装のためってだけでマジックバッグは空けておく必要がある事に気づく。


 「えー、折角閃いたと思ったのになぁ」


 「それ以前に3匹すら厳しい事が判明した。今宵の1匹をどうやって買取所に持って行くんだって話。俺が先に2匹を売って、直ぐにもう1匹は流石におかしい。1匹丸々積めるリヤカーを新しく買ったとしてもダンジョンの中を積んで移動していないのは直ぐにバレルぞ」


 「むむぅ」


 今宵はぷくぅと頬を膨らませて唸っている。


 「お金を稼ぐ方法は後で考えようMetuberって手もあるし」


 「え? 今宵バズっちゃう?」


 まあ今宵なら普通にバズりそうだけどね。


 「いや、顔出しはダメだろ。お、オークの気配」(You are money! Thank you for the money~♪)


 俺は今宵が倒したオークをアイテムボックスにしまうと、脳内で歌いながら新たに感じたオークの気配を辿って倒しそれもしまう。


 「13時過ぎか。ちょっと何か腹に入れて休憩しよう」


 「うん」


 いつの間にか昼を過ぎて活動していた俺たちは、休息をとる事にしたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る